おるがん選集 3 公演情報 おるがん選集 3」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-8件 / 8件中
  • 満足度★★★★★

    空間が生きる舞台
    看板がかかっていなければ、
    普通の民家と見紛う一軒家での公演でした。
    その一角を舞台に切り取って・・・。
    役者が紡ぐ空気の、様々な色に物語が織り上がっていく。

    このスペースでの、この役者達だからこそ生まれたであろう
    物語の解け方に、深く惹き込まれました。

    ネタバレBOX

    玄関のこじんまりした三和土で靴を脱ぎ入場。
    その時点から、家の風情が肌に伝わってくるよう。

    その空間が醸し出すたおやかさと、、
    友人宅に初めてお邪魔するような緊張感の中で
    開演を待ちます。

    ・『物語が、始まる』

    際立って狭い感じはしないのですが、
    中央にテーブが置かれていることもあり、
    どこかタイトな空間を中心としたお芝居・・・。
    そこに役者たちの細微な表現が空間を満たしていきます。

    冒頭から、「雛形」の存在が既知のごとくに語られて・・・。
    それがあるがごとくのものとしての空気が
    最初こそ、観る側に多少の違和感を与えるものの、
    男女の会話の肌触りが、
    場にSFのようなテイストを醸すこもとなく、
    重ねられて・・・。
    次第に女性と雛形と、そして男性との顛末として綴られていきます。

    まなざしで紡がれる、
    女性の内心の細微な揺らぎや変化に、
    強く深く取り込まれる。
    そのまなざしの先にあるものと、動きと、フォーカスと、強さと、色が、
    しなやかに移ろい、舞台上にあるものの、時の長さや、距離や、
    女性自身の刹那ごとの想いのありようを観る側に伝えてくれる。

    どこか音読みというか硬質な響きを持った単語、
    雛形の視線は、よく制御され、どこか一意に制御されつつ、
    そのものの、どこか削ぎ落された貫きと強さを場に差し込んで。

    雛形との時間に少しずつ染められ、
    揺蕩い移ろう女性の色の細微な変化が、
    重なり、女性の舫いが解け、
    やがて、男が実直に貫き続ける色から乖離していく。

    最初にそれが雛形と呼ばれたとき、
    無意識に「なんの??」と思っていて、
    でも、その存在が、
    次第に育ち、やがて女性を取り込み変え、
    女性自身に新たな視野を織り込み、
    やがて急速に勢いを失っていくというその姿に、
    なんだろ、季節ごとに時代というかトレンドを纏う
    姿が重なって・・・。
    あからさまさもなく、むしろやわらかくしなやかに、
    でも明らかに女性は時代に染められ、
    雛形に背を向けて自らの色のままにいる男の姿に、
    その姿が細微に映える。
    その時代に染まる、特に派手でもラディカルではない、
    むしろややコンサバティブにすら思える女性の
    自らの日々を生きる自然体の感覚が、
    鮮やかに伝わってくるのです。

    舞台が閉じるとき、
    どこか、奇想天外に思える物語に切り取られた、
    今の姿と、女性の今を歩む感覚と、
    そこに寄り添うことのできない男の姿が
    それぞれを担う役者たちの秀逸とともに
    しっかりと置かれていたことでした。

    ・痩せた背中

    そこにいる人間全員で
    客席のレイアウトを変えて二作目を・・・。
    なにか、スタッフ(役者の方)と一体になって
    ごとごとやる感じからやってくる、場の一体感も楽しい。

    物語は、父の葬儀に喪主として参列する男性の
    記憶の態で綴られていきます。
    その時間への引きこみ方に、
    シンプルでしたたかな作劇のキレがあって、
    一旦男の視座が観る側に定まると、
    それぞれのシーンの肌触りが
    しなやかに観る側に訪れてくる。

