ボヘミアの海――冬物語:A Science Fiction 公演情報 ボヘミアの海――冬物語:A Science Fiction」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     ベシミル! 傑作。華5つ☆ 尺75分弱。

    ネタバレBOX

     今回で22回目の、明治大学シェイクスピアプロジェクトのラボ公演だが、今作は猿楽町第2校舎1Fに在るアートスタジオでの上演。尺は約75分弱。シェイクスピアの「冬物語」というより完全に新作のSFと言った方が鑑賞後の感覚から言うと近い。それだけに極めて良く出来た脚本にこれまた見合った優れた演出、舞台美術大道具は総て白で統一され箱馬、長方形のテーブル、ギロチンの枠のような形の背の高い柱構造等、が場転に応じて速やかに所定の位置に場面に相応しい形に組まれて用いられる。小道具のヒロイン・ハーマイオニの木彫(これだけは木の色)が実に効果的に用いられている点も優れた舞台の隠れた定石である。以上挙げた舞台美術迄実にしっかり作りこまれた秀作。照明、音響もレベルが高いのは、ステーション関連の映像を見ている舞台上の人物たちの表情に映像画面の反映が微妙な明彩で反映されているのを見ても明らかだ。大道具が総て白で統一されているのは、冬を象徴する“雪”や“氷”のイマージュと解した。これが同時に夫・レオンティーズに同僚との浮気を疑われ自死を遂げた妻・ハーマイオニの潔白を示唆している。
     ところで今作の物語が展開するのはハーマイオニの自死から16年後、レオンティーズが、ボヘミアプロジェクト継続の是非を判断する為にステイションに送り込まれた後のことである。然しそもそもそのボヘミアプロジェクトが何であったかを理解しておく必要があろう。地球の直径の約1.2倍の惑星・ボヘミアに人類が巨大なベースステーションを築き最も優れた研究者達を送り込んでボヘミアの環境等を精査した16年前よりも以前、このベースには85人を収容できるベースが建設され多種多様な研究が行われていたが、特に注目すべきであったのは、ボヘミアの海に関する論であった。何とボヘミアの海は、海自体が知性を持ち知的活動を担っているのではないか? との仮説が提起されていて、地球上でも大きな論争が長期に亘って繰り広げられながら結論を出せずに膠着状態が長く続いた。徐々に人々の関心も失せ、莫大な費用の掛かる宇宙計画の是非判断を公式目的にレオンティーズが送り込まれたのは必然であった。判断を下すにはボヘミアの海が知性を持っているのではないか? 論争の決着を見た上で今後の継続判断をする必要があるが、その起点となったのがボヘミア探索隊員であったアンティゴナスが自死する前に遺した謎の言葉『ボヘミアの海で熊を見た』であった。
     かくして到着したボヘミアのステーションでレオンティーズが遭遇したもの、それは自死したハズのハーマイオニであり、実際に残っていた浮気相手と疑った者の助手であり、皮肉屋の研究者であり、彼らが「客」と呼ぶ、彼らの夢や想像即ち脳の活動に現れたイマージュが現実に再生された生き物であった。この「客」たちは、地球人が自分を生み出した脳活動とコンタクトを取り続けることによってどんどん進化し深化をも遂げた。その結果、自らが再生された“生命”でありオリジナルでは無いというアイデンティティーの不在に悩まされる。このアイデンティファイ不可能性は、更に先に本当と偽の問題を突きつけ、本当(本物)でないなら空虚そのもの(こういう言い方自体が矛盾を孕むが)を突きつけてくる。演じるのは1年生が殆どの傑作である。

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