大海原で 公演情報 大海原で」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 満足度★★★★

    アイロニー
     ムロジェックという作家は初めて出会ったが、ポーランド出身ということで、今作にある矛盾というか不条理(まさしく馬鹿げていることという意味で)は、ポーランドの分割に関わると解すると非常に面白く取れるだろう。主たる登場人物3人も無論、様々な階級、階層の象徴乃至は寓意と読むのである。(追記2014.4.7)

    ネタバレBOX

     郵便局長は、ハプスブルグ家とつるんだロスチャイルドを表すかも知れない。執事も何か貴族というよりは、滅びゆく貴族体制・封建制そのものを暗示している可能性もある。旧態依然とした封建制は新時代、新状況に対応出来ずに滅びた者が居た半面、衣裳を変え、要領よく立ち回るのみならず、大衆を操作し、新興ブルジョワジーとしても覇権を握る貴族も居たのであろう。それがここに登場する伯爵タイプと解することも可能なのである。
     実際、フランス革命が起こって多くの貴族がギロチンの露と消えたフランスにあってさえ、ボールペンで有名なビックは男爵であり、ド・ビルパン元外相も貴族出身、サルトルの妻となったシモンヌ・ド・ボーボワールも貴族出身である。このように、ヨーロッパで現在実業家や政治家、知識人として活躍する人物の中にも貴族出身者は多いのが実情である。因みに、オーストリア・ハンガリー帝国を支配したハプスブルグ家は、ブルボン家などと並ぶ、ヨーロッパの名家・王家でもある。ロスチャイルドはユダヤ人として初めて男爵位をハプスブルグ家から与えられた。そして、銀行のみならず王侯貴族間の郵送を請け負い、絶大な信頼を得ていた。第一次世界大戦前と世界大戦に於いて、戦争の帰趨を制するのは、ロスチャイルド家の財力だと言われた程の大ブルジョアに成長したきっかけは無論ワーテルローの戦いでナポレオンの敗北をいち早く知ったネイサン・ロスチャイルドがロンドン市場で大儲けをしたからだ。この情報伝達のスピードは当時、世界一、正確さも世界一であったというべきであろう。情報の意味する所をネイサンは知っていたということだ。日本の馬鹿な為政者に爪の垢を煎じて飲ませたい所だ。
     おっと話が横道に逸れた。キチンと調べたわけではないから、以下に書くことは読者諸氏が検証して欲しい。
     まず、この作品の粗筋から説明しておこう。
    嵐に遭って船が沈没した。逃げ延びたのは3人。筏に乗ることはできたものの、漂流している。腹が減る。確かまだグリーンピースを添えた肉の缶詰があったとある者が言うと、否、食糧は全然残っていないと強硬に主張する者があって結局、皆その前提で話を進めることになった。食べたい。そこへ先ほど、強硬な主張を通した者が「生き物を食べなければならない」と不気味な宣言をする。これは、食糧は他の生き物だという事実を指すと同時に3人のうちの誰かを指すのは、明白なWミーニングである。3人は、協議をする。希望を募ったりするが、名乗り出る馬鹿が居る訳は無い。そこで、くじ引きをすることになったが、3人しかいないのに4票投票されたと強硬な主張をしていた者が言い、無効に。そこで、文明人として投票で決めることにした。一種の選挙である。選挙である以上、其々の主張を述べ、それを基に判断し投票しようということになった。要領の最も悪い奴が餌食候補として他の2人に狙われる。要領の悪い男は、女房・子供がいるとか泣き落としエクスキューズで訴えたのに対し、次の男は、料理が上手だとアピールして見せる。次の男も上手に言い逃れをする。誰が要領が良く、誰が悪いかは、これまでの流れで分かっているから、その辺りは、自然に2対1になる。さて、2人組は、孤児で、今迄散々辛酸を嘗めたと話を合わせ、1人を追い込む。そこへ、郵便屋が泳いで郵便物を届けに来る。その後、執事がやってきて、2人組の1人に伯爵と呼び掛け、船が沈没したと聞いて、心配をしていた云々。伯爵は邪魔なので「消えろ」と命じて執事を追っ払うが、それまでの間に、最も要領の悪い男をなだめすかして死ぬ気にさせている。おまけに、実は缶詰も見付かるのだが。伯爵は、缶詰など好みではない。といった内容だ。
     当然のことながら、誰もが、泳いで人が漂流筏に辿りつくことができるなら、餓える心配等無いと考える。だが、作家がそんなバカなことを書く訳が無い。そこで、自分は、上にも少し触れたように、とんでもなくアイロニカルな作品だと解したのだ。自分はポーランドが独ソによって分割された頃の話として解釈した。
     伯爵は、上にも書いておいたような要領の良い貴族を。要領の最も悪い男は、無知蒙昧な大衆を、そして伯爵と共に、要領の悪い男を殺そうとしていたのは、右往左往しつつも何とか有利な位置を採りつつ内心忸怩たるインテリ層を表しているのではないだろうか? 岸近くを漂流しているのに、実際に、食糧難によるカニバリスムに至る状況が描かれるのは、分割されるポーランドに対し、何ら援助の手も、国際法上の正義も履行しようとしなかったヨーロッパ列強を意味しているのではあるまいか? 

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