公演情報
「埋められた子供」の観てきた!クチコミ一覧
実演鑑賞
満足度★★★★★
翻訳戯曲を堅実に舞台化する昴、との信頼は自分の中で揺るぎなく、今回さらに「あのサム・シェパード作品」を拝めるとあって無防備に期待を膨らませて観劇に及んだ。予想は裏切ったが期待は裏切らず、唸らせる舞台。一瞬もダレがなく眼前の事象を凝視させる。休憩時間、観客は寡黙だった。
感動の人間ドラマの範疇を出て、ヒリヒリと痛い。一柳みるという名前を観劇後に確認したがこれは隙というものがない完璧なハリー役と思わせ、老人ドッジ役も長男役、次男役も、発語行為が提供する人物情報は十全に、かつ不確実な部分は不確実のまま、造形している。シュッとした孫ヴィンスの恋人シェリー役、牧師役も適役で、演技に加えてキャラもしっかり作られ綻びが見えない。
装置は、稽古場の地肌に材料のパネル類をロップで止めた(正面奥と下手側)壁と、通路のある上手側を出ハケに用い(奥と手前)、奥に屋敷の前の道、その手前は玄関ドアのみ立ち、室内にはソファや調度、だが床には土(砂でなく渇いた土である)。
劇中は小道具に人参とトウモロコシ、死者に捧げる用にも使われる花の束が出て来る。
ミステリーの構成を持つものの、その謎解き部分は全体に流れる不条理の空気の前では副次的なものにも思える。崩壊しながらも生きながらえている国家あるいはコミュニティの赤裸々な描写とも、人間の精神の解剖ともつかない矢鱈「神経に障る」言葉と行動を凝縮したようなメニューである。ドラマの展開は意表を突くが面白く、混沌としてとっちらかっていても収集能力を欠くため「問題を置き去りにする」以外ない人間のあり様を酸っぱく描いたようにも。
否、それぞれにとっての「問題」はそれぞれなりに解決されて行ったのかも知れず、分断、孤独が結果ではなく本質であり、起点なのだと見ればこの作者は絶望を描いたのではなく希望を・・と考えなくもない。苛立たしい話の背後から、仄かに陽光が差したかの感覚が過ったのがその証左だろうか。
実演鑑賞
満足度★★★★★
マスクと埃除けのビニルシートが配られる、前方の砂被り席での観劇(この劇場での昴の舞台美術には毎度感心)。謎に満ちた家族劇だが、客席で混乱しながらも最後まで目が離せなかった。
実演鑑賞
満足度★★★
Pit昴公演の見ものと言えばやり過ぎ舞台美術と小道具、狂気すら感じる。今作では本物の土塊や砂がステージを覆っている。設定は普通の民家の居間なのに。登場する奴等は安いB級ホラー、スプラッター映画の馴染の連中。映画なら皆惨殺されるだろうが今作はそういうものではない。ヘロインでダウナー状態のデイヴィッド・リンチが朦朧として書き殴った覚書みたい。例えるならトビー・フーパーの撮ったエクスプロイテーション(低俗搾取)映画をタランティーノがプロデュースしてリメイク、監督にデイヴィッド・リンチを起用。『悪魔のいけにえ』のようなメジャーなものではなく、あえて『悪魔の沼』のような作品を選択するセンス。70年代ホラーの空気感とマジックリアリズムのハイブリッド。
深夜、土砂降りの大雨、長いドライブ。知り合ったばかりのヴィンスが6年振りに故郷に帰るのに付き合うあばずれのシェリー。寂れた田舎町、荒れ果てた農場、崩れ掛かった古い家。主演のシェリーには映画なら若い頃のジュリー・デルピーかロザンナ・アークエットでどうだろう。家に入るとそこに居る連中は誰一人孫であるヴィンスのことを覚えていない。どうにも噛み合わない会話。シェリーはその異様な雰囲気に帰りたくてたまらなくなる。老人に頼まれて酒を買いに行くヴィンス。シェリーは独り残される。悪い予感。
MVPはシェリーを演った髙橋慧さん。マルシア似。人参の皮を削ぐシーンが良い。
家の老主人ドッジ役金尾哲夫氏は津川雅彦みたいでカッコイイ。病気持ちで酒を止められている、
その妻、ハリー役、一柳(ひとつやなぎ)みるさんの声が冒頭二階からキンキン頭に響く。
ニューメキシコ州から実家に戻って来た長男ティルデンに佐藤洋杜氏。トウモロコシが本物なのかフェイクなのか判別つかず。
左脚が義足の次男、ブラッドリーに中西陽介氏。
ハリーと親密な関係の神父、ファーザー・デュイスに宮島岳史氏。
ドッジの孫でありティルデンの息子、ヴィンスに赤江隼平氏。藤井尚之似。
去年、名取事務所がやった『メイジー・ダガンの遺骸』に近い感触。現代のある意味ステレオタイプの家族像を過剰なまでに描き込み無意識の底をひたすらに掘り下げると集合的無意識に行き着く。誰もが何故か共有する感覚。辻褄の合わない正解の出ない物語にこそ普遍的な強度が宿るのだろう。妙な面白さに充ちていた。隠し持ったスキットルで一杯飲りたい気分。
是非観に行って頂きたい。『ツイン・ピークス』や『ロスト・ハイウェイ』好きにも。
実演鑑賞
満足度★★★★★
プログラムに書かれていたが、作者のサム・シェパードはベケットに傾倒した時期があったらしい。不条理で、暗くギスギスした、ショッキングな作品。
なんだか変で独特な登場人物たちを演じる俳優たちの演技は優れており、この作品のグロテスクな雰囲気を上手く伝えている。特に父親役は凄い。演出も独特で、家の中であるはずの舞台上には砂が敷きつめられ、その上で時に激しい演技をするので砂埃が舞い上がり、俳優たちは砂まみれになる。床が砂で埋まっている不自然さが汚らわしさや不気味さを高める。意図されたことと思うが、狙いどおりなのではないか。
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/10/05 (日) 14:00
俳優陣の面々の役者魂を感じることができる素晴らしい作品です。米文学、米演劇の授業を大学時代に受講していたのですが、本場の作品にも劣らない臨場感と熱演見事でした。劇団昴の皆さんの演劇つくり、とくとお楽しみください。