リーディングセッション『蠅取り紙ー山田家の5人兄妹』 公演情報 リーディングセッション『蠅取り紙ー山田家の5人兄妹』」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.5
1-4件 / 4件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2025/10/18 (土) 18:00

     「お母さん、ハワイから日帰りですか?」
    ハワイにいるはずの母が、朝起きたら家にいた。
    脛に傷持つ、いいトシした、山田家の5人兄妹が、三途の川を
    渡りかけている母を、必死で引き止めようとするという普通に考えたら、かなり心理的に怖い怪談とも言えるあらすじだった。
     しかし、朗読劇の上演を前から、劇場やスタッフの絶妙にアットホームで、どことなく懐かしい感じがしている上、朗読劇が始まると、生演奏や照明の当て方、登場人物たち同士の会話からどことなく不穏さや不気味さ、差し迫った危機意識が感じられず、段々本音がぶつかり合う人間味溢れる展開になっていく感じが大いに笑える場面も多くて、面白かった。
     5人兄妹全員、フリーターで劇団していたり、30代で教員という安定した職業に就いているものの独身だったり、編集の仕事しながら、彼氏と同棲していたり、相手に奥さんいるのに不倫して、奪って略奪婚していたりと、個性豊かで癖強過ぎる現実ではなかなかない深夜ドラマを絵に描いたような5人兄妹のエピソードが印象的過ぎて、脳裏に焼き付いた。
     しかし、そんな兄妹を持ったお母さんだし、若くはない良い大人が実家ぐらしだったりする兄妹もいて、ハワイに行って、病気になって、麻酔で眠る中、生きたまま、魂だけ幽体離脱して日本にいる兄妹たちの元に戻って来る程、子どもたちの将来を心配する気持ち、分からなくはないと感じた。
     しかし、幽体離脱して魂だけ戻ってきたのには、もっと違う兄妹たちに伝えておかなければいけないことがあったと言うような展開に、後半戦で一気になって、それも幽体離脱して魂だけになっているお母さんから、「お父さんにこのハワイに移住するぞって言われた時には、正直、あたしは困惑したわ。また、お父さんに振り回されるのかと思うと、この先までも自分の人生なのに、自由に出来ないのか、お父さんの為にまた我慢しないといけないのかと思うと嫌にもなったわ。でもね、お父さん、会社を定年迎えて退職した後、これまで仕事一筋の人だったから、定年退職後何をしたら良いのか分からなくなって、もぬけの殻のようになっていた時期があったでしょ。だから、あたしは、お父さんがハワイで一緒に暮らそう。おまえにはまた迷惑かけるかもしれん。すまん、でも付き合ってくれないか。あたしは、久しぶりにいつものお父さんらしい、新たな希望を見出して、キラキラと輝いて夢を語るお父さんを見たわ。その時、この人に一生付いていこうと思ったわ。あたしはこのハワイの土地が気に入ったから、でもお前たちの顔も時々は見たいから、東京にマンションを買って、時々日本に来つつ、ハワイにお父さんと移住することに決めたから。だからお前たちは、これからはあたしに頼らないでね。自分のことは自分でしなさいよ」と言うような言葉を言い残して、お母さんの幽体離脱した魂は消えていくというようなあり方に、観ている私たち観客も色々と考えさせられてしまった。

     幽体離脱したお母さんの魂だけ日本の5人兄妹たちがいる実家に戻ってくるというような、普通に考えたら結構怖い怪談要素の強めな話な筈なのに、どこか一昔前のブラウン管のTVから流れる家族ドラマを見ているような、何とも言えない懐かしさと泥臭さ、人間臭さ、綺麗事では済まないけれども、駄目駄目だけれども何処か憎めない感じの5人兄妹、何とも言えない人情味が流れていて、そういった5人兄妹と幽体離脱した魂だけのお母さんとの何とも噛み合わず、時に馬鹿馬鹿しくさえあるそういった家族の少し不気味で不思議さもある家族の話を暖かく描いていて、大いに笑えながらも、気付くと少しじんわりとする劇だった。

     役者も、立ったり、座ったり、出たり入ったりと本当に自由で、台本も途中で落としてしまって、その後拾うも、台本を見ずに台詞を喋っていたりと、従来の朗読劇のイメージと言うか、根本概念を壊していて、良い意味で新鮮だった。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白かった!アコーディオンの生演奏も得した気分。良かったです。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ストーリーも含めて、昭和の匂いが漂う舞台、楽しかったです!

