実演鑑賞
満足度★★★★★
新しい世界に劇場で出会うことは稀である。「消しゴム」はコロナ以前、2019年の、初演のテキストをほとんど変えていない。というが、激動のあったここ数年を踏まえても、その中身はしっかり現代を描ききり、未来にまで目を向けている。
作品のスケールが大きい。大きなテーマを、演劇の世界に新たな形で着地させようと試みている。五年前の再演ながら、全く古びてはいず、本年随一の問題作であることは間違いない。
舞台には、さまざまな造形物がおもちゃ箱を拡げたように散っている。これが金氏徹平のものグラフィーで、一つ一つ、具体的なモノ(例えば、洗濯機とか椅子とか滑り台とか)を示してはいないが、そういう身近にある人間が作ったものを巧みに表現していて、そこにスクリーンでの表現も加え、視覚的効果を発揮している。舞台は、その道具たちを俳優六人の俳優たちが、日常われわれがモノを使うように移動させながら進行する。開演前から、コンクリートミキサーの回転音がずっと響いていてこれが音響効果になっている。音楽はない。。
二時間の舞台は三部に分かれていて。それぞれにテーマがある。要約すれば、一部はものと人間の関係、二部は拡がった社会(宇宙も含め)の中で人間が他者とどう関わるか、三部は言葉の力、とでも言ったら良いのだろうか、その周囲に現在の世界的な環境問題、移民問題なども、投影しながら現在の世界の有り様を描いていく。一部は、壊れた自宅の洗濯機を直す、と言う解りやすいストーリーがあるが、三部は現代詩の朗読みたいなところもあり、そこはダレる。終わりに近くなるとダレるというのは「ゴドー」みたいだが、前半がわかり良いだけに工夫があった方が良いと思った。つまらない決め打ちの締めよりはいいが。
いずれも岡田利基が今までにも舞台にして見せたことがあるテーマだが、「消しゴム山」では、総合的に一つの世界にしてみようと糸が見えた。世界巡演でもよく理解されたようである。
現代社会が転換期を迎えているように、演劇も又転換期を迎えているのはここ10年ほどの舞台を見ているとよく感じられる。この作品はそういう転換期を象徴する作品になり得る舞台だと思った。それをどのように受け取っていくかは、同時代人の役割である。世田パブは老若男女よい比率の観客でほぼ満席だった。
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実演鑑賞
創作の根底にあるコンセプトや着眼点がかなり未来的かつ独自性が高い。公演資料には「人間とモノ、それらを取り巻く環境とがフラットな関係で存在する世界を生み出すことはできるだろうか」とある。僕は、ロボット社会とその未来、みたいなことを連想したが、おそらくそれも的確ではないように感じる(内包されているだろうけど)。人間と物品(人工物?)の新しい関係性の考察及び実証実験、みたいな感じかも?