金色夜叉・改 公演情報 金色夜叉・改」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

     ホリゾントセンターに大きな月 中央出捌けを挟むようにパネルが貼られ、パネルの開口部近くにシンメトリックに取り付けられた巨大な眼球のような照明。東洋館のレイアウトは、皆さん既にご存知だろうからくどくど書かないが上手には螺旋階段を上った先に小部屋がある。

    ネタバレBOX


     今回は途中休憩10分を挟んで2時間40分超の長尺。「金色夜叉」は尾崎紅葉の書いた大衆小説の傑作だが、今作はこれに改が付き、ゴールデンデビルVSフランケンシュタインのサブタイトルが付けられて望月ワールドを為している。
     少し寄り道をしておく。御存知の方も多かろうが1816年「フランケンシュタイン」を書いたメアリー・シェリーは、詩人のP.シェリー、バイロンらとレマン湖湖畔にあったディ オダティ荘に滞在していた。折あしく長雨に降り込められて屋内に閉じ込められた一行は、バイロンの提案「皆で1つずつ怪奇譚を書こう」との案に乗った。こうしてシェリーは後に「フランケンシュタイン(原題:(Frankenstein: or The Modern Prometheus)」として知られることになった作品の原案を書いたとされている。(余談だが今作中、プロメテウスに関する話題が台詞に出てくるのはこの原題とかかわりがある。)さて寄り道序にressentiment について述べておくことにしよう。台詞ではドイツ語とされているが誤まりである。フランス語だ。ドイツ語の原著を読める訳ではないのでハッキリは言えないものの、今作で用いられているressentimentは、キエルケゴールを経由してドイツの哲学者・ニーチェが用いた、台詞で述べられたような概念の用語として、ニーチェ自身がこの単語を用いていて勘違いなさったのだろう。ヨーロッパの哲学者ともなれば、ギリシャ、ラテンは当然のこと、自国語、仏語、英語その他多くの言葉を理解して当然なのでこのようなことが起こることはヨーロッパで生活していた者にとっては日常的なことである。日本の哲学者でも数か国語を理解する哲学者は一流大学教授にはそれなりに存在している。これも当たり前のことだ。
     ところで、今作大きな所で、2つの作品「金色夜叉」と「フランケンシュタイン」という全くタイプの異なる作品が連結されている訳だが、シナリオに書かれた台詞から判断するにこれを繋ぐコンセプトこそ ressentimentであるという。これはニーチェの概念定義によれば‟弱者が抗えない強者に対して内面に抱える「憤り・怨嗟・怨恨・憎悪」というような感情そのもの“である。即ち弱者の遠吠えに過ぎない。一過性のムーブメントなのである。この普遍性にもパースペクティブにもまた論理的整合性や構築性にも欠ける状態を一貫した物語のビルジキール(船の竜骨・船体全体の背骨に該当する構造)として用いようとしたことに今作の弱さがある。サブストリームに現れる心中の構造は、日本人の文化に深く根差した心中物の傑作の豊かな伝統を踏まえれば無論、ストンと腑に落ちる、見事な美しさと強度を具え、哀れをもよおすものの、解決策としては死という形しか持ち得ない、弱者の美学に過ぎまい。意地の悪い見方をすれば単なる敗北主義である。そこで持ち出されて来たのが擬制である。(例えば金融システム、例えば装置としての靖国VSプロメテウスとしてのフランケンシュタイン、そして3者の三つ巴)ラストシーンで高利貸しと貫一、宮が三つ巴になるシーンを観よ! 他没落士族と思しい「三流社会活動家」、ある種の人造人間であるゴーレムの登場等様々な敗者の残影、遊びも鏤められているのは無論のことだが、返す返すも更に奥深い普遍的統一性を持った論理を作品構造の根底に据えないと作品としての弱さは克服できないと考える。
     また吉田松陰の「幽囚録」に述べられた膨張主義も混乱を極める現在の情勢を彷彿とさせるために多用されているのだと考えるが、このような膨張主義に何ら普遍性は無い、と自分は考える。無論、もっと別の道を考えてはいるが、今は内緒。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ドガドガもコロナの走り(謎の感染症に最もビビッドに反応していた時期)の不安の中で観劇した一つだったと記憶するが、その後雌伏を余儀なくされ今回晴れて二作品のリバイバル上演となった由。
    ただし、「金色夜叉」の末尾に「改」とある通り、以前観た(と思う)内容から相当なボリューム増しとなっていて、明治期の歴史の立役者たち及び小説の登場人物が絡みに絡んで昇華して行き、進むにつれ台詞は生き生きとして作者望月氏の魂がメラメラと舞台を焦すよう。2時間半超えが全く苦痛でなかった。お祭りだ!

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