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

     over40’sの 顔見世公演である。出し物は「蠅取り紙」飯島 早苗さん、鈴木 裕美さん作。開演前とリーディンング中の効果音はアコーデオンの生演奏が入る。尺は途中休憩を10分挟み2時間10分。華4つ☆

    ネタバレBOX

     物語は山田家の5人兄弟を中心としたホームドラマ。未だ蝿取り紙が使われていた昭和30年代頃の話も思い出話として出てくるからそれから兄弟が大人に成る頃迄の話と考えてよかろう。因みに蝿取り紙とはガムテープ程の幅の赤茶色の紙の両面に粘着剤を塗って蠅を捕る為に使われた紙。鮮魚等を扱う店頭では上から吊るし巻き芯を錘として用いた。未だ日本は貧しく1$は固定制で360円。令和の現在より総てが荒々しく活気に満ちており都内の祭りでも喧嘩神輿の風習が残り時折死者が出た。然し近所付き合いは盛んで子供たちは近所の道や広っぱで缶蹴りやビー玉、メンコ、ベーゴマからかくれんぼ、鬼ごっこ、縄跳び、だるまさんが転んだ、ままごと、戦争ごっこ、けん玉、相撲、野球、木登りなど何でもやって遊んだ、今より遥かに自由でゆるやか、大らかな時代であった。無論、時々子供同士の喧嘩はあったが、大人が止めに入ると、「子供の喧嘩に大人が口だすんじゃねえ!」と啖呵を切る子供さえ居た。世の中は今よりずっと暮らし易かった。下町の長屋では、朝布団を質屋に入れて働きに出る親も多かったが、味噌や醤油、マッチが切れれば近所の部屋の何処に何があるかは子供が知っていたから親は自分の所に無い物を借りに行って賄いをし合うそんな融通が利くことが当たり前の、少なくとも精神的には相見互いの時代の了解が根底にあった時代の話である。
     今思えば、人々の人生は現在より遥かに人間的で充実していたのではあるまいか。現在のように何でもかんでも禁止、それが如何に不合理であっても意図的に作られたトレンドであってもそれが時代のトレンドであれば、それに逆らったり敢えて無視したり、対抗・対向したりすれば否定的で無責任な匿名の非難、悪罵が殺到するという現象は無かった。
     これに反し現代資本主義がスタグフレーションやリーマンの詐欺的手法の失敗以降更なる利潤優先を推し進めてきた結果、我が国でも人々の発言は二極化し片や非難しようのない毒にも薬にもならぬ用心深い表現に、片や非難している対象の内実で何が問題とされているか考えることさえせず唯嫌いだとか、己の狭い了見に合致せぬというだけでダメージを与えようとする意志と匿名で投稿するのであれば意味の無い自己顕示欲? を満足させる為だけにSNS等ネット上の表現方法を用いて叩く、寒いだけの時代を更に推進するだけの緩やかな自滅に加担する者達の群れに自らを進んで没入させる思考停止した人々の何と御し難い趨勢であることか! 
     より遥かに精神的に健全であるが故に暮らし易い、安寧な時代であった。そんな時代を描いた作品である。出演した皆さんの活舌も良く、間合いの取り方も上手い。初めての海外両行に出た父母だったが、ハワイへ向かう航空機内で不調を訴えていた母は到着して病院へ直行、入院する羽目に陥ったが原因は盲腸、オペは成功したが麻酔から醒めない。この状態で母は子供たちの集まっている自分の家へ帰還してしまった。子供たちはびっくり、実は母の生霊らしいということは推測できるものの、目覚めなければ大変なことになる。観劇中、生霊について自分はWミーニングで捉えながら拝見(拝聴)していた。つまり今作の母の生霊と源氏物語の六条御息所の生霊とを同時に思い浮かべつつ拝見(拝聴)していた訳だ。タイプが正反対の生霊なので実に得難い体験をさせて頂いた。と同時に良質なホームドラマを堪能させて頂いた。

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