ミスターの観てきた!クチコミ一覧

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オネエ探偵と初恋喫茶

オネエ探偵と初恋喫茶

秘密結社Crymax

シアターブラッツ(東京都)

2017/06/07 (水) ~ 2017/06/11 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2017/06/08 (木) 14:30

8日午後、新宿のシアターブラッツで上演された秘密結社Crymax第1回公演『オネエ探偵と初恋喫茶』を観てきた。この公演は、秘密結社Crymaxの旗揚げ公演である。上演は、HOTチームとICEチームのダブルキャストで行われた(喫茶店店長役は共通)。自分の観たのは、ICEチーム初日であった。

ネタバレBOX

舞台は、マスターが病気入院中のため仮店長が営む喫茶店。閉店時間が早く、コーヒーの味がイマイチの店で常連客以外に訪れる客もまばら。この店に、旅商人を生業にする、探偵崩れのオカマの比呂美が立ち寄ったところから起こるドタバタ劇とでも言おうか。
まずは、旅商人ならではの美味しいコーヒー豆を売り込むところから、しばらくこの喫茶店に逗留することになる。探偵崩れの性格は、やがて様々な難問を解いていく。難問と言っても、常連客の友人である盲目の少女が初恋をし、その相手に会いたいというので、その相手を探し出そうとするが上手くいかず、初恋相手が見つかったことにして店員と常連客で盲目少女に一芝居打ったり、なぜ常連客3人はコーヒーも美味しくなく閉店時間の早いこの店を利用しているのか、その謎を解き明かす。
そして、再び旅商人としてその店を去って行くのであった。

舞台の主役は、なんと言ってもオカマ比呂美役の古川築だろう。オカマの雰囲気、謎解きのプロセスと、なかなかの熱演。謎解きのプロセスの面白さは、彼だけでなく脚本の出来も関係している。ただ、常連客に対する謎解きが簡単すぎるのには、ちょっと手応えが薄い印象をもった。
出演者たちの個性を生かした演出はまだ洗練されてはいないが、この先どう演出家として成長していくか楽しみである。
そんな訳で、その成長過程を確認したいので11月の第2回公演も観てみたい。
ポルカ

ポルカ

劇団芝居屋

テアトルBONBON(東京都)

2017/05/24 (水) ~ 2017/05/28 (日)公演終了

満足度★★★

26日、中野のテアトルBONBONで上演された劇団試買屋第33回公演『ポルカ』を観てきた。行こうと思ったのは、33回も公演を続けている劇団の実力とはどんなものか気になったのと、ポルカという喫茶店を巡る常連客の人間模様という劇の内容に惹かれたから。

ネタバレBOX

劇の舞台は、とある場所にある親子2代続く喫茶店ポルカ。喫茶店と行っても、夜はバーとして鮭を提供している。登場人物は、この店のマスターと常連客、パン屋の男性、女探偵、保険外交員、父から会社を引き継いだ不動産会社社長、ミニコミ誌編集者、不動産会社社長を引退して1人住まいをしている老男性、そしてその男性と熟年者パーティーで知り合った老婦人。話の中心は、実は老婦人が指名手配されていた詐欺師で、あやうく引っかかって100万円を渡そうとしていた老男性をマスターと常連客が救うというもの。そこに、パン屋の恋愛、編集者の苦労話、保険外交の顔の広さなどが絡み合っていく。

と、こう書くとなかなかスリリングな展開の爽快な舞台だと思うかもしれないが、そうなったのは全体の終わりの方だけ。正直言って、前半は、芝居のテンポ感のなさ、役者の台詞の間のスカスカ感を強く感じてどうなるかと思っていた。これ、一口で言うなら演出の手法が古いということなのかもしれない。
また、脚本的にも問題がありそうだ。例えば、指名手配されているほどの詐欺師がポルカの常連客と一緒にネットにアップされる事を承知で写真に収まるだろうか。この写真がネットにアップされた反響が話の転換点になるのだが、ちょっと不用意過ぎるだろう。
もう一つ、舞台冒頭に一樹というシンガーが常連客の1人として歌を披露するが、彼は詐欺事件防止には特に登場していない。まぁ、ポルカには様々な客が来ると言うことを暗示させるための起用とは思うが、はたして出演が必要不可欠であったか。彼の出演場面と芝居のテンポをアップさせれば、上演時間が2時間を超えることはなくまとまったのではないだろうか。
さすがに固定客もいるようだが、33回という重みをもっと真剣に考えてほしかった舞台であった。
夜の来訪者と朝の来訪者

