満足度★★
笑えて怖い『砂女』
人がある共同体に否応無く取り込まれていく様を描いた安部公房の名作の舞台化で、アングラ的雰囲気を盛り込みつつ、かなり原作に忠実な作品でした。
昆虫採集のに為にやって来た男が、女一人で住む家に案内され、逃げることの出来ない状況が映像を多用しながら描かれて、アンサンブルの役者達が所々で現れて男が居なくなった世界を見せていました。
新聞が出てくるシーンに絡めて、最近のニュースを読みあげて物語の内容が現在にも通じることを示していたのは説明的に過ぎると思いました。
映像が凹凸のあるセットに対して投影されることを考慮されていなくて、文字が読み難かったのが残念でした。映像の内容はレトロ感を狙ったのだと思いますが中途半端に感じられました。
音の使い方も大袈裟に感じられました。
出演者は多いものの実質は2人芝居に近く、主役の2人は全裸になったり激しい動きがあったりと体を張った熱演でしたが、演技がオーバーに感じられて物語の世界に入り込み難かったです。
女のキャラクター造形が小説を読んでイメージしていたものより、元気な感じで所々で笑いを誘っていましたが、個人的には違和感を覚えました。
『砂男』の主要な役を演じた2人がこの作品でもメインキャラクターを演じていて、別世界に誘い込む女とそれに惑わされる男という関係が重ね合わされていて、時代も国も異なる小説の繋がりが感じられたのが興味深かったです。
満足度★★★
迷宮的な『砂男』
自動人形に恋してしまった男の奇妙な物語が癖の強い演出で描かれ、天野天街さんはらではの不思議な世界観に引き込まれました。
主人公の男が妄想する2人の男、コッペリウスと砂男の名が互いにしりとり的に循環して繋がることが台詞やシーンの構成に反映されていて、大半の台詞が最後の1音あるいは2音が次の台詞の1音あるいは2音と同じ音で重ねて発語されるという凝った脚本が迷宮的な雰囲気を醸し出していました。開演前のアナウンスに物語の世界が侵蝕して来て畳み掛ける様に展開する冒頭部分が印象的でした。
原作には無い科学用語を織り込むことによって、自動人形がアニメキャラに代表される現代におけるヴァーチャルな存在と重ね合わさって見えたのが興味深かったです。
役者の演技に録音の台詞、映像、美術、チェロの生演奏を含む音が複雑に絡み合い、迷宮に入り込んだような感覚がありました。
巧みな明転と暗転のタイミングで高い所からに落下した様に見せたり、人が瞬時に消えたり現れたりするように見せる、イリュージョン的な演出が楽しかったです。
何度も同じ事を繰り返したり、複数人で途切れなく台詞を繋いで行ったりと技術的に大変なことをしている為か、台詞を噛んだり言い回しが怪しくなったりすることが目立ったのが残念でした。
満足度★★★★
初日に両方拝見
「砂男」は原作を批評する演出家の視点があらわれていて面白かったです。「砂女」は安部公房作『砂の女』に忠実で、小劇場演劇ならではの作品でした。詳しい感想はトラックバックしています。