楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~ 公演情報 楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
1-2件 / 2件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    一つまた新しい発見となった。じっくり丁寧に描き出す『楽屋』。

    ネタバレBOX

    上演によっては1時間を切る戯曲だが、この入場料を取るだけの内容に出来るのか・・と下世話な関心も持ちながら久々の赤坂RED THEATERの座り心地良い座席に収まる。
    開演。照明に照らされた舞台美術にまず目を奪われる(「楽屋」を見慣れてるので)。「演出」の仕事を印象づける大河内直子、今回はこれか、とまず思う。以前同じく赤坂REDで観たunrato舞台に少し似る(美術 石原敬)。雑然かつ整然と、くすんだ鏡台や調度が置かれ、ススキの穂がそこここに顔を出す。野に吹く風の音。小さく流れてくる優しく包む系の音楽(確かピアノ音)の中に、小鼓の音がポンと微かに鳴り、空耳かと疑っているとまた遠くで「よおーっ」と聞こえる。能のモチーフである鎮魂の舞台はなべてかつて戦乱のあった野っ原であったと合点する。

    楽屋を演じてきた女優たちの中で、飛び抜けて達者だという訳でないが、実力の確かな所はunratoの求めるレベルを担保。まず最初の見せ場、女優A、Bの演技のやり取りの中でもAがノリノリでやる「斬られの仙太」。渡世人の喋りを保坂知寿の細い低音が小気味よくぐっと来る。
    女優Dが登場して女優Cが舞台から戻った後の二人のやり取りとそのA、Bの受けで進むアンサンブルの場面は、A、Bがやや控えめ(二人の会話に気をとられて互いに奇妙なメイクをしてしまう所は実際にはやらず)、だが精神を病んだDが去った後、女優人生を振り返るDの独白場面は過去観た「楽屋」の中で最大級に熱を帯びた。「出来る女優」然を形象できる女優が激情を迸らせると、リアルにその自負と孤独が浮き彫りになった。先まで陰でDを悪口を投げていたA、Bが、心の底から共振し静かに聞き入り、正面(鏡)を向く二人の内面をさらした表情が揺らぐ照明の中に浮かぶ。
    クライマックスをこの場面に置いた事で、最終場面(Dが亡霊となって再び現れる)が若干厳しくなるが丁寧に切り抜けていた。静かに意気投合した三人は下手端の蓄音機に生のレコードを置いて針を落とし、三人姉妹の役らしい衣裳を各人がまとう。感情を高ぶらせ過ぎず、押さえ過ぎず、イリーナ、マーシャ、オリガが台詞を言い、オリガの途中で照明が落ち、台詞「それが判ったなら」が残る。風。

    殆ど大勢に影響のない難点を敢えて挙げれば、冒頭場面でDが忙しく鏡を覗いてメイクをチェックする目線が鏡面と垂直でなく斜めだった事(やっぱそこはリアルに)。AとBの二人が言い合いになって物を投げ合う所で、最後の一投げ「えいっ」(畜生という心の声)が欲しかった。DがCの迫りに思わず激高して酒瓶を手に殴る所は「咄嗟」にしては手を伸ばす距離が(重箱の隅だが、逆に他が完璧という証左?)。
    ただしその殴った瞬間(衝撃音)、その酒瓶(割れたず)があっと言う間にどこかへ消え、目で探したが見つからず、うまい処理であった。
    (上演時間:1時間20分)
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    まず驚かされたのが舞台美術。幽玄が夢幻舞台へ変化していく美しさ、そして力強い。今まで観た「楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~」の中では絶品。4女優の演技はもちろん素晴らしいが、演出の妙に感心した。今までも そういう作品を観たと思うが、この公演は視覚に訴えるが、表層的な観せ方ではなく、劇中劇の舞台である「かもめ」が楽屋を通して、その向こう側で本当に上演しているような雰囲気。華やかな表舞台を想像させながら、その裏「楽屋」は廃墟イメージで、まるで「雨月物語」(上田秋成)を連想する。「楽屋」という物語は2項対比を思わせるところが幾つもあり、それが対立であったり比較といった面白さを描き出す。その内容的充実も見事。冒頭とラスト、情感たっぷりに輪唱が劇場内に響く。さぁ幕開けだ!

