唾の届く距離で 公演情報 唾の届く距離で」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 満足度★★★★

    事実と言葉の持つ重み
    作者のタヘル・ナジーブさん自身が来日し、独白形式の「三章」から成る朗読を行った。
    表題が正式翻訳タイトル『唾の届く距離で』に変えられた旨、告知があった。
    タヘルさんの朗読は演劇的でありながらも、決して感情過多ではなく静かに訴えかけてくる。
    実体験に基づく話で、とても言葉を大切に発している印象。改めて朗読の力を感じた。ピーター・ブルック氏が本作を「『優れた演劇』を遥かに超えるもの」と激賞したのが伝わってくるような朗読劇だった。
    ただ、視力の弱い自分にとっては見づらい字幕を追いながらの観劇は、ふだんの倍以上疲労するもので、言語が理解できたらより楽しめたのになぁと思った。ストーリーを理解するために脚本のダイジェストのようなものが添えられていたらな、と思う。もちろん、簡単な作品紹介はパンフにあったけれど。

    ネタバレBOX

    「イスラエル国籍を持つパレスチナ人である」というタヘル氏自身の体験を綴った作品。
    表題は、主人公の故郷の町では、人々が日常行動の中で何かにつけて「唾を吐く」という習慣から来ている。
    主人公は世界中を旅しながら演劇活動を行っている。というとまさにジプシーを連想する。ジプシー音楽の演奏家たちもそうである。そのため、「イスラエル国籍を持つパレスチナ人である」という複雑な状況が空港関係者に正しく理解されず、入国の際も思わぬ足止めをくらってしまう。
    また、たまたま9月11日に国を越えようとすると、空港関係者が中東人の彼に対し、「何ごとか起こるのではないか」と勝手に過剰反応し、空港内でもピッタリと付き添って行動するので、彼は「何ら懸念するような危害行動を加える心配はない」ということを周囲にわからせようと、つとめて冷静にゆっくりと振舞おうとするのだ。
    演劇に携わる者として、彼は舞台以外でも周囲の偏見に対して「望ましい中東人像」を演じなければならないという皮肉を悲哀とユーモアをこめて表現していた。
    仕事を終えて、彼はまた「唾を吐く」故郷に戻ってくる。「唾を吐く距離で」というタイトルは、周囲に影響を及ぼさないためにある種の緊張を伴う「唾を吐く際の距離」を国外でも保って行く必要性を表現しているのか。
    緊張ある旅から開放され、最後に安心して「唾を吐ける」埃っぽい土地に戻ってきた安堵感のようなものが観ている者にも伝わってくる。

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