ジゼル 公演情報 ジゼル」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.7
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  • 満足度★★★★

    『ジゼル』の名手,アンナ・パヴロワ,オリガ・スペシフツェワ,アリシア・マルコワ
    『ジゼル』の名手,アンナ・パヴロワ,オリガ・スペシフツェワ,アリシア・マルコワ

    鈴木晶『バレリーナの肖像』の中では,『ジゼル』を得意とし,それが当たり役になったバレリーナは,三人いた。アンナ・パヴロワ(1881-1931),オリガ・スペシフツェワ(1895-1991),アリシア・マルコワ(1910-2004)である。彼女たちに共通の特徴は,小顔で,手足が細く長く美しい。

    『ジゼル』のような物語性を重視し,演技力も必要とするバレエは,やがて,チャイコフスキーの作品に代表されるクラシック・バレエにその場所を譲る。さらに,ディアギレフとニジンスキーによるバレエ・リュスの革命で,完全に忘れさられるかに思えるが,実は,『ジゼル』は,しぶとく生き残り,世界中で愛され,子どもたちの学ぶ古典となっていく。

    芸術の芸術たるゆえんは,絶え間ない創造,であろうから,実験主義・前衛主義は必然なのかもしれない。そのことを,チェーホフは,『かもめ』の中で描いている。新しく追求する姿は,どことなく滑稽でもあり,最初理解されないものにちがいない。とりわけ,バレエというものは,総合芸術をめざして,一番大きく変化した芸術であり,複雑である。

    クラシック・バレエが,『ジゼル』などと格段にちがう世界になってしまったのは,チャイコフスキーなどの音楽が,高度で複雑,ハイレベルな域に到達してしまったことが,演技を相対的に幼稚なものに見せてしまったこと。さらに,ニジンスキーなどに象徴的に示されるように,男性のバレエが力強く魅力的だったことは,ロマンチック・バレエをぶち壊してしまったこと。そういったことが,あるかと思われる。

    なにゆえにであろうか,『ジゼル』は,今度は簡単に消えなかった。おそらく『ジゼル』は,くりかえし上演され,クラシック・バレエや,バレエ・リュスの革命に刺激されて,洗練されたものに変化していったのだ。

    パヴロワが,チュチュで踊った写真には,「Anna Pavlova in Giselle wearing a Romantic Tutu.」と書かれていた。バレリーナが,『ジゼル』を演じた時の写真には,魅力的なものが多いと思う。

    ディアギレフとは,何者であろうか。彼は,チェーホフの『桜の園』さながらの世界に生きた没落貴族集団の一員である。また,オスカー・ワイルドと同様に,同性愛者としても有名である。芸術は,その過程はともかく出来が良ければいいので,彼らが,文学者として,バレエ革命家として優れていることは,十分認識しないといけない。

    ディアギレフの伝記を読むと,最初から,バレエに重大な関心を持っていた人ではない。過去の絵画を蒐集することが,その目録を作ることが,一番の仕事であった時期がある。その後,絵画的な感覚,ピアノを弾き作曲できるなどマルチな能力がバレエ革命家として,開花する。

    パヴロワは,ディアギレフの近くにいたバレリーナではあるが,実験主義・前衛主義を嫌っている。むしろ,過去の『ジゼル』などの素朴な物語に,比較的シンプルな音楽,そして,技術的には,正統的で,超高度・ウルトラの技巧に走らない,そういう世界が好きだった。そこでこそ,自分たち女性,バレリーナの美しさが輝くのだ。

    オリガ・スペシフツェワ(1895-1991)は,タマラ・カルサヴィーナと,パヴロワと並んで,20世紀初頭の三大バレリーナといわれる。オリガの美貌に,実の母親も嫉妬した。孤児院に預けられ,後に,マリインスキー劇場の舞踏学校に入る。1919年,オリガは,『ジゼル』を踊る。『ジゼル』は,そもそも,心理葛藤のドラマでもあるので,神経質なオリガにはうってつけの作品だったようだ。『サロメの悲劇』もおそらく適役だったに違いない。95歳まで生きたが,精神病院に長く収容されていた。

