「SHINGEN~風林火山落日~」 (ハムレットより) 公演情報 「SHINGEN~風林火山落日~」 (ハムレットより) 」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 満足度★★★★

    翻案物としてはよくできているが・・・
    戦国大名の武田家の滅亡をシェイクスピアの「ハムレット」仕立てで描く2時間40分(休憩込み)。正直、長くて疲れた。両隣の若い女性は退屈した様子で爆睡していた(笑)。何の理由か開演時間が遅れたうえ、上演時間自体も多少延びたが、スター俳優を招聘した公演なのだから、開演準備はきちんとやってもらいたいものだ。無料の配役表は用意されておらず、1部1200円のプログラムを買うように仕向けているようだ。脇太平のユニット芝居のパンフというのはいつも同じ作りで読むところも少なく、配役表のために1200円も出費する気は起こらなかった。この公演のフライヤーも、あうるすぽっとに最近行っていないこともあり、よそではお目にかからず、主役級以外の出演俳優の情報がとれない。脇が主宰していた「ちょんまげ軍団」なる劇団が銀座博品館劇場に初めて進出した際は、無料の配役表も配布されたのだが、回を重ね、有料になってからも数百円程度だった。現在はさらに出世したので配布しないのだろうか?世田谷パブリックシアターなどは有名俳優の出る公演でも配布しているが?最近は知らないが、以前、劇団新感線が新橋演舞場に出た際も、販売している豪華パンフとは別に無料の配役表も配布された。
    無料の配役表については、ほかのかたも別の件で苦言を呈されていたことがあったが、昔からそういう慣例のない東宝系の大劇場は別としても、本公演は有名劇団とは言えない大衆演劇系の小規模公演であるのだから配慮がほしいところだ。

    ネタバレBOX

    オープニングの武田軍団の進軍場面。「人は石垣、人は城」とうたわれた武田武士の勇壮なイメージを表現しているのだろう、と想像した。しかし、長すぎてダレる。もう少し短くてもよいと思った。
    芝居の大部分は、「ハムレット」の物語そのままを武田家の話に移しているがまったく違和感がなく、よくできている。
    父信玄が何者かによって殺害され、三年の間喪を伏す必要から、信玄の弟の信廉が信玄の影武者を勤め、嫡子勝頼の母である由布姫までも信廉の妻となったため、勝頼の叔父信廉への不信感と怒りが爆発。信玄の亡霊に出会って謀殺の事実を知った勝頼は、狂人を装い、自分の身辺を探っていた重臣馬場信春を斬殺。信春の娘で勝頼の許婚も犠牲になって斬られ、レアティーズ=信春の嫡男昌信(となっているが誰?笑 史実では嫡男は昌房という名のはずだが)が勝頼を父の仇と狙う。そうこうしているうちに天下を狙う織田信長が間者の森蘭丸を武田の城中に送り込んで信玄の死を確信し、
    長篠の戦いが始まる。勝頼は武田の頭領は自分だと言って譲らず、母の由布姫は「まだ経験が浅い」と反対するが信廉が譲歩するので勝頼は決行してしまう。結局、その通り、織田の鉄砲隊に負け、武田は滅亡してしまう。この芝居では母親は死なず、尼寺に入るのはオフィーリアならぬ母親の由布姫だ。
    和泉元彌の勝頼すなわちハムレットは、芝居はまあまあだが、振り絞るようなしゃがれ声が聞き苦しく、見た目に反して颯爽とした若武者にならない。この人の父で狂言師の故・和泉元秀も悪声だったので遺伝かと思うが。段差の多い舞台での足取りなどは時代劇俳優らしくさまになっており、これは伝統芸能にいる人の強みである。簡単なように見えても時代劇の舞台での歩き方というのは型やコツがある。これができていないと、時代劇は興ざめ。最近の人では中村誠治郎の歩き方がダメな例である。ガートルードは武田信玄の室、由布姫で、汀夏子。昭和40年代、宝塚歌劇団で伝統ある「芝居の雪組」を率いた男役トップスターだけに、深みのある芝居をする。タカラジェンヌ、特に汀の世代はこういう役が得意なので安心して観ていられる。昨今のハムレットによく見られる安っぽい娼婦のようなガートルードにならなかったのは救いで、信玄の室としての気品と美しさ、情愛の深さを出した一級品。オフィーリアにあたる勝頼の許婚・縫(ぬい)は岡崎高子。北区つかこうへい劇団で主演したこともあるようだが、時代劇のお姫様の下手な見本みたいで魅力に欠けた。先日観た宝塚の娘役の蘭乃はなのオフィーリアのほうが、よほど型にはまらず巧かった。脇組常連の夕貴まおは森蘭丸役だが、ここでの蘭丸は「お蘭」と呼ばれ、これが男装のくの一なのか、色小姓なのか、芝居上判然としない。元宝塚雪組の男役で在団中は芝居の巧い子だったが、彼女の殺陣の巧さと容姿の美しさは時代劇での華。彼女も汀夏子の後輩に当たるわけだ。勝頼が旅一座に父の暗殺劇を演じさせるのも原作と同じでそれを和泉元彌のお家芸の狂言風に演じるのがご愛嬌。この旅一座の助けを借りて蘭丸が潜入するが、企みが発覚し、座員たちは皆殺しにされる。
    ポローニアス=馬場信春は脇の片腕とも言える石山雄大が手堅く演じる。昌信は鼓太郎、信長はザ・コンボイ・ショウの徳永邦治で、それぞれ見せ場を与えているが、徳永は、扮装が信長らしいだけで、演技はさほど印象に残らなかった。最後まで残った疑問は、原作の「ハムレット」同様、父の亡霊が叔父の裏切りを明かすのだが、はっきりと信廉の差し金とわかる台詞はなく、信廉はクローディアスほど腹黒い人物には描かれていない点だ。勝頼を家臣の前で嫡子と定め、あくまで自分はリリーフ役と宣言。勝頼が陣頭指揮をとると主張したときも素直に譲る。と、なると、勝頼の狂気の芝居は単なる妄想ではないかとさえ、とれてしまう。信廉役がザ・コンボイ・ショウの石坂勇だから悪役にできない配慮なのかもしれないが、テーマにかかわることなので、そこはきちんと描くべきだったと思う。長篠の合戦以降、ハムレットのテーマがぼけ、短気な武将の滅亡物語になってしまうのも気になった点。

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