    (上演時間1時間20分)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、中央奥(女優C)に本物の鏡台、手前(客席寄り)の上手(女優A)・下手(女優B)側に枠だけの鏡台。天井には綱が垂れ下がり、蔦のようなものが巻き付いている。舞台のいたる処にススキ等の草。上手・下手側(ほぼ袖。上手は衣装、下手は私服という別)に衣装吊。全体的に雑然としており、廃屋のような雰囲気だが、置かれている道具・小道具から妖艶で華やかさも漂う。上演前に客席から騒めきの様な声が聞こえるが、実は劇中劇の向こう側にいる仮想客席の騒めき。そしてラストにも聞こえる。劇中劇の楽屋であることを意識させるフェードアウトのような暗転、微風が吹きススキ等が揺れ物語が始まる。
    先に紹介(敬称略)してしまうが、配役の女優A:保坂知寿、女優B:大空ゆうひ、女優C:笠松はる、女優D:磯田美絵。そして女優C以外の衣装は白地もしくはそれに近い淡色、対して女優Cは黒い下着、赤いドレスといった濃色で、そこには人物の生死を表現する。女優の“業”の深さを浮き彫りにするこの戯曲は演劇人たちの心を掴み、これまでも数多の名優たちが演じている。

    楽屋。
     亡霊になった女優Aと女優Bが楽屋で念入りに化粧をしながら、永遠にやっては来ない出番に備えている。今上演中なのはチェーホフの「かもめ」。2人の緩く力の抜けた会話が絶妙で、これ演技と思わず唸ってしまうほどの自然体。AとBはお互い当てこすりや嫌味などを口にするが、たまに見せる少しの気弱さも愛らしい。亡霊女優2人の戦前の訳と戦後の訳の違いや、小道具(戦前の手鏡、戦後の卓上鏡)など実に丁寧な観せ方。同時に古典戯曲の「かもめ」「斬られの仙太」等の台詞を生き生きと演じる面白可笑しさ。哀感漂う公演の中に軽妙で滑稽な場面を散りばめる妙。
     主役・ニーナ役の女優C。美しい舞台姿(衣装)で、ヒロインを演じている女優らしい華やかさ、同時に内に秘めた勝気そうな振る舞い。笠松は女優Aの保坂、女優Bの大空を向こうに回して大きな身振り手振りで圧倒し説得力もある。AやBより遥かに恵まれた環境にもかかわらず、40歳過ぎても女優業に必死にしがみついている痛々しさ、そんな哀愁も滲み出ている。そして噛みしめるように語る独白も圧巻。
     女優Cが楽屋に戻って来ると、プロンプターをつとめていた女優Dが枕を抱えて現れる。彼女は精神を病み入院していたが、すっかりよくなったから、ニーナ役を返せと女優Cに詰め寄る。枕を腕に抱え、おっとりとした口調。不気味でもあり純真さのような雰囲気も醸し出す。CとDは言い争いになり、女優Cは思わず女優Dの頭を瓶で殴ってしまう。女優Dは起き上がってフラフラと出て行くが、女優Cが楽屋を出ていった後に戻ってくる。今度は亡霊のAとBが見えている。打ち所が悪く死んでしまったようだ。ニーナ役が欲しくて精神異常になった若い女優がまた1人死んだ。
     3人になった楽屋の亡霊は、何かの拍子にやって来るかもしれない出番のためにチェーホフ「三人姉妹」の稽古を始める。

    演出は大河内直子女史。数多く上演される「楽屋」、その定評のある戯曲に真正面から取り組む。また演じる女優たちの個性を役に上手く投影ー料理でいえば“素材を最大限に活かし旨味を引き出した”といった演出がうまくハマった。舞台セットは、生死の狭間のようであり、おそらく上演中の「かもめ」舞台へと繋がる動線が生ける世界のように思える。その在り様がしっかり伝わる舞台美術。生と死が溶け合うこの楽屋は、さながら夢幻か幽玄の世界で、舞台に命をかけた女優たちの純粋な魂が輝いている。
    感心すべきは、先にも記したが舞台美術と役者の個性の引き出し。光と影といった2項対比の構造が鮮明な公演。「表舞台の華やかさ、裏舞台という廃墟のような楽屋」「主演女優とプロンプター」「生者と死者」に見る、女優という職”業”の凄まじいまでの深淵を覗かせる。表舞台に立てない名もなき女優の怨念が漂う「楽屋」。しかし決して恨み辛みだけではなく、軽妙な会話、前向きな思考、そして死してもその存在を主張するかのなうな振る舞いに勇気がわく。