夜の来訪者と朝の来訪者

制作「山口ちはる」プロデュース

OFF OFFシアター(東京都)

2017/05/04 (木) ~ 2017/05/10 (水)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/05/08 (月) 14:00

8日午後、下北沢のOFF・OFFシアターで上演された『夜の来訪者と朝の来訪者』を観てきた。これは、プリーストリー作、山崎洋平(江古田のガールズ)演出の『夜の来訪者』と、小林光(江古田のガールズ)作・演出の『朝の来訪者』を、各々日時を変えて対として上演しようといく企画である。厳密に言うと、作品内容からは対となる作品では無いらしいのだが、それはともかく、自分はこのうち『夜の来訪者』上演2チームのうち月チームの上演を観た。プログラムによると、この月チームの舞台はシンプルでオーソドックスなものではなく、主演となるグール警部役のカトウクリスによる『夜にクリス来襲』という感じに仕上がった舞台らしいかった。
いずれにしても、「江古田のガールズ」系の舞台は初めてだったので、期待して観に行ったのであった。

ネタバレBOX

話は複雑なようで単純。家族と娘の婚約者とで内祝いをしていた街の実力者の家に、1人の警部が尋ねてくる。なんでも、若い女性が薬を飲んで自殺した件に関して、一家に聴きたいことがあるという。最初は見知らぬ女性だと思っていた自殺者が、実は内祝いをしていた父親の会社の元従業員であり、娘の行きつけの洋服屋の店員であり、婚約者の元同棲相手であり、母親が議長を務めている「援助を必要とする女性へ援助する委員会」で援助を拒否した相手であり、一家の息子の子供を妊娠していたことが順次明らかになる。しかし、警部の帰った後、父親は警察へ、婚約者は病院に事実確認を行い、該当する警部や自殺者が居ないことを知り、一同その夜に明らかになったことを無かったことにしようと思い始める。しかし、そこに一本の電話が。若い女性が自殺し、その件に関して話を聞きたいので刑事を差し向けるという。一同、ぎょっとして顔を見合わせる。

プログラムにあったように、主役・グール警部の存在感が大きい。これは、演じていたカトウクリスの役者としての力に依るところ大だろう。次いで好演だったのが、、娘を演じた山口栞。好演というか熱演だったのが、父親役の真心。客から笑いも泣きも引き出さないにもかかわらず、客の目、いや神経を舞台に釘付けにしたことは、芝居原典とも言える形態のこの舞台全体のレベルの高さを物語っていた。客席に空席があったことが残炎。こういう舞台は是非観てもらいたい。
Mと呼ばれた少女 2017

Mと呼ばれた少女 2017

office force

TACCS1179(東京都)

2017/05/02 (火) ~ 2017/05/07 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/05/04 (木) 18:00

いつも浅草リトルシアターでその演技に接している風間寬治が他団体に客演するというので、4日夜、下落合のTACCS1179に出かけてきた。
この作品、劇団としては2000年に上演したものの改訂版再演ということになるらしい。

ネタバレBOX



舞台は、18世紀の「フランケンシュタインの世界」と、現在の「Mの世界」という2つの世界が交錯する。前者は死者の生命を蘇らせた怪物の、そして後者は遺伝子工学により生み出されたクローン人間の生きる世界。その怪物とクローンが、周りの人間達を巻き込んで生きる事への意味に苦悩する様描いている。舞台上に2つの世界が交互に現れるので、なかなか話の展開を追いにくい部分はあったが、終演後あらためて考えてみると、舞台のテーマはそれほど複雑な物ではなかったのではないかと思えた。むしろ、単純な2つの物語を脚本と演出が複雑な舞台を作り上げているような印象。