    アリシア・マルコワ(1910-2004)は,マコーヴァと言う愛称を持つ。ロンドンに生まれ,巷のバレエ教室で頭角を現していく。児童福祉法などの拘束があって,10歳になってやっと舞台に立つ。親子でパブロワを崇拝していたが,やがて,ディアギレフに見出される。ディアギレフは,同性愛者なので,女性に興味はなく,さらに,子ども嫌いだったらしい。しかし,マルコワの才能は認めていた。

    1924年,マルコワは,14歳でバレエ・リュスの最年少ダンサーとなった。1929年,ディアギレフは,18歳になったマルコワのバレリーナ昇格を決める。マルコワに,『ジゼル』を踊らせようとする。その夏,ディアギレフは死んでしまった。

    マルコワは,驚異的な記憶力の持ち主で,一度で振付を覚えてしまうことができたと言う。マルコワは,手足が,並はずれて長く,顔も小さかった。一番の当たり役になったのは,やはり『ジゼル』であった。現在,ビデオ『ジゼルの肖像』に少し面影が残っている。94歳で亡くなる。

    参考文献:バレリーナの肖像(鈴木晶),ディアギレフ:芸術に捧げた生涯(みすず書房)

  • 満足度★★★★★

    『ジゼル』は,現代の不倫問題にも該当し,解釈によっては悲劇にもなる。
    『ジゼル』は,現代の不倫問題にも該当し,解釈によっては悲劇にもなる。

    タリオーニとエルスラーの時代は去った。カルロッタ・グリジの時代が来た。彼女は,7歳からバレエをやっている。15歳になったとき,24際だったジュール・ペローと出会う。ペローは,バレエの指導者として優秀で,その様子は,名画ドガ『踊り子』に残されている。当時,メートル・ド・バレエは,ジャン・コラーリであった。『ジゼル』を誰が振付するか。プリ・マドンナであったグリジは,振付もやっていた恋人ペローのいいなりであった。そのために,『ジゼル』の振付は,記録としては,ジャン・コラーリとなっているが,実際には,ジュール・ペローの振付である。

    グリジは,ドニゼッティのオペラでのバレエ・シーンが,初舞台であった。五幕でなく二幕の『ジゼル』は,グリジには取り組み易く,彼女を有名にした。原題は,『Giselle, ou Les Wills』で,1842年,ボードレールも崇拝する文学者テオフィル・ゴーチエが,書き下ろしたものである。ゴーチエの作品としては,もう一つ『バラの精霊』がある。ハイネの民話からヒントを得て,ユーゴー作品中の舞踏会も参考にしている。ゴーチエ同様に,バレエ好きなアダンは音楽を担当した。アダンは,視覚的に,踊り子の足を見ることが快感であったことを告白している。

    『ジゼル』は,ロマンチック・バレエなので,異国趣味の,妖精物語。淡いはかない貴族と,村娘の恋という以上の意図はなかった。しかし,これが,すぐに,ロシアに渡り改訂され,フランスで上演されなくなっても,人気を得ていく。1884年頃,マリウス・プティパが大規模に作品を手直ししている。貴族のきまぐれな恋の物語は,『フィガロの結婚』『二都物語』も同様である。しかし,『ジゼル』は,現代の不倫問題にも該当し,解釈によっては悲劇にもなる。


    以下,ストーリーを追うと,

    村娘ジゼルの笑顔は,人を引きつける。彼女は,ダンスがとても上手である。あるとき,とおりすがりの男は,この娘に出会い恋に落ちた。しかし,彼には,許婚がすでにいた。そのことを隠しても,娘に近付きたくなって,アルブレヒトは転落していく。

