公演情報
「にんげんたち ~労働運動社始末記」の観てきた!クチコミ一覧
実演鑑賞
満足度★★★
マキノノゾミの新作、文化座『にんげんたち〜労働運動社始末記』(初演)を観た。
去年観た映画『風よ あらしよ』のおかげで、大杉栄が虐殺されるまでは何とか筋を追えたが、その後は、状況説明が全くないまま、場面展開が目まぐるしく、頭の中で漢字に変換できない台詞には、着いていくのが難しかった。
今回の『にんげんたち』では、大杉は決して主人公ではなく、どこか可愛げはあるものの、人間的な迫力には欠ける人物として描かれていた。彼の死に対して、和田や村木が命をかけて「仇を討とう」とまで思った動機が、舞台からはよく分からない。
大杉栄の唱えた無政府主義とは、いったいどんな思想だったのだろうか?
あの時代に若者たちが命を賭けるに足るほどの何かが確かにあったはずだ。けれど、その「何か」が、今の観客には見えづらいまま、舞台は進んでいく。
その中で、唯一、台詞が胸にストンと入ってきたのが、関西弁の和田久太郎(白幡大介)の言葉だった。登場のたびに、場の空気が柔らかくなり、芝居の温度が変わる。
この作品を他人に薦めるかどうかは別として――
白幡大介が、実に楽しげに和田久太郎を演じている姿は、一見の価値ありでした。
観劇後、気になって瀬戸内晴美の『諧調は偽りなり』を買ってきた。舞台では見えなかったあの頃の輪郭が少しでも見えるだろうか。
実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2025/02/27 (木) 14:00
座席1階
閉場する俳優座劇場で行う文化座公演としては、とてもフィットした演目だった。無政府主義者の大杉栄と伊藤野枝を描いた演劇はたくさんあるが、これは雑誌「労働運動」をアングラで発行しようとする人たちの群像劇。彼らの人間関係や友情も描かれていて、「仲間たち」に焦点を当てた舞台であったように思う。
パンフレットには登場人物たちの履歴が書かれているのだが、「幼少期より角膜の病気で小学校にもあまり行けず、でっち奉公に」「幼年時代に一家離散」などと、厳しい生い立ちの人が目立つことにいまさらにように気付く。「主義」の違いで対立するなどセクト的なところはあるとしても、労働争議やストライキなどが頻発する世相で、自分の周囲の空気を何とかしたいという熱い思いが舞台から伝わってくる。
劇作や演出がシンプルだったのが奏功していると思う。15分の休憩を挟んで3時間と長いのだが、わかりやすい舞台だったと思う。和田久太郎の母親を演じた佐々木愛は今作でも健在。存在感のある演技で、見ている方も安心できた。
文化座のこうした硬派な舞台も時にはいいかな。若い世代に受けるかどうかということを考えないで、やり続けることも大切だと思った。