見にくい怪物として蘇った怪物フランケンシュタインは、その容姿の醜さから生み出したヴィクターを恨み彼に復讐しようとする。結果として、彼の婚約者を殺すのであるが、怪物の心の傷はそれで癒やされたのだろうか? 死者を蘇らすということを、現在ではクローン人間・真美(通称M)を作り出すことで実現化させていた。しかし、施設から出たことのないMは生まれてきたことへ疑問をもつ。しかし、施設を取材に来た新聞記者やそれに刺激された施設の意思の努力で、Mは生きる喜びを知るようになる。モンスターとは何か?人間とはなにか?その関わり合い方はどうすべきか?2000年上演では現実味というかMの存在が遠い物に感じられたであろうが,現代では動物のクローンが実際に作られている。Mの存在というものへの意識も違った物になっていよう。

役者では、怪物役の山岡弘征の存在感が大きかった。ただ、「フランケンシュタインの世界」でそれ以外の役者の印象は薄い。むしろ、「Mの世界の」の真美役の村津すみれ、新聞記者役のなかがわあつこ、研究医小野方役の是也流水の熱演が光っていた。
演出的にもう少し整理出来るのではないかと思える箇所があったが、大道具の使い方は正解だったろう。
「蝉の詩」

「蝉の詩」

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2017/04/25 (火) ~ 2017/05/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/05/04 (木) 14:00

4日午後、すみだパークスタジオ倉で上演された劇団桟敷童子公演『蝉の詩』を観た。
始めに書いておくが、今年観た舞台の中で、脚本・演出・役者の3点すべてが充実していた大変優れた舞台であった。

ネタバレBOX

舞台は、元自宅のあった周辺に出来た公園でホームレスを始めた元アイスクリーム屋の蝉への独白、そして子供の頃の回想で始まる。炭鉱から出る石炭運搬を主な仕事としている鍋嶋舟運送一家と、その中心的取引相手とは聞こえは良いが、要は舟運送に仕事を回してくれている土井垣鳴明堂。娘が刺し殺そうとまで思い詰める鍋嶋の親方で通称・鍋六は飲んだくれで金遣いが荒い。将来舟運送が下火になると察した長女・壱穂はトラックを使った陸運、次女の菜緒はアイスクリームが名物の食堂を始める。10代半ばで米兵に犯された過去を持つ三女の輝美は母親の好きだったレコードを聴きながら部屋にこもり、鍋六がどこからか連れ帰ってきた四女の織枝は高校へ進学する。土井垣から受ける仕事でなんとか続く鍋嶋一家。しかし、過労とヒロポンで壱穂は事故死、菜緒は病死、輝美は恋人にレイプされたことを告白した反応に悲観して自殺。すべては鍋六の放蕩三昧が原因とあって怒りの織枝は鍋六を包丁で刺すが、娘を殺人犯に出来ぬと舟に乗って姿を消す。残った織枝。そして土井垣の女社長が取り出した自社製オルゴールから奏でられた音楽は、輝美が愛したレコードの音楽のそれであった。
菜緒から製造法を伝授された織枝はアイスクリーム屋を営むが、結局上手くいかず今は年老いてホームレスとなって故郷に戻ってきたのであった。
苦労が大きく幸せは一瞬という人間の生涯を、蝉の一生に重ね合わせた悲劇の連鎖劇。

テーマが悲しく重いからであろうか、桟敷童子にしては笑える演技をいつもより多くちりばめて悲しさを和らげていたのは、観客への配慮か、脚本・東の執筆中の心の痛みを和らげるためか。いずれにせよ、それはそれでよい効果を上げていた。
役者としては、鍋六役の佐藤誓、その長女・壱穂役の板垣桃子、土井垣の女社長役のもりちえ、開演前から舞台で演技をしていた老婆(晩年の織枝)役の鈴木めぐみの4人が出色。四女・織枝役の大手忍も好演で会った。
名前は挙げていない他の役者達の熱演も素晴らしかった。
客演役者をも巻き込んでの桟敷童子魂炸裂。よい舞台を見せてもらった。
遠き山に陽は墜ちて