    コロナ禍という厳しい状況下において、公演を催行するのは並大抵のことではないと思う。この2年余りに劇場は潰れ、演劇も衰退すると危惧する演劇関係者が多くいたと聞く。これまで培ってきたものを諦め、ひとり、またひとりと文化芸術関係の場所から離れていった方々、そう思うと「楽屋」の必死に役に喰らい付こうとしている女優魂の気高いこと。 頑張れ演劇界!
    次回公演も楽しみにしております。

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  1. unrato【楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~】 長く上演され続けてる作品ですが今回が初(配信)(※先日の博品館版も行きそびれた) ミュージカルバリバリできそうな皆々様ですががっつりお芝居。女優という生き物の、女優という生き… https://t.co/dOIljdLDFN

    約3年前

  2. unrato『楽屋』 配信で観させて頂きました☺️ 自分自身、 女優として生きている立場から 刺さる言葉が沢山で。 とても考えさせられました。 美しかった… そして、女優の皆様、素敵でした✨ 配信は明日26日までです! ぜひぜひ!! https://t.co/xPSg7GbtVJ

    約3年前

  3. unrato『楽屋〜流れ去るものはやがてなつかしき〜』@赤坂レッドシアター、配信視聴。 劇場で観た時は引きの定点だから、4人の女優A~Dがぶつかって、交わって、重なって、ひとつの劇場みたいに空間の揺れ動きが見えた。配信だとドアップ… https://t.co/a2RTRwEhKh

    約3年前

  4. 女優Bの鏡台に置いてあった黄色の「フリネックス」ティッシュBOX↓モデル https://t.co/3lWrGEHjYw

    約3年前

  5. unrato楽屋、完走おめでとうございます!!カテコ4回あってスタオベも!無事終えてほっとしたようなゆるふわ微笑みゆうひさんでした☺️お疲れ様でした☺️☺️☺️

    約3年前

  6. https://t.co/Pe0mTZCqfl 日本固有種だそうです!

    約3年前

  7. UNRATO楽屋、先日観劇しました。繊細で美しい。作品の存在はしっておりましたが、初観劇でした!本当に素敵でした。人間の普遍性があちらこちらに散りばめられていた。そんな印象です!☺️ https://t.co/Fqc5CRfsZn

    約3年前

  8. ⏰直前ライブ配信情報 by おけぴ unrato「楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~」 10/23(土)18:00 ON AIR (10/26(火)23:59迄) @ PIA… https://t.co/vLBTWUx0Zn #保坂知寿 #大空ゆうひ #笠松はる #磯田美絵

    約3年前

  9. そういえば昨日のunrato楽屋で「ままかり」連呼されててままかりってなに???ってなったんだった魚だったんね!!!🐟

    約3年前

  10. unrato『楽屋』観劇 有名な戯曲だけど僕は観たこと無かったんですよ 凄く素敵で贅沢な、楽屋との初対面ができました 開始数秒でもうグッと引き込まれちゃった しっかり埋まったレッドシアターの客席も、なんだか嬉しかったな… https://t.co/CZkk1HNPFe

    約3年前

  11. 赤坂レッドシアターなう。これからunrato「楽屋ー流れ去るものはやがてなつかしきー」を観ます。 https://t.co/PC9P6RStOh

    約3年前

  12. https://t.co/EVgpZdEuJB ゆうひさんのお写真♥ありがとうございますm(_ _)m

    約3年前

  13. 舞台unrato「楽屋」観てきた!清水邦夫の名作戯曲、いつかちゃんと観なきゃと思い続けて今に。保坂知寿、大空ゆうひ、笠松はる、磯田美絵。 女4人芝居、たいっへん見応えがあり面白かった!役者の業、生者と死者の足掻きと執着、それら含め… https://t.co/sijwcimZWI

    約3年前

  14. unrato「楽屋」★★★★4月に亡くなった清水邦夫の追悼公演がないのが不思議だったが、代表作の女優劇が登場、大河内直子演出が蜷川幸雄へのオマージュをまぶして好舞台となった。芒を配した夜の楽屋が謡曲に誘われ、幽霊の場に。保坂知寿が… https://t.co/NhlgYz0Q1t

