明日の人 公演情報 明日の人」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「始めたそばから消えゆく無駄。その演劇を、表現を私は断じて無駄だと思わない。無駄なき無駄に向かう矛盾を明日も勇んで生きたいと思う」。私が初めてドラマティックゆうやを観た時に綴った感想の最後の一文である。そして、今なおその実感を握りしめている。
    前々作『不幸の光』でグッと心を掴まれ、前作『星の戦い』でやっぱりあの光は本当だったと噛み締め、そして、『明日の人 再演』ではっきりと分かった。自分がどうしてこんなにも劇団ドラマティックゆうやの演劇に心惹かれるのか、が。奇しくも登場人物同様に(物語が作られた時系列でいうところの)過去に戻ってはじめて私は分かった、というわけである。そのことが私の”明日”をどう変えるのか。それはまた明日が過去になるまでは分からない。ただ、その変化はきっと「歩き出す時に右足から出るのか、左足から出るのか」くらい小さなことで、同時に、アームストロングよろしく「この一歩は小さいが私にとっては偉大な一歩」であるかもしれない。そうだ。きっとそうだ。そう信じさせてくれるから私は一年に一度お守りを握りしめるようにシアターブラッツに向かうのだと思う。「自分の信じているものは人とは“違う”かもしれないけど、決して“間違い”じゃない」。情報量の多い新宿の街を歩きながら、そう思った。思うことができた。それは、演劇の力ほかならなかった。始めたそばから消えゆく、同じ時は二度とない、撮らねば記録すら残らない過去の芸術、演劇の力なのだと。だからやっぱり、無駄なき無駄に向かう矛盾を明日も勇んで生きたいと思う。
    ※以下はネタバレBOXへ

    ネタバレBOX

    ※ここからはネタバレ
    と、書いたように『明日の人』は、タイトルとは反比例に「過去の物語」なのである。
    現在を生きる売れない役者の息子が、今は亡き売れなかった劇作家の父に会いに行って、制約の中で未来を変えようとするタイムスリップ物。『ドラえもん』がこの世界を魅了する限り、この設定自体は定番、さして新しいわけではない。そして、ドラマティックゆうやの特筆すべき魅力はその設定ではなく、構成。構成に施されている技巧が設定を度外視するような驚きがあるのだ。
    その構成というのは、『明日の人』を挟む形で一見全く関係のないコント仕立ての短編演劇『木村さん』『兵士の走馬灯』の2本がカットインするのだけど、観終わった時に初めて「それも含めての“明日の人”だったのだ」と体感する、といったところなのだが、これも文字で書くと実態よりも遜色が否めず、自分の表現力の乏しさにジタバタしてしまう。いずれも「笑い」をふんだんに盛り込んでいるものの『木村さん』は文字通りジャニーズの性加害問題に切り込んでいるし、初演はSMAP解散間もない頃だったけれど、問題を挟んだ2024年の今この作品を上演することには全く別の意味が付随してしまう。泉田さんは腕のある脚本家なので、そこを差し引いて現代の論調に照準を合わせる=ポリコレ的な側面を重んじて整えたり、あるいはカットすることだってできたかもしれない。されどもそのままやるということに、『明日の人』にそれが含まれているということに、私はある種の覚悟を感じた。とくにダイレクトに性加害について言及するあるセリフが発された瞬間に。過去は編集できないのだ、と突きつけられたような気もしたし、だからこそここからしかないだろ、と明日を指差されている気もした。それだけではない。兵士の戦場からの逃避を肯定する『兵士の走馬灯』からは反戦を感じ取れる。ロシアとウクライナ、ガザの集中空爆、日本でも次々と危険な法案がするりと私たちの横を通り抜けて、今にもすぐそばで戦争が始まってしまいそうなこの世界で『兵士の走馬灯』を上演することにはとても大きな意味がある。私は涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭いながら何度も何度もそう思った。愛とユーモアを原料にした皮肉が思いがけないところに向かって放たれた時にこそ、私はドラマティックゆうやの演劇の本分を目の当たりにするような気持ちでいる。

    ちなみに"明日の人"はいいとものテレフォンショッキングのお友達紹介、「明日の(いいともに出演する)人」とかかっている。無論「いいとも」は今はもうないし、アルタすらまもなく閉ざされる。今日から明日、過去から未来へと接続する、憎すぎるダブルミーンなのだ。そう思った時、「明日きてくれるかな?」というタモリのお馴染みの言葉すら「(私たちに)“明日”はきてくれるのかな?」という問いかけのように感じてしまう。新宿からアルタが消え去ったとしても、誰からの紹介を受けなくても、私たちはいつだって過去から未来に、今日から明日に向かって叫ぶ。明日からの「いいとも〜!」が聞けるように、小さなことから何かが変わるかもしれないと信じて、今日も今日とて生きている。

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