遠き山に陽は墜ちて

劇団肋骨蜜柑同好会

シアター風姿花伝(東京都)

2017/04/28 (金) ~ 2017/05/02 (火)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2017/05/01 (月) 15:00

1日午後、目白のシアター風姿花伝で上演された劇団肋骨蜜柑同好会の公演『遠き山に陽は墜ちて』を観てきた。これは、昨年来注目している役者・嶋谷佳恵が出演していた関係からである。この肋骨蜜柑同好会という劇団、名前は前々から知っていたが、実際に観たのは今回が初めて。それにしても、シアター風姿花伝に目白駅から徒歩で向かうのは少々疲れた。


舞台の内容であるが、タイトルから連想されるイメージとは少々異なる。
病気で無職のエミコと画家を目指し花屋でバイトをしているタケシの姉弟一家。ある日、偶然にも人間らしい生き物(後にロジーと名付けられた。実は宇宙人らしい)をエミコが保護し一家と同居を始めてから起きる様々な出来事がつづられた舞台。タケシのバイト先の花屋の女性店員、酔っ払いの隣人主婦、怪しげな刑事、オタクライターと担当の編集者。登場人物を観ただけでも怪しげな内容が想像できる。赤いバラに執着するロジーは、過去に赤いバラを巡って何かあったらしい。しかし、その赤いバラは自分的にはどことなく血を暗示しているように感じた。
結局、登場人物達のロジーを巡ってのドタバタを経て、最後は姉を残し、弟はロジーと宇宙に旅経つ。いや、旅だったらしいが、観ようによっては2人とも自ら命を絶ったとも受け取れる結末であった。
熱演だった姉役の嶋谷、怪しげ感を上手く出していた刑事役の久保広広亘、どこか煮え切らない弟役の澤原剛生など、各役者は与えられた役の持つ個性を好演していて見応えがあった。
強いて言うなら、この劇の最終的なテーマは何か?、タイトルとの関連性は?

舞台を狭いながらも姉弟の家、喫茶店、花屋、宇宙と4分割していた演出はなかなか巧みだったのではないか。
開場から開演まで、舞台で静止パーフォーマンスを魅せた出演者は苦労だったろうと思う。意味のあるパーフォーマンスだったかは、観る側個々の感性の問題だろう

あきこのアナの中 〜Again〜

あきこのアナの中 〜Again〜

劇団☆錦魚鉢

テアトルBONBON(東京都)

2017/04/26 (水) ~ 2017/04/30 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2017/04/27 (木) 14:00

『あきこのアナの中』というなかなか刺激的なタイトルの劇団錦魚鉢の公演チケットがコリッチのプレゼント応募で当たったので27日午後に観に出かけた。場所は、中野のシアターMOMOであった。

公演パンフレットによると、この作品は再演らしい。
結婚詐欺にあったあきこがそのショックで壊れているとき、その体内でなんとか正常の健康に戻ろうと奮戦している細菌や身体の器官を擬人化したドラマ。ん~、これに似た発想の舞台(それは、細菌などではなく、体内に取り込まれた栄養素を擬人化したもの)を以前観たことがあるが、体内を舞台にしたいという発想は脚本家にとって少なからず興味あるもののようである。
結局は悪玉細菌は破れ、善玉細菌が勝利して各器官もも正常に戻るというわけだが、これを2時間にわたって観させられると、よほどしっかりしたテーマがあるとか、笑えるとか、泣けるとか、格闘シーンがあるとかがないと実際観ている者は辛くなる。今回の舞台は、その辛さと面白さの狭間を行ったり来たりしていた。
登場する人物達の個性がイマイチ分かりにくかったり脳の各器官の擬人化が雑だったりしたのが原因かもしれない。

そんな中で熱演していたのがリン役の佐々木里奈だろう。終わってみれば、一番印象に残っていた。
役者的には問題はあるまい。脚本に決定的なシーンが欠如していたことが、この舞台の核不足感を大きくしていたように思う。

螺旋と蜘蛛

螺旋と蜘蛛

神奈川県演劇連盟

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2017/04/13 (木) ~ 2017/04/16 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2017/04/15 (土) 14:00

