CoRich舞台芸術まつり!2014春 グランプリ受賞作
□字ック『荒川、神キラーチューン』再演ツアー 特別インタビュー

□字ック

写真左から:日高ボブ美、山田佳奈、小野寺ずる

 CoRich舞台芸術まつり!2014春・グランプリ受賞作の□字ック『荒川、神キラーチューン』が、こりっちスポンサード公演として再演されます。⇒特設ページ ⇒グランプリ受賞ページ ⇒審査員クチコミ評

 6/29(水)~7/3(日)の東京池袋公演7/9(土)~7/10(日)の愛知豊橋公演の2都市ツアーに向けて、意気揚々の□字ックのメンバー(作・演出・主宰の山田佳奈さん、所属俳優の小野寺ずるさん日高ボブ美さん、座付制作の宮原真理さん)にお話を伺いました。

インタビュアー

 2年前のグランプリを受賞した時のお気持ちをお聞かせください。

 
 

 実は私、第一次審査で10作品に選ばれた時点で、少し満足しちゃってたんです。でも他の劇団の人たちからの反響がすごく大きくて。今の状態で満足してちゃいけない、敬意をもってグランプリを狙わなきゃと思いました。自分の精一杯、満身創痍で行こうと思ってたので、まさかグランプリを取れると思わなかったです。
 取れた時は…携帯を持つ手が初めて震えて。ああ、震えるってこういう感覚なんだ…って、今でもすごく覚えてます。胸が熱くなりますね。

山田さん
 

 私もまさか取れるとは思ってなかったですね。発表の日は寝てました(笑)。携帯がぶるぶる鳴るので、うるさいなぁと思って開けたら、めっちゃLINEが来てて!あ、そういえば今日が発表だった!って。(眠くて)朦朧としながら「ありがとうございます」って返信してました。

日高さん
 

 そうだったの?知らなかったよ!(笑)

山田さん
インタビュー風景
 

 私は日高とは逆で、仕事をしながらパソコンでF5キー(更新ボタン)を押しまくってた記憶が…(笑)。トイレに駆け込んで泣きそうになりながら、「取ったよ!」ってLINEを打ちました。
 旗揚げメンバーで残っているのは私と山田だけなんです。劇団として4年目で、少しずつお客さんがついてきてる実感はありましたけど、こういった賞をいただいて色んな方の支持を得られたのは、やっぱりすごく嬉しいものだと思いました。
 座組みの皆さんも「せっかくだから取りたいね」という意識があって、いい雰囲気で稽古できたからこそ、人の心に少しでも残る作品が出来たんじゃないかなと思います。

宮原さん
 

 私は…いやらしい話ですけど……稽古中から絶対にグランプリを取るって思ってました。でも「グランプリ取れるかな?」「小野寺さん、どう思う?」って聞かれても、「絶対取れないですよ、負けます」「無理です無理です!」って答えてて。「一番欲しい物は口にしない」って何かの歌詞にありますよね? 内心では「ぜーーーったいに、取る」って思ったけど、言わなかったんです。単純にお金と名誉が欲しかったんですよね。

小野寺さん
 

 わはははは!

山田さん
 

 今思うと名誉とか肩書とか恥ずかしいし、どうでもいいんですけど(笑)。

小野寺さん
インタビュアー

 小野寺さんは俳優賞(現在の演技賞)も受賞されています。

 
 

 俳優賞も同じですね。「絶対取る」って思ってたから「絶対ムリですよ」って言ってて。劇場に入ってからはグランプリも俳優賞も「まあどっちでもいいや」って思ってたんですけれど。名誉とお金って…嫌な言葉ですね(笑)。
 発表の時は、私はボブ美さんとは対照的に、朝起きた時からずっと携帯でサイトを読み込んでました。結果が分かった時は「いやっほー!」という感じではなく、「ほほ~…」「ふーん」みたいな感じでした。…伝わらないですよね(笑)。

小野寺さん
インタビュアー

 受賞する心の準備が出来ていた、という意味ですか?

 
 

 あの頃、知り合いが「演技に気持ちや魂を込めなくても、意味が伝わってお客さんが感動すればいい」みたいなことを言ってて、すごく腹が立ってたんです。私には技術なんてないし、当たってぶつかって砕けるばかりだったけど、めいっぱいの心で演じてた。自分は正しかったんだという証明が欲しかったんだろうと思います。それが確認できたというか。
 でも今は、その人が言ってたことをすごく理解できます。俳優は毎日、天気や体調にも左右されるから、1か月間の公演をやり遂げるには技術が必要。技術で補うことは愛情だと思うんですよ。

小野寺さん
インタビュー風景
インタビュアー

 グランプリを受賞して何か変化はありましたか?

 
 

 変化は大きかったですね。グランプリを取ったことは劇団としてすごく自信になりました。再演時のツアーやキャストさんについて、大きなお話ができるようになったのは賞金の100万円があったから。でもやっぱりお金よりグランプリの方が大きかったです。
 映画を作っている方とお話をしたら、映画は年間700本だそうで。演劇は、たとえば下北沢に10劇場あるとして、1週間に各劇場で1本上演されてたら、単純計算で月間40本。下北沢だけで年間480本です。これは…とんでもない数だなと。そんな中からグランプリに選ばれるのは、誰しもが得られる経験ではないですし。
 さっき小野寺も言ってた名誉について、私も今まで作品を作ってきてすごく思うんですけど、自分がやりたい作品、自分がなしえたい演劇公演を作っていくには、名誉の積み上げもすごく大事だなと。目指す先への足掛かりになったと感じてますね。

