華岡青洲の妻 公演情報 華岡青洲の妻」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.5
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    サザンシアターでの文学座(過去2回は体験)はアトリエ公演の濃密さ的確さに比してかなり「落ちて」しまう。その理由は恐らく商業演劇っぽい年輩俳優の演技のせいであった。が、本作はそれが似つかわしい時代物の脚本であり、嫁姑の対立の一方を演じる女優も、息子の溺愛振りを「笑わせ」てよい役柄。
    有吉佐和子の原作は、嫁姑の悶着問題を薬の開発に勤しむ青洲への「協力」を巡って剣呑な領域に踏み込ませる。時を経た後半、青洲の母は仏壇に祀られ、青洲の妻の目は光を失っている。平体演じた次女は、思い合う相手がいながら嫁姑のグロテスクな対立を目の当たりにして婚姻を遠ざけた人生を歩むが、早死にした姉と同じ病に犯された時、想い人であった青洲の弟子と歩んで行く覚悟を漸くにして持つ。青洲の妻と次女のささやかながらの紐帯が、最後に見えるのが印象深い。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    華岡青洲、江戸時代和歌山県の医師。外科手術を行なうにあたり、麻酔薬の開発こそ必須だと知る。十年間動物実験を重ね、六種類の毒草を調合して麻酔薬を作る。曼陀羅華(まんだらげ=チョウセンアサガオ)、トリカブト、白芷(びゃくし=ヨロイグサ)、当帰、川芎(せんきゅう)、天南星(てんなんしょう)。全身麻酔薬として発明した麻沸散(=通仙散)。だが実際に人間に投与する為には更なる人体実験が必須。十数人の親族の協力があったとされる。
    1804年、記録に残る所では世界初、全身麻酔での乳癌手術に成功。(アメリカでウィリアム・モートンがエーテル麻酔での手術を成功させたのは1846年)。
    それ以前の外科手術は患者に激痛をひたすら我慢させる悲惨なものだった。

    一番今作を象徴するのが現在では使われていない江戸時代の紀州弁。語尾にOshiが付く独特の語感。「〜のし」「〜よし」「〜とし」と音として面白い。この会話を女性陣が柔らかく紡ぐ屋敷にはゆったりと漂う優しげな空気感。これが後半、どろどろ煮えたぎる修羅界へと堕ちた屋敷にて見事なる異化効果を上げる。小面(こおもて)を被った般若達の口にする雅な方言として。

    華岡青洲(幼名・雲平〈うんぺい〉) 釆澤靖起(うねざわやすゆき)氏
    妻・加恵(かえ) 吉野実紗さん
    母・於継(おつぎ) 小野洋子さん
    妹・於勝(おかつ) 太田しづかさん
    妹・小陸(こりく) 平体まひろさん

    原作者有吉佐和子は華岡青洲の偉業よりも嫁姑の確執に焦点を当てた。母・於継を杉村春子が演じた舞台は大評判、当たり役となった。女優陣の織り成す剥き出しの生き様こそが人気の所以。

    8歳の時、美しくて賢いと噂で聞く於継をどうしても見たくなり、乳母に頼んで隣村まで足を伸ばした加恵。夏の照りつける太陽の下、垣根越しにこっそり庭を覗き見ると無数の気違い茄子(キチガイナスビ)の真白な花が狂ったように咲き乱れている。その中に凛と立つ於継の横顔。余りの美しさに眩暈がする。真白で清らかな美しい花と於継を重ねて見た幼き加恵。その正体が気違い茄子=チョウセンアサガオ=曼陀羅華であることを後に知る。実に巧い文学的仕掛け。

    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    華岡青洲の理念とした活物窮理(かつぶつきゅうり)=治療を具体に即して考え、方法を合理的に見出す。目の前の生きた患者に合わせて柔軟に治療法を見出すこと。重要なのは知識や経験だけでなく、目の前の患者の症状である、と。

    江戸時代最大の飢饉、天明の大飢饉は1782年から1788年、冷夏や長雨が続いた。全国で90万人以上が餓死。

    第一幕 1782年
    第二幕 1785年
    第三幕 1793年〜1795年
    第四幕 1808年
    (原作は小説なので事実とは年代も違っている)。

    話の構成や演出は古くて退屈も感じた。前半は居眠りが多い。だがその伝統故の良さもある。重厚な歴史あるドラマを味わっている悦楽。商売としては嫁姑の見応えある攻防をこそ売りにすべきホン。そしてそれを身近に目撃し続けた妹・小陸が結婚に恐怖し生涯独身を貫く悲劇にも。
    平体まひろさん目当てで観に行ったのだが流石の存在感。嫁姑の地獄を目の当たりにして自身の縁談に震え出すシーンは客席から笑いが起きた。

    松竹が8月に大竹しのぶさんで『華岡青洲の妻』をやっていた。大竹しのぶ版母の於継も観たかったなと思ったら68歳にして妻の加恵役だった‼(青洲の母・於継役は波乃久里子さん)。

    映画版は増村保造監督で市川雷蔵主演、若尾文子VS高峰秀子‼これも観なくては。ここに高峰秀子をキャスティングしてくるセンスが素晴らしい。絶対に悪女ではなく善なるイメージの女優がやらないとこの作品は駄目。往年の倍賞千恵子とかが演ると客は興奮する。

    映画版では加恵が於継に対し憧れを超えた同性愛的なものさえ感じさせたらしい。青洲の取り合いではなく、深遠なる女の性を描ければこの作品はもっと別の意味を持つ。

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