たしかめようのない 公演情報 たしかめようのない」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.5
1-2件 / 2件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    舞台に並べられたパイプ椅子、夢へのエントランスに見立てたハンガーラック、
    光を遮断するカーテン、そして、その奥の窓。スタジオの無機質さとその備品を活用し、
    「夢と現実の間」という劇空間を鮮やかに創出した前作『波間』。
    まさに波と波の間で夢と現実とが擦れ合って音を立てている。そんな演劇だった。
    そして、それらは当然のように「現実と虚構の間」に居座り、
    やがて窓の外へと帰っていく私にとっても決して他人事ではない。
    ブルーエゴナクの演劇は時間をかけてその実感を私に伝えた。
    スタジオHIKARIにもまた窓がある。
    『たしかめようのない』という作品はあの大きな窓の外から何を持ち込み、
    そして何を運び出すだろうか。私は、この身体でそれをたしかめたい。

    上記のようにコメントを寄せた、ブルーエゴナク『たしかめようのない』。
    "存在感"という言葉が多出するも存在も不在も何を以てしてそうかはその実たしかめようがなく、
    いるのにいない寂寞を感じる事も、いないのにいる強烈を覚える事もある。
    世界に輪郭を握らせぬ不条理と空間の余白にこそ"存在感"が宿る演劇だった。
    そういった意味で、本作もまた空間の扱い方に技術と個性が光っていたように思います。
    それゆえに、今後も、様々な劇場や劇場的空間、その場とのマッチングや共振、あるいは違和や反発を観てみたい団体の一つです。スタジオっぽくない劇場での見え方も気になります。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    同棲していた元彼(増田知就氏)との別れから精神を患い、引きこもった主人公(重実紗果さん)。家から一歩も出られずスマホだけを世界との接点とする日々。元彼を吹っ切ろうと部屋の内装や家具を変え、全てを過去に。後は元彼の置いていった荷物、段ボール箱に入ったそれを処分したい。親友(野村明里さん)が定期的に部屋に飲みに来る。主人公を苦しめるのは自分自身の妄想で、唯一の武器も同じく自分自身の妄想だ。

    一度観たいなと気になっていた劇団。
    役者陣はそれぞれ独特な味がある。何か不思議な空気感を醸し出す。野村明里さんは何となく坂井真紀っぽくて気になった。表情の変化が印象的。

    村上春樹の文体に村上龍のエッセンスを振り掛けたような。テーマは『妄想』。主人公はすぐに何でもスマホで検索しようとする。スマホに表示される正しさ=不特定多数の集合知性。現実感のないもやもやとした真実はどうにも掴みようがない。会ったことも話したこともない誰かとネットで繋がっている時代。本当も嘘も妄想もふわふわ浮遊して漂っている。自分の自分自身だと捉えていた意識の境界線が曖昧になっていく。デマが流布され意見がコントロールされていく。自分が考えて選んだ筈の答は本当に自分が考えたものだったか?誰かのコントロール下に立っているのではないか?会ったこともない人間と出会い何も確かめられないまま別れた記憶。それすら初めから妄想だったのか?主観だけの世界をそれぞれの『妄想』で繋ぎ合わせて暮らしている。無理矢理辻褄を合わせる言い訳をまぶしストーリーの形にしていく。それも嘘だろう。

    ネタバレBOX

    荷物を取りに元彼は家に来るがトイレが変わったことに不満、荷物も持ち帰ろうとはしない。スマホで通話しながら家を出て駅前の裏通り、怪し気な饅頭屋で遊び心で注文してみる。渡されたのは何かの薬物だろうか?売人でないことに気付いた店の男(加茂慶太郎氏)に殴り倒され引きずられていく元彼。偶然その場に通り掛かった親友。彼女をごまかすためにでまかせでファミリーマートの店長だと嘘をつく。親友はそのファミマで最近までバイトしていたので逆にその嘘に食い付く。店の男は仕方なく適当に話を合わせる。スマホから聴こえる音で事件に巻き込まれたことを知った主人公は元彼を探すために到頭家の外に出る。
    3年後、社会復帰している主人公。元彼はあれから見付からずどこかに監禁されているようだ。何故かそのままウミヘビになってしまった。親友と店の男は今では付き合っていてドライブしている。だがそんな男、実はそもそも存在していないことを知っている。海岸をずっと歩き続けた主人公は早朝漁師相手の店で海鮮丼を御馳走になる。家に帰ると親友は眠っていた。(アフタートークで作家が交通事故死の話をしていたがよく判らなかった)。

    うさぎストライプの『あたらしい朝』や阿佐ヶ谷スパイダースの『ジャイアンツ』などこの系の演劇は多い。やはり記憶と妄想の中を彷徨っていく物語。それだけに今作のスタンスは中途半端に感じた。例えば押井守の作品はほぼ全て「果たしてこの世界は本当にオリジナルだろうか?仮想空間でないと誰が言える?」がテーマ。だが毎回話がそこ止まりなのが気に食わない。この世界が作り物だとしてそれを押井守がどう受け止めるのかが語られていない。今作に感じるのもそれと同じで「皆妄想をぶつけ合って手探りで生きている」止まり。まあその通りだろう。そこからもう一歩踏み込んで欲しかった。

このページのQRコードです。

拡大