実演鑑賞
満足度★★★★
前作「地球星人」に続き異色作。あとうずめ劇場では公演の題材を通じて出会った人たちやたまたまその時期に縁のあった人を舞台に上げる公演の系譜があるが、今回の舞台も(内田氏以外は演劇玄人と思しいが)そんな空気感があった。それが不思議な臨場感を醸しもするが、今作はうずめの三俳優のほぼ独壇場で、ほぼ初であった鈴江俊郎氏の輪をかけて異色なテキストにより混沌の度合いは深まる。とある日本人の男(劇作家、荒牧大道)が亡命の申請にやって来たドイツ大使館を舞台に、応対した大使館職員(日本人、後藤まなみ)と男を止めに来たという男の妻の姉(松尾容子)三人が三すくみの押し問答をする。日本が危険な社会である参照として語られるのが例の「明日のハナコ」事件であり、話題は表現の自由から学校教育、政治や日本人論まで、職員を納得させたり逃げられたり、姉が男を制すると見せかけて援護したりと忙しない。結局は「所長を出せ」という事で別の者を呼びに行っては埒が明かんと別の者、最後はドイツ人のゲスナーが登場するも出入りのドイツ人だったでガクッ、といったドタバタが続く。
私的には推敲が足らず、何度も同じ円を巡る三人のやり取りの何処かを削るのが得策だった(巡る度に新情報は入ってるが大意を伝える事を優先し細部を断念するのも大事)。もっとも幾ら言っても言い足りない亡国ニッポンの真実を言い切りたい動機は理解できる。ただダイアローグを交わす同士が対立したり賛同したりの変遷は筋が通ってなくてはならん所、そこをすっ飛ばした漫才ノリ、あとは趣旨だけ踏まえて台詞はアドリブのような様相の時間が長く、いずれも演るのであれば限定的に効果的にやりたい。
そんなこんなで「演劇」としてはかなり異色の部類であったが、私は「言いたい事を言う」装置としての演劇の体現を見る思いであったし、正直言えば嫌いでない。
登場して歌を何曲か歌い、社会に理想を求める無垢さを象徴するのが男の妻役であったが、ダブルでこの日の2ステージのみの出番。透明感のある佇まいであったがもう一方のステージも観たかった。
実演鑑賞
満足度★★
何度も何度も同じセリフの繰り返しで長く感じる120分だった
唯一良かったと思えるところは全く芝居に関係ないが
妻役のちょっぴりハスキーで母性を感じる歌声のみ
実演鑑賞
満足度★★★
二十歳代に来日してそのままこの国に定住して三十年、日本語堪能のドイツ人の演劇人による問題劇である。さきに詩森ろばによる性行為のハラスメントが問題とされた劇を見たが、こちらは広く日本に拡がる生存権、表現の自由と権利、国家権力を問題にしている。
問題は。福井県の職業高校で起きた演劇部への差別事件である。全県の高校が参加する演劇祭の作品を地域のケーブルテレビが中継放送した。しかし、この職業高校の作品だけ、県の原子力発電所の是非を扱っているため放送しなかった。これは表現の自由に関する侵害ではないか。また職業高校に対する差別ではないか。
この高校の演劇部を指導してきた地元の教師や指導者は異議を唱えた。しかし、同じ高校の教職員からもも、同意が得られず、県の教育委員会も同意しなかった。さらに、全国組織でも、教員組織のみならず、劇作家協会や演出者協会に訴えても、支持は得られなかった。みな、あれこれの理由をつけて(ここはいかにもありそうなことで笑ってしまうが、もちろん舞台では笑い事ではありません!と正論である)。福井県が、全国4位の原発受け入れ県で、一方でははかばかしい産業もないという現況を背景にしての職業高校の持つ周囲への配慮である。しかし正論を言えば、これは憲法違反である、とてもこんな生き苦しい国には住めない。生存権の問題だと、ドイツに亡命しようと、ドイツ大使館に亡命させてくれと訴え出る。ここからドラマが始まるわけで、ドイツ大使館も在日本大使館だから、窓口は責任者「代理」として日本人を雇っていて対応する。奇妙な亡命申し出に大使館も辟易して、対応時間を決める。問題は次第に矮小化して肝心の問題はどこかへ行ってしまう。
問題素材提示劇である。
まぁ、よくあることだが、現代の日本人はこういう問題の処理と解決はあまり上手くない。そこをこの「問題提起素材劇」は面白く展開して2時間、飽きさせないが、そこでどうなるというものでもない。しかし、この課題をいろいろ考え話し合ったりするのは今後の役には立つだろう。現代版のブレヒト劇である。一つのジャンルにはなるだろう。
このドラマの感想となると、内容は、国を超えて理解することは出来るが、共感は作りにくい。ということだろうか。ドイツでも同じような問題は難民問題で起きている、どのような国でも、人間が作る社会があれば対立する問題は起きる。ドイツを諦めてカナダで亡命希望しても結局亡命者として受け入れないだろう。それならカナダは自由の国ではないというのか?。結論が諸般の事情で出せないことはある。それをなんとかやりくりして過ごすのは社会の必然で、この国には、無理矢理解決を図って身の程知らずの戦争で国民の命も財産を大いに失った経験がある、どこで妥協点を見つけるかで、その方法は一つづつ考えていくしかない。
亡命で解決するというのは劇の脚本の面白さである。現実の問題解決になるためには劇の現実化への可能性がなければならない。いい妥協点が見つかればドラマの効用である。
久し振りで登場した作者は・鈴江俊郎、健在だったのか! かつて、自殺した学友が自転車に乗って現われる青春劇に共感したことを思い出した。もう四十年近く前のことだ。
実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2025/01/25 (土) 18:00
ベテラン劇団だが実は初見。厳しい台詞が続く問題提起型演劇かと思う。(前説等で7分押し)120分。
ドイツ大使館に1組の男女が現われ、男がドイツに亡命したいと言い、語り始める、日本の暮らしにくさの数々、…という物語。エンディングはファンタジーにしているが、聞いてて落ち着かない台詞の連鎖で心穏やかではいられない。「明日のハナコ」の話題を中心に教育の問題を語る時間が長いが、全体に通底するものがある。