山田さん
 

 周りの対応がすごく変わりました。「□字ックのボブ美でしょ?」「俺も□字ックに出してよ」とか言われたり…。

日高さん
 

 あるある(笑)。私は最近、それが嬉しくなってきちゃって。こういう仕事してると「作品は観たことないけれども、なんか好き」って思ってもらえることって、一番だなって。私が知らない誰かにもちゃんと届いてるってことですから。

山田さん
 

 私はこの賞のおかげで、前よりオーディションに受かる確率が高くなったと思うんです。去年は20年、30年と演劇を続けている先輩や、年配の方とご一緒できた。そこで自分って本当に下手クソなんだと気づいたというか…全く歯が立たないんですよね…。賞を取ったことでちょっぴり天狗になった私の鼻が、グシャ!っと折られた。その上でわかったことがいっぱいありました。

小野寺さん
インタビュー風景
インタビュアー

 受賞ゆえの挫折もあったんですね。

 
 

 大きな挫折でバキっと折られたというより、小さな挫折が何度もあった感じですね。素敵な人と一緒にやれる機会をもらえたのはありがたいです。そのおかげで「名誉が欲しい!」「金も欲しい!」みたいな気持ちは、今は全くないです(笑)。

小野寺さん
 

 節目でしたよね。挫折とか色んな気づきとか、周りの変化も含めて。そう考えると4年間の劇団の活動の中で、一個の通過点として一番大きかったと思いますね。

山田さん
インタビュアー

 劇団の制作面ではどんな変化がありましたか?

 
 

 今までは100席ぐらいの劇場でやってたんですけど、次の再演では一気に2倍、3倍の客席数の劇場でやれるようになりました。そしてツアーにもチャレンジできる。ちゃんと評価されて称号を頂き、自信のある作品だからこそ、次のステップに進めたんだと思います。
 グランプリ取ってからお客様も増えましたし、今まで自分たちが観てて素敵だなと思っていた役者さんが、自分から出たいって言ってくださることも少しずつ増えてきました。先ほど山田も言ってましたけど、今回はキャスティングにも相当に力を入れてます。今後のステップアップのバネになったなぁと強く感じていますね。

宮原さん
インタビュアー

 スポンサード公演にかける思いをお聞かせください。

 
 

 とにかく1人でも多くの人に観てもらいたいですね。観てくれた人が生きていく上で、少しでも癒しや救いになったり、心のよりどころになればいいなと思います。とはいえ『荒川、神キラーチューン』は簡単に癒されるような内容じゃないし、登場人物は悪人が多いんですけど(笑)。みんな愛嬌があるんですよ~。色んな役があって人数も多いから、誰かに自分を近づけられる瞬間があるんじゃないかと。キャストもそれぞれに独特な方が集まってますから。

日高さん
 

 悪人しか出てないように見えるのは、私が性善説で人を描いてるからなんですよね。人間は成長するにつれて汚れていくんだけれど、ひっぺがしたら綺麗なんだよっていう。ふとしたところで性善の部分に立ち返るのが見たいんです。

山田さん
 

 私は、いい意味で、迎合したくないと思います。自分が信じる最善を、心をもって尽くしたい。なるべく大勢の人に気に入られようとするのではなく。自分との闘いですね。この数年間に色んな先輩からありがたい言葉をいただいて、公演の成功って何なのかを自分なりに考えてきました。再演にとらわれないで、作品、言葉、相手にめいっぱいつぎ込んで、真摯にやります。

小野寺さん
 

 制作としては7ステージ全てを満員御礼にしたいです。今回は公演期間が5日間しかないので、開幕前にしっかり予定に入れてもらえる作品にしなくちゃいけない。
 また、「□字ックの名前は知ってるけど観たことはない」というお客様がすごく多いので、今回が勝負だと思っています。ここで終わらずに、次のステップになることを成し遂げたいですね。
 先日、ある大きな劇場の方が「今の若手劇団は小さくとどまって、大きく仕掛けてこない」とおっしゃっていました。□字ックのような何の後ろ盾もない劇団でも、大きな劇場はバックアップをしたいという意志をお持ちだったんです。私としてはある程度のリスクを取った上で、劇団として生業をたてられるような一歩を踏み出せたらと思っています。

宮原さん
インタビュー風景

『荒川~』再演では主演に町田マリーを迎えた。

インタビュアー

 山田さんは今回、出演を控えて作、演出に専念されます。再演ツアーに臨んで特に考えていることはありますか?

 
 

 たぶん作品を作る上で大事にすることは再演でも変わらないです。私自身が演劇に求めるもの、演劇の一番の魅力は、人の人生を一瞬で変えられること。そんなものを作れるっていうことだと思うんですね。それが自分が演劇創作をしている意義です。
 映画も音楽もそうですけど、見ず知らずの誰かが自分の作品や自分の思っていることに共鳴して人生が変わるって、すごい芸術だなぁと思っていて。東京でも豊橋でも、そういう出会いがしたいです。
 私はずっと演劇とロックが好きで、“好きこそものの上手なれ”の精神で何も知らないところから色々勉強してきました。その思いを大事にして、今までどおり作品を作っていきたいなぁと思ってますね。

山田さん
インタビュアー

 お話を伺ってきて、『荒川、神キラーチューン』に満ちていたパンク・スピリッツは、□字ックのメンバー全員の胸に熱く燃えているものだったのだなと思いました。新しい座組みでブラッシュアップされて、パワーアップした再演をとても楽しみにしています。

 

インタビュー実施日:2016年4月2日 取材・文:高野しのぶ 写真撮影:CoRich運営事務局 ※文中敬称略

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