    村娘ジゼルのことを村で一番想っていたヒラリオンは,アルブレヒトの許婚であるバディルドと,彼女の父親を,無理やり密会の現場に引きずり出す。愛するアルブレヒトに許婚がいたことに衝撃を受けたジゼルは,もはや生きている希望を失ってしまうのである。

    村には言い伝えがあった。恋に盲目となり,身を滅ばした者は,妖精となって,暗い森を彷徨う。娘たちをだました男がその森を訪れたら,妖精は復讐をすれば良い。皆でからかってやるといい。祝宴を催し,酒をのませ,毒牙にかけて,ダンスの相手をさせるのだ。妖精には,疲れという言葉は存在しない。だから,妖精たちが気の済むまで,ダンスの相手したまぬけな男たちは,気が狂うか,絶命してしまうしかないのだ。

    ある日,ジゼルたちの祝宴には,二人の懐かしい顔があった。ひとりは,一方的に自分にのぼせあがって,挙句に,アルブレヒトと自分の恋を見事に引き裂いた,ヒラリオンである。もう一人は,村にたまたま寄ったために,自分のダンスを見て,自分の美に釘付けになり,はからずも恋に落ちたアルブレヒトだった。妖精たちの判断は,まず,ヒラリオンを死ぬまで踊らせて,目的を果たす。しかし,次なる標的のアルブレヒトには,ジゼルはなんの恨みも抱いていなかった。しいていえば,許婚の存在を明かさなかったことだ。ただ,最初にそのような男を誘惑したのも自分であり,恨む筋合いでもなかったのだ。この男に,本当に罰を与えて良いものなのだろうか。

    というようなことになると,『ジゼル』は,きまぐれな貴族の遊びにされた恋という意味を失う。現代人の恋,不倫的な気持ちが起こるのは,自然なものか,許されざるものか,そいうシリアスな劇になる。

    ところで,『ジゼル』の時代は,靴も十分に完成されていない。技術を,足の筋肉で補うのが精一杯であった。『ジゼル』の少し前の,『ラ・シルフィールド』で,初めて爪先の利用,ポワントが出現する。鳥のように軽やかで地に足がついていないこと,これを示すために,どうしたら良いだろう。一回跳ぶあいだに二回交差して,元に戻ってみよう,これが,アントルシャ・カトルと呼ばれた。


    バレエの語幹bal-は,ラテン語の「踊り」を意味する。詩と音楽の融合,さらに,演劇・美術を加え,四つの要素から「バレエ」は生まれる。「バレリーナ」は,伊ballere「踊る」から来た。「マリー・タリオーニ」は史上最大のバレリーナだ。彼女は,北欧生まれのイタリア人であり,パリ・オペラ座の学校に入る。1830年,パリ民衆は,王政復古を嫌って,七月革命を起こす。ここで,パリ・オペラ座は,ときの権力者の直轄機関から,民営企業にかわる。ルイ・ヴェロン総裁は,複雑な風俗コメディを捨てた。音楽・美術に優れ,ストーリーはシンプルだが,踊りが自然に流れ出て来るようなバレエを構築した。そこで,ヴェロンは,タリオーニに白羽の矢をたてた。歴史上,ロマンチック・バレエといわれるものは,このとき出現する。

    タリオーニは,風の精という当たり役を得る。 このドラマは,スコットランド大農園の子息が,許嫁との式直前に,風の精=シルフィードに心を奪われるという設定だ。風の精を一目みて,心奪われ,ジェームスは,許嫁エフィをすっぽかしてしまう。彼には,森の中で出会った妖精たちのことがどうしても忘れられなくなる。格別心を奪われたのは,シルフィードという名の妖精だ。妖精たちと,一晩中踊り,唄い,語らい,微笑みあっていた時間はあっと言う間に過ぎた。シルフィードは,妖精なので,その手に抱きしめることはできない。それは,わかっていた。悩んでいると,悪魔のささやきがあった。魔法使いマッジが,特別なスカーフをあげた。それでお好みの妖精を捕獲してしまえ。恋の炎に身も心も燃えつきてしまったジェームスは,そのようなことをすれば恐ろしいことが起こることは察知していたが,とうとう我慢できなくなる。ある日,宴が終わろうとするとき,突然,ジェームスは蛮行に及ぶ。たしかに,魔法使いマッジのいうとおり,妖精シルフィードを一度スカーフに絡みとることには成功する。だが,妖精シルフィードの羽根は,脆くも崩壊し,同時に,シルフィードの息も絶える。