15日午後、横浜市山下町のKAAT神奈川芸術劇場で上演された神奈川県演劇連盟プロデュース公演『螺旋と蜘蛛』を観に行った。これは、知人の役者・田中敦之が主演を演じ、同じく知人の役者・塚田しずくも出演していた関係からである。


プログラムによると、この舞台は芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を根底にした話だという。
死後(なぜ死んだのかは明らかにされていない)に地獄へ落ちたカンダタクマは、過去の自分を強制的に振りかえらされる苦しみを味わう。父親の浮気で両親が別れたこと。その後、再婚(内縁か?)の夫が娘(タクマにとっては妹のアゲハ)を金を渡して抱いていたこと。自分が母親を殺したこと。妹を助けると言っておきながら助けられず、妹は新興宗教にはまっていく。その宗教団体の女性幹部・アラクネが妹の心のよりどころとなっていく。などなどを思い返し苦しむ。そして、最後に地獄に垂らされたロープにすがりつき天国に行こうとするタクマを、アラクネが神に「地獄に落としてください」と決断を促し、タクマは地獄に落ちていく。

螺旋状に組まれた舞台の高低をを利用してのシーン転換は、劇場の天井の高さを利用したなかなかの出来映え。
問題は、脚本だろう。過去の自分を振り返って苦しむタクマ…のはずなのだが、その苦しみの度合いが浅い印象を受けるのだ。タクマに次いで演技の高さを要求される妹アゲハも、どうもその生活上の苦しみが表面的。胸にズサっと刺さるような地獄に落ちて当然というような苦しみや痛みというものへの迫力が乏しい。
また、タクマを地獄に落としてと頼むのが新興宗教の幹部の1人アラクネなのだが、彼女がタクマに対してそうした決断をゆだねられるだけの存在だったのかも微妙。というのも、最後にアゲハの心のよりどころになったのはアラクネなのだが、彼女は新興宗教の集金活動の実態を知っていたという負い目も持っているはずだから。

という訳で、横浜というスタイリッシュな街で行われた地獄を扱ったスタイリッシュな舞台と言うのが総評的一言。

脚本はともかく、主演の田中、妹役の小林遙奈 母親役の芝崎知花子の親子の演技は、この舞台の核となるものであり、出演者の中では好演であった。
また、大道具と照明の質の高さが目立った。

おんな忠臣蔵

おんな忠臣蔵

劇団Spookies

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2017/04/06 (木) ~ 2017/04/09 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2017/04/09 (日) 13:00

9日午後、池袋のグリーンシアターBOXinBOXで上演された、劇団Spookies第16回公演『女忠臣蔵、汝、如何に愚かなりとも~』を鑑賞。これは、知人の役者・高坂汐里が出演したいた関係からである。

今回の舞台のテーマは、「命の在り方」だそうである。戦時下の女だけの移動劇団による忠臣蔵上演に向けての人間模様。当初は男性の団長を含む大所帯だった劇団から男子団員が志願兵として戦地に赴き、特攻に出撃するという日に出撃する男性達のため、そして命を簡単に扱う国家への反抗のため女性だけで忠臣蔵を上演する。

舞台にしろ、映画にしろ、人を簡単に泣かせるポイントというか定番シーンがある。それは、動物の死と人間の死。特に震災や第二次世界大戦における特攻兵の死を扱えば、簡単に人を泣かせることができる。問題は、どういう過程をへて泣かせるかという点が、脚本家に課せられた使命といって過言ではない。今回の舞台のクライマックスは、劇団員の男性達が特攻に出るにあたり肉親や妻などに宛てた遺書の朗読シーンであろう。多くの客が涙を流していたが、それで終わっては劇とはいえない。涙を流すまで、そして流した後の処理が劇としての命なのである。

その一つの解決方法が、今回扱われた忠臣蔵という作品の持つ意味合いを使ったことにあった。ただし、家老・大石が幕府に突きつけた問題を、今回は女達が国家に突きつけるという設定なのであったが、そこまでの道のりの描き方がやや中途半端だったのが残念。
役者では、生きるため、弟のために娼婦となった橘夏生役の雪原千歳、現在の劇団団長・山本千草役の谷貝里緒菜、タカラジェンヌ・黒崎トメ役の君島久子、団付き作家役の小坂逸などが熱演していたが、圧巻は特攻に行く肉親の遺書を読む面々だっただろう。
せっかくの大勢の出演者、生かし切れていると言えるだろうか。まだ、何かを引き出せた感が心の中でモゾモゾしている。

