満足度★★★★
遊び心溢れる『駈込ミ訴ヘ』
ジャージをパッチワークにしたような衣装に身を包み、タイトルそのままに駆け続ける中で独特の台詞回しと動きやポーズで進行し、馬鹿馬鹿しさと崇高さが同時に感じられる、独創性の高い作品でした。
暗闇の中にホイッスルの音が鳴り響いて始まり、緩い感じで駆け足を続けながら、ラップのようなリズムに乗せて特定の音だけを強調するスタイルで原作のテクストが順番を組み変えられながら語られ、キリストに対するユダの愛憎入り交じった悲痛な独白という内容でありながら、舞台上で行われるパフォーマンスには愛嬌があり、5人の役者達がとてもキュートに見えました。
バリトン歌手が登場してもなかなかステージ上でちゃんと歌わずにじらすのがユーモラスで楽しかったです。
一般的なドラマ性を排除した作りなのに、90分の間で全く飽きを感じさせない構成力が素晴らしかったです。終盤では、いわゆる感動的シーンとは全く異質なのに感動させられる、不思議な高揚感がありました。
「生れて来なかったほうが、よかった」という言葉に対して、「生まれて、すみません」という有名な言葉を引用したり、ずっと走っているシチュエーションが『走れメロス』を思わせたりと太宰治の他の作品を仄めかす遊び心が楽しかったです。
何度も流れる『特賞歌』=ヘンデルのオラトリオ『マカベウスのユダ』が、名前の一致、エルサレムに入ること、走ることといった、いくつものレイヤーで関連付けされていて、バラバラに見える様々な要素をひとつにまとめあげるコアとして機能していたのが見事でした。
美術や照明はシンプルで控え目ながら、時折とても美しいシーンを作り出していて印象的でした。
満足度★★
「声の演劇」で何がしたいのか
地点「駈込ミ訴ヘ」を観る。
勾配を付けた舞台や、照明と陰の演出は綺麗だった。
が、おかしな音節で言葉を区切り、イントネーションを変えて、言霊を殺して日本語としての伝達を放棄している。その分、音のリズムを楽しむでもなく、身体が魅力的というわけでもなく。1シーンならともかく、全編通してこれでは拷問のようだった。終盤、歌手がアリア風に歌うのがせめてもの救いだが、これにも役者のおかしな発語の台詞が被り、がっかり。
「声の演劇」で何がしたいのか、解らなかった。ましてや太宰やユダとか。
チラシのデザインが素晴らしく期待していたが、残念感満載。
見とどけました!
新作「駈込ミ訴へ」を観ました。声と発語衝動と身体の再構築。軽みのなかに横たわる重厚なモチーフ。物語の進行にあわせてというより舞台で繰り広げられる事象が沸点に達した瞬間、突如ドッと流しこまれる情報に圧倒されました。泣きそうになりました。
再演の「トカトントンと」が観られないのが残念です。