    約3年前

  15. unrato『楽屋〜流れ去るものはやがてなつかしき〜』 ⇒ https://t.co/Fa0a4pUyL4 #アメブロ #保坂知寿 #大空ゆうひ #笠松はる #磯田美絵

    約3年前

  16. どんな4名が演じるかで背景に広がる深み、天の高さは変わると思うけど、地に足のついた力強い俳優達が演じると生々しく重みがあるなと。最近の現代口語演劇じゃなくて、しっかり力と積み重ねのある俳優達の声と身体があるほど『楽屋』の向こうの景… https://t.co/PtzbAcjtB5

    約3年前

  17. 大空ゆうひさんが見せる可愛らしさが、女優Bの迷いを垣間見せて、だからこそ最後のシーンは効く。笠松はるさんは声の美しさと汚さを織り交ぜながら一手に大事な部分を背負ったなと思うし、女優D役の磯田美絵さんが同じ人かと思うくらい表情が変わっていって引き込まれた。 unrato『楽屋』

    約3年前

  18. 女優Aが生きた時代、いかに俳優達が様々なものを背負い、背負わされたのか、保坂知寿さんの声の向こうに荒野のごとく広がるその重みを感じて涙が出た。まさに舞台も、時に荒野に見える、美術と照明が合わさる角度が変わるとこんなにも景色が変わるんだなと楽しかった。 unrato『楽屋』

    約3年前

  19. アン・ラト(unrato)『楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~』@赤坂RED/THEATER 清水邦夫さんの戯曲の魅力あれど、4人が生々しく、生き生きと、怨念のような凄味があると同時に軽やかで。会場は笑いも多くて。保坂知寿さん… https://t.co/be41eOcebw

    約3年前

  20. unrato『楽屋〜流れ去るものはやがてなつかしき〜』、これまでに観た中で一番よかった。いやー、もうどうせなら一曲歌って頂きたい面子が揃っているのだけどひたすらに女優力で勝負。舞台美術も素晴らしかった。この作品で泣けたのは初めて。

    約3年前

  21. 今夜は赤坂RED/THEATERにてお初のunrato『楽屋〜流れ去るものはやがてなつかしき〜』(作:清水邦夫、演出:大河内直子)。元劇団四季×元宝塚×元は劇団四季×文学座の組合せ。 https://t.co/yKgbUj9MkZ #保坂知寿 #大空ゆうひ #笠松はる

    約3年前

  22. 無事にunrato『楽屋』開幕しました。 稽古初日から早く本番を観たいなぁと心待ちにしていて、一昨日のゲネの時点で既に感動しておりました。 私は初日離脱してしまいましたが、我が家からあるものが小道具として参加してるので、千穐楽まで… https://t.co/m0cESvyqGH

    約3年前

  23. ギフトチケットを実施するunrato『楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~』が、10/16(土)開幕です。日本で最も上演回数が多いと言われ、登場する古典戯曲の予備知識がなくても純粋に楽しめる傑作。作者と縁の深い大河内直子演出を目… https://t.co/ot3rpAXYxc

    約3年前

  24. 【こりっちチケットプレゼント!10/13(水)〆切(東京)】 アン・ラト(unrato)「楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~」10/16(土)~10/24(日)於:赤坂RED/THEATER CoRich舞台芸術!:… https://t.co/q826qN90iA

    約3年前

  25. アン・ラト(unrato)『楽屋』、公演パンフレット作成のため稽古場へ。毎回、丁寧な換気・消毒・抗原検査をおこなっての打合せ&稽古。おかげさまで素敵な写真や胸の熱くなる寄稿文などが一冊にまとまりました! ▼パンフレット(WEB予約… https://t.co/Qf9UcHlN1j

    約3年前

  26. 文化庁芸術祭、ギフトチケット実施3公演が参加(初日順)。 ●unrato『楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~』(10/16~10/24、赤坂RED/THEATER) ●iaku『フタマツヅキ』東京公演(10/28~11/7、… https://t.co/Ic6laxI6p9

    約3年前

  27. アン・ラト(unrato)『楽屋』、保坂知寿さんと大空ゆうひさんにインタビューいたしました! 稽古も拝見しましたが、この4名がいる楽屋の向こうはこんな劇場じゃないか?と具体的な想像がわいてくるんです…清水邦夫さんの美しい言葉に聞き… https://t.co/2ByFEJUwM2

    約3年前

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