「うるさくて、うるさくて、耳を塞いでもやはりうるさくて」

「うるさくて、うるさくて、耳を塞いでもやはりうるさくて」

劇団時間制作

劇場MOMO(東京都)

2017/03/29 (水) ~ 2017/04/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2017/04/02 (日) 14:00

2日午後、中野の劇場MOMOで上演された、劇団時間制作第13回公演『うるさくて、うるさくて、耳を塞いでもやはりうるさくて』を観てきた。過去に知人の役者が数回客演しており、観に行くたびに「難しいテーマをよくここまで舞台として作り込んだなぁ」と感心させられる劇団なので、今回も観に行くことにした。AB2チームが交代で演じている舞台のうち、自分が観たのはBチームの舞台。


一口で内容を言うなら、統合失調症になった人間をめぐり、その周りの人間達の友情や家族愛のせめぎ合いと揺らぎを表していた。

友人どうしてアパートの大家をやっていた2人の女子のうち1人(山下麻子・役名。以下同じ)が恋人との別れがきっかけで統合失調阿庄となり、不可解な行動を取るようになる。それを支えようとする相方の小林佐枝子や2人の友人でアパートの住人でもある証紙の関谷春代。病気になっても麻子を支えようとしていたのは、アパートの住人達も同じ。しかし病状はますます悪化し、近所で通行人が暴行されて意識不明になる事件が起き、麻子が犯人では内科という疑念が人々の心の中に生まれ、麻子の兄は彼女を精神病院に入院させる決心をする。入院に賛成するものと反対するものとの口論、個々の気持ちの葛藤。暴行された被害者の恋人がアパートに弁当を納入してくれている弁当屋とうこともあり、自体はますます複雑に。結末は悲惨さと悲しさあふれるモノで、その直前に語る佐枝子の台詞に考えさせれれた。舞台タイトルは、その時の台詞の一節である。

個人的に、自分の周りにも統合失調症の知人が数人居るので、今回の舞台は他人事とは思えない気持ちで観ていた。むしろ、観ていて気持ちが締め付けられるというか、思いモノとなった。しかし、この難しいテーマを100分という時間に上手く収めた原作・脚本の谷の力にまず感心。縁者では、小林佐枝子役の前田沙耶香と関谷春代役の澤村菜央がなかなかの熱演。それにアパートの住人で関谷の教え子である長道里美役の西田薫子が地味ながら良い演技を魅せていた。

重いテーマで何度も観たいとは思わない舞台ではあったが、完成度としてはここ数回観た時間制作の作品の中ではずば抜けている。息抜きに笑える箇所もあったが、それがなかったら見続けるのはしんどかった。観る者を暗い気持ちにさせながらも舞台に集中させていく手腕の巧さ。恐ろしい劇団である。よい舞台を魅せてもらった。

時をかける稽古場2.0

時をかける稽古場2.0

Aga-risk Entertainment

駅前劇場(東京都)

2017/03/22 (水) ~ 2017/03/28 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/03/27 (月) 14:00

27日午後、下北沢の駅前劇場で上演されたアガリスクエンターテイメント第23回公演、『時をかける稽古場2.0』を観てきた。この団体は過去に小劇場系の付与されるいくつかの賞を受賞している団体であって以前から一度は観てみたかったのだが、今回念願叶ってようやく観劇となった。出演者には知人の役者はおらず、純粋な演劇鑑賞である。