    父とひとりの女性をめぐるエピソード、
    3人で暮らしていた日々の記憶、
    奔放な父を待つ女のありようが、
    次第に女性自身を蝕み、やがて、あるカタストロフを迎えるまでの感触。
    そのことが父を変えて、女性に尽くすようになって・・・。
    そこには、女性自身の姿や千羽鶴から垣間見える、
    男にも知りえない男女の時間の存在があって・・・。

    その風景の伝聞だけではなく、
    風景に収まりきらない感覚が
    男の視座と時間が貫かれるなかで、観る側にも伝わってくる。
    さらには舞台にある彼女の恋人の存在に、
    観客を父と女性の物語に塗りこめてしまうことなく
    その顛末を俯瞰させる場の空気を醸し出す力があって。
    男が自ら身を置く男女のありようとの、
    重なりや異なりが、
    父と女性の関係を奇異な物語にすることなく
    むしろ、
    二人のの想いの深さや溢れだす情念に近いものを
    際立たせてもいくのです。

    女性の編み物をする姿が、男の恋人のそれと重なり
    男女に流れる時間を織り上げていく。
    女が、父親のための食事を窓から犬に投げ捨てるシーンがあって、
    でも、そこには一瞬の驚きがあっても、
    観る側には、微塵ほども突飛さにはならず、
    むしろ、女性の想いの底知れない深さこそが、
    観る側に焼付いていく。

    冒頭、観る側を物語に導いた男の親戚が、
    観る側を男の想いから引き戻して・・・。
    そこにある今に、
    父と女性が重ね、
    そして男と恋人が重ねていく時間の
    俯瞰がかさなって。

    なんだろ、上手く言えないのですが、
    幸せとか不幸せという範疇ではとても計りきれない、
    男と女の日々の感覚が残る。

    観終わって、
    印象に置かれたものが、
    きっとこの舞台でしか受け取りえない感覚であることを知りつつ、
    原作の小説を無性に読んでみたくなりました。

    *** ***

    帰り道、なにかとても贅沢をさせてもらった気分。
    手練れの作り手が、極上の役者を得て編み上げた時間に、
    さらに心に解ける芝居の余韻を感じながら、
    駅までの道のりが全く遠く感じられませんでした。



  • 満足度★★★★

    「小説を見せる」感覚
    観る文学または立体文学なオモムキ。
    片や原作を読んでおり、片や初演を観ていながらも、ディテールが記憶から飛んでいたので新鮮?(爆)
    そんな中、「痩せた背中」での回想場面の見せ方が独特と言うか、さりげなくヒントを見せて入るので「あ、そういうことね」とワカる、な感じ。
    また、「小説を見せる」な感覚で、原作の記述はこうなんだろうな、と想像できる気がしたと言うか、実際に思い浮かべてしまったりもして。

  • 20130503
    (^・ェ・^)「痩せた背中」がすごいすばらしかった

  • 満足度★★★

    ぴんとこない
    男だから?あまりぴんとこない。川上・鷺沢原作・ろば演出ってことで観劇前から危惧してたことではあるけれど・・。もっとも気になっていた5年ぶりらしい役者の演技がことのほか良かった(たぶん今回のゆきこ役にはまったのだろう)のとまちこ演じた役者がほぼ完璧だったのにセリフにあるとおり長い時間背中を見せてくれたのに背中が痩せて見えなかった(決して太いわけじゃなく・・)のが残念。

  • 満足度★★★★

    民家
    想像以上に民家だった(笑)
    「物語が、始まる」はもうひとつかな。
    もうちょっと生々しくてもいいんじゃないかと。
    「痩せた背中」は李千鶴が素晴らしいねぇ。
    原作は両方読んでいたので、
    そこを切って、そこを拾うのかと、
    なかなか興味深かった。

