実演鑑賞
満足度★★★★★
良い意味で、キノカブ初見の方を含め、様々な観客を招こうとし、実際に招いている公演ではないかと感じました。休憩込みで5時間20分の三幕もの。食事や軽食の機会を設け、丁寧かつ内容充実の観劇パンフレットを配布し、幕見席チケットも用意。そして、目や耳の不自由な方へ向けた音声ガイドやポータブル字幕機の提供など、あらゆる点で観劇環境が整備され、「今日は1日プレイハウスで歌舞伎鑑賞に浸ろう」という気持ちになります。上演も、現代演劇や小劇場が好きな方も、歌舞伎が好きな方も、共に没入できる内容に仕上がっていたと思います。
実演鑑賞
満足度★★★★
「三人吉三」と言えば、あの名台詞。「月も朧に白魚の、篝もかすむ春の宵、・・」。
節分の夜、大川端で百両の金包みを手に入れた小悪党がしめしめと「こいつは春から縁起がいいわえ」。駘蕩とした江戸の雰囲気。
大歌舞伎でいまもよく上演されるから、少し歌舞伎を見たものなら一度は見たことがある。良い気分で歌舞伎見物に酔える舞台だが、これを木ノ下歌舞伎上演するという。実はコロナの初期(確か20年6月)に同じ劇場で公演されることが予告されていて、既に関西での上演では賞をえていたから大いに期待して心待ちにしていた。五年待たされて、念願の上演である。
今回は、役者も川平慈英や緒川たまきや、テレビでも顔の知れた俳優もキャストして、音楽も解説的なラップもはいっている。幕見もあれば、オリジナルお土産もロビーで売っている。だが、客席は薄い。一階席は8割、上の階は空席が目立った。
幾つかポイントを絞ると、1)木ノ下歌舞伎が大劇場で上演される(東京で)ことは少ない。大歌舞伎の観客もかなりいる。彼らはスタンでイングオベーションになれていない。(つまり、木ノ下歌舞伎の見方を知らない)
2)黙阿弥の原作が非常に長い。今回の上演でも藝ナカ、五時間。原作通り(は初演以来やっていないが)間違いなく10時間をかなり超える。3)非常に入り組んだ百両と、盗まれた名刀を廻る小悪党と彼らを取り巻く市民の因果話に現代の観客がついてくるか。そこにどのような現代人を打つリアルがあるか。
木ノ下歌舞伎のこれまでの活動を評価することにはやぶさかではない。正直上手くいったものもあるし、残念というのもある。今回も、力が入っているだけに甲論乙駁、これから賑やかなことだろうと思う。言い始めれば長くなる。
「見てきた」見物批評で言えば、今回はいつものゆとりが乏しかった。「櫻姫」で試みた大向こうのかけ声を入れてみるのはどうだろうか。これは卓抜なアイデアだと思ったが、今回の、大劇場の冷え切った客席に役者が空転しているのを見ると、役立つのではないかと思った。見物的には、物語のテキストレジはこうするしかないだろうけど、各幕で空気をガラリと変えた方が(スジの柱も変えているのだから)見やすいのではないか。三幕の丁子屋長屋のカット代わりのようなスジの運びの処理はいかがか。と思った。
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/09/15 (日) 13:00
座席1階
歌舞伎の現代劇化に取り組む木ノ下歌舞伎の長編代表作。20分の休憩2回を挟んで5時間を優に超える超大作だが、東京芸術劇場・プレイハウスの大きさに余裕のあるシートも役立ち、疲れることなく舞台に没頭できる。何よりも、歌舞伎を身近なものにという台本、演出、舞台美術に共感し、好感を覚える。歌舞伎の演目がベースであるものの、躍動的、そして人情味あふれる現代劇として十分に堪能した。
初演から10年、今作も新たな修正、演出を盛り込んだという。おそらく、開演前の立て看板「TOKYO」もその一つだろう(終演時にはこれが白紙に。未来の東京へ続くという意味だと受け取った)。三人吉三廓初買が演じられたのは明治維新直前の幕末だが、当時の江戸が現代都市・東京と地続きの場所、そして当時の人たちが今につながる舞台上にいるという作家の意図を強く感じる。この点は、物語とは全く関係のないシーンがあちこちに息抜きのように挿入されていたり、現代東京の若者文化の象徴が盛り込まれているところからも推察できる。
当時は男女の双子が不浄の子とされるなど、確かに、ジェンダー平等が叫ばれる今とは感覚が全く違う。推察だが、庶民の思いを描いている歌舞伎が、特に近年の時代の流れで「不適切なもの」として否定され、演じられなくなるのではないかということを強く拒んでいる。だからこそ、東京と江戸がわずか百数十年の距離しかなく、ジェンダー的に問題があっても、避けられない運命を背負わされた者たちが今も昔もどう生きていくのかを、東京の香りをにじませながら客席に提示したのだと思う。
登場人物が和服なのに靴だったり、それどころか洋服を着ていたり。岡っ引きが今の警察官の姿だったり。でも、全然違和感を感じないところがすごい。ただ、せりふは歌舞伎に忠実であるようだ。
ラストシーン、花魁の一重が果てる場面では客席のあちこちで感涙を絞った。ああ、すごいな、この舞台は、と感じ入る瞬間だ。木ノ下歌舞伎初出演の役者も多いが、スタンディングオベーションを見れば、きっちりと仕事をこなしきっていたのがよく分かる。