舞台は超遅筆な脚本家率いる賞劇団「第六十三小隊」の公演二週間前。稽古場で、偶然にもタイムマシンの働きを持ったビニールテープを発見した劇団員達は、公演前日の世界から台本を取ってくるという奇策を思い立ち実行する。しかし、未来、つまり公演前日の団員達は別の奇策を思い立つ。つまり、全員で公演二週間前に戻ってたっぷり稽古をしようというのだ。そこで現れたのが、公演後五年たった未来の団員3人。この未来の団員から、実は公演が出演者のインフルエンザによって公演は中止になり劇団は解散したことを知る。公演中止、ましてや解散をしたくない公演二週間前と公演前日の団員達。結局、公演二週間前の団員達は、公演の成功と解散阻止のため、タイムマシンで本来の自分たちの世界である公演二週間前に戻っていく。

この話、過去の人間達が未来を変えるということである。これは、タイムマシンが同一時空の過去・現在・未来を行き来しているのでは無く複数ある時空の世界から自分たちの望んでいる世界の時空を移動しているという発想で無いと出来ない。劇中でもそのことを説明しているが、それは後半のインフルエンザを発症した役者と他の出演者との間に生まれた連帯感による感動的シーンを生み出す必要からの苦肉の策とも言える方法であったように思えた。

劇中、笑えるシーンやしんみりするシーンもあり、なかなか感動的。それは、劇の持っているテンポ感と役者の動きや台詞まわしのうまみが上手く作用しての結果。まぁ、演出が上手いという事なのだろう。脚本的には若干の話の展開的なほころびもあったけれど、まずまず。

個々の役者としてインフルエンザを発症する役者ハマカワ役のハマカワフミエ(タレントで役者でもあるサヘル・ローズに似ていた)と、劇団員ツワノ役の津和野諒の存在感がなかなか秀逸。余談であるが、アイドルで客演ユキ役の榎並夕起は某テレビ局の女子アナ・久保田智子に似ていて、ハマカワフミエと共に親近感を感じた。

その先にあるモノ

その先にあるモノ

デッドストックユニオン

ウッディシアター中目黒(東京都)

2017/03/14 (火) ~ 2017/03/20 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/03/20 (月) 13:00

20日午後、ウッディシアター中目黒で上演されたデッドストックユニオンの『その先にあるモノ』を観に出かけた。この日は最終日で夜の公演が千穐楽。その直前の公演と言うことになる。前回前々回公演には知り合いの役者が出ていて、なかなか味のある舞台を見せてくれたので、今回は知人が出演していないのだが出かけたというわけだ。


さて、舞台は新宿で、表向きは探偵事務所、裏ではコスプレ系デリヘル?を経営している会社の事務所。そこで探偵社やデリヘル嬢達の日常に、探偵社に依頼に来た殺人事件の被害者女性と依頼内容の相手である殺人事件の加害者家族への復讐劇(相手はこの探偵社と縄張りが隣り合っているヤクザの本部長)が絡み合う。デリヘル嬢達の多くが外国からの出稼ぎや借金まみれの日本人で、この事務所で働いて金を稼いで将来の生活設計を考える。そこに絡まった、殺人事件の加害者と被害者の関係はいつまで続くのか、許し合える将来はあるのか。その2点が、タイトルの『その先にあるモノ』が意味するところなのであった。

ラストシーンで殺人事件の被害者と加害者家族の許し合いという急展開があり観客の涙を誘っていたが、こうした急展開には事前に用意周到な伏線が何本も必要で、その伏線が細いというか薄いので、急展開で受ける感動が思ってたより弱かったのが残念。その原因は、舞台転換の鍵を握るモンゴル人のデリヘル嬢を演じた岩上円香の熱演しすぎでの若干の空回り、殺人事件の被害者を演じた山口あゆみの出番の少なさによる印象の浅さ、そして事務所の所長でありユニット代表であり原作・演出を手がけた渡辺熱のひょうひょうとした存在感の弱さ。舞台の設定的を考えると、渡辺の演じる社長はもっとどっしりしていた方が良かった。彼の持ち味を生かすためには、社長役は客演者にすべきだったのでは?それと、ラストで重要な役となる両親と絶縁した女性を演じた三崎千香が、この舞台である事務所の仲間に入り込むことになるきっかけが中途半端。

とはいえ、岩上円香、元木行哉、星達也などの熱演は、舞台全体としては2時間15分の長さを吹き飛ばす活気があったことは確か。
それと、殺人