最後の手紙 公演情報 最後の手紙」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
1-1件 / 1件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     今作は人間性を踏み躙るあらゆる政治体制に対する、弱く壊れやすい無数の人間達の苦悩の原点から為政に突き付けられた20世紀で最も優れた告発の代表作品の1つだ。

    ネタバレBOX


    「最後の手紙」一人芝居研究会 2022‣7.26 19時シアターX
     ウクライナには、ベルディ-チゥと呼ばれるユダヤ人の多数住む街があった。作家・ワシリー・グロスマンはこの街で生まれた。彼は「人生と運命」という長編を書いているが、1941年独ソ線が開始されるとウクライナも独軍の占領を受けた。その被占領地に彼の母が居た。女医として仕事をしていた彼女だったが、ユダヤ人であった為、職を追われゲットーに閉じ込められ最期には強制収容所に送られて殺されてしまった。
     その母が最期の日々を綴った手紙という体裁で書かれた『最後の手紙』と題された章が今回一人芝居研究会の志賀澤子さんによって演じられた今作である。ユダヤ人に対するホロコーストと差別・迫害の酷さについては皆さん既にご存知であろうから、ここでくどくど繰り返して説明することはしない。今回の作品発表に当たっては山下洋介さんの弟子筋に当たる方が、ショスタコーヴィッチのピアノソナタ2番をイメージしつつ、余り被りすぎないように独自に作曲し直しチェロの生演奏として伴奏を付けて下さった。主人公である母が置かれた苛酷な状況が孕んでいた時代の不協和音を見事に示し物語冒頭で演奏された曲想が終盤繰り返される際には観客にとって冒頭現代音楽の不協和音として機能したその曲のイマージュが、明日をも知れぬ迫害と死への恐怖に追い詰められたユダヤ民間人の不安そのものの表現として立ち現れてくる。志賀さんの演技も流石で厳しい状況の中でも品性を保ち知的に世相を観じながら振る舞う理知的な女性の姿は尊い。
     ところで原著は大作で、その眼目はナチスドイツもスターリン体制下のソ連もその本質に大差が無いと観、それをグロスマンが「人生と運命」という作品に結実させていることにある。また1988年から91年に至るソ連崩壊により約80万人と謂われる旧ソ連圏在住ユダヤ人がパレスチナを占領し続けるイスラエルに移住しイスラエル国民となった。シオニズム国家はその為強度、IT技術の粋を尽くした更に悪辣な「国家」と化して現在に至っている。この姿は、正確に世界を観る人々の間での常識である。

このページのQRコードです。

拡大