  • 満足度★★★★★

    トータルに面白く観られる作品
    中野と高円寺の中間になる普通の民家(通常はギャラリーやイベントスペースらしい)を利用して、短編小説を2本、芝居として上演する。川上弘美「物語が、始まる」は、川上らしい幻想的なストーリーを、不思議な感触を醸し出す佐野功、独特の美意識を溢れさせている田中沙織、現実感をしっかり担う根津茂尚の3人が巧みに演じる。面白い!休憩の間に席を移動して、室内の別の部分を舞台として上演されるのが、鷺沢萌「痩せた背中」。これは再演だが、脚本も演出もほとんど変えていないらしいのに、雰囲気が相当違う。やはりスペースの質感とか、役者の個性とかで、芝居は全く変わっていくのだな、と、改めて思う。こちらは、初めて間近で観る李千鶴の雰囲気に好感。スペースも含めて、見応えある作品(群)だった。観られる人は観ておいた方が良い。

  • 満足度★★★★

    さまざまな愛
    会場は高円寺の駅から10分ほど歩いた住宅街の小さな民家を改装したカフェ(?)。

    空気まで共有するような空間で演じられるそれぞれの愛の物語。息をつめるようにその世界に身を浸した。

    ネタバレBOX

    「物語が、はじまる」公園の砂場で拾ってきた雛型と暮らす女と雛型の間の、恋に似た慕情。女と恋人とのどこか歯がゆい関係と別れ。奇妙な寓意を含みつつ進む時間と生々しく繊細な感情が、手の届くくらいの距離で描かれていく。ダイニングテーブルの下に横たわる女と雛型。タオルケットからはみ出す女の髪と雛型の手が妙に生々しくてドキドキした。

    「痩せた背中」ただ好きだから、離れたくないから。ちゃぶ台がひとつ置かれただけのごく平凡な風景。身内の葬式で実家に帰り、喪服に着替える男。完成しない編み物をいつまでも続ける女。現在と過去が重なって、狂うほど誰かを待つ女の想いが特別なものではなく共感できるものとして描かれていく。

    窓の外から聞こえる車の音や鳥の鳴き声、犬が吠える声さえ、効果音のように聞こえた。
  • 満足度★★★

    犬がよく吠えてた
    面白い。どっちもチクチクくる。

    ネタバレBOX

    「物語が、始まる」
    一人暮らしのゆき子(田中沙織)が雛形の三郎(佐野功)を拾ってくる。ゆき子の恋人・本城(根津茂尚)はそれが気に入らない。二人は別れ、ゆき子は三郎とSEXを試すも失敗し、老化した三郎を元の場所へ返す…。

    三郎が指摘した通り、関係だけのゆき子と本城。本質的なつながりを求めるゆき子のつながりたいとする心。神経質そうな本城と表面的に丁寧なゆき子の関係性が面白かった。
    離れてると気にも留めない本城と離れると求めだすゆき子。人でない存在(見た目はれっきとした男性)の雛形を配置し、「関係だけ」の二人の心の暗い部分を浮き上がらせる。そして変わり、物語が始まったのか。
    静かな演技とセリフの調子が印象的。か細い二人の関係がいたたまれない気持ちにさせる舞台だった。


    「痩せた背中」
    父が死に、喪主を務めるため田舎に戻った亮司(酒巻誉洋)。そして後妻の町子(李千鶴)は、父が折った鶴を父にもとへ送ると話す…。

    女クセの悪かったと父、その父を待ち続け精神に異常をきたした町子。そんな町子のことを気にかける亮司。髪を切ってもらったり飯食べたりした生活を思い出す亮司が、ラストの折鶴シーンで町子を理解する。ちょっとだけ異様な人生を生きた平凡そうな男が女を理解する。そんなお話。

    亮司が町子の話を亮司の彼女である敦子(宍戸香那恵)に語るというスタイルがキモかな。亮司の自分の中に他人を入れない性質を理解している敦子が、亮司の話の町子を理解し同時に亮司のことも理解する。その演技がいい。


    二編とも、女性の心に焦点を当てた作品と思う。決して心地いいものでなく、生々しい感触の舞台に、なんか痛くなる感じがした。

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