    この上演は,その後のバレエ史上にはかり知れない影響を与える存在となっていく。最大の功罪は,バレエの名を一方で破格の地位に押し上げたという点。それと,女子ども向きのセンチメンタルで甘ったるいスペクタルとの評価を強めてしまったという点。情景設定が,異国であり,幻想的な要素を多分に含むものが,バレエであるという認識も確立された。白い薄もののスカートのコール・ド・バレエが定番となった。シルフィードの息の根を止めた「スカーフ」は,バレエ芸術に生命力を与えた。

    「ラ・シルフィード」が,1832年に初演された。マリー・タリオーニは,1837年にパリ・オペラ座を去る。彼女をスターにしたヴェロンは,彼女にライバルを与えた。パリ・オペラ座では,スターに独断場を決して与えない伝統があった。ここで,ファニー・エルスラーが抜擢された。彼女は,オーストリア人でロンドンにいたところを引き抜かれる。ヴァイオリンの名手に特訓を受ける。タリオーニは,宙を漂うように舞う。エルスラーは,しっかりと地についた踊り方をした。エルスラーは,タリオーニにとって手ごわいライバルとなった。エルスラーが,タリオーニの当たり役「ラ・シルフィード」を踊ると騒ぎになった。やがて,エルスラー自身は,アメリカに渡り大歓迎を受ける。パリ・オペラ座から,しばらくスターはいなくなった。


    参考文献:バレエの歴史(佐々木涼子)

  • 満足度★★★★★

    ロマンチック・バレエ『ジゼル』を見た。
    まだ,演劇・ミュージカルを観ることになって,二年とか三年とかしかならない。いまでも,何が好きなのかよくわからない。特に好きなものを決めて,そればかり見るのが良いとも思わないので,最近は,バレエなども見る。

    一か月ほど前,『不思議の国のアリス』を見た。これは,上野でフルオーケストラだったので,演出ほか素晴らしい体験ができた。清里で,自然の中で行うバレエが,どんなもんであるか,それが気になって『ジゼル』見ることになった。

    いつの日か,クラシック・バレエもいいとは思うけど,『ジゼル』のようなロマンチック・バレエが今の私には結構魅力的だ。むしろ最初,こういうストーリーがバレエの中に織り込まれているものが好きだ。それでは,演劇の部分と,ダンスの部分が,明確に区別されたクラシック・バレエ,たとえば『白鳥の湖』のようなものは,どう優れているのか。そのことは,またいつの日か,楽しみにしたい。

    清里『ジゼル』は,野外ステージで,広大な自然をバックに美しい演劇が見られた。昼間,練習風景も見ている。ほとんどがラフな格好をして,何度も指示されながら,懸命に練習しているのを見ると,自分の関係者のような気分になれる。その親近感のわいた集団が,夜間に幻想的なステージを次々に展開するのは,驚いた。ショー・アップされた『ジゼル』は,心にしみこんだ。

    ロマンチック・バレエなので,ストーリーがしっかり理解できた。ジゼルは,心ならずも結婚の約束をした彼女がいる貴族と恋に落ちる。そのことでは,両方とも問題がある。でも,二人が深く愛しあっていた様子は,美しいバレエのテクニックで見事に表現されていく。二幕しかない『ジゼル』は,後半がさらに凄い。森の墓場で,アルブレヒトは,ジゼルを懐かしく思い出す。すると,その声に森の妖精となったジゼルの幻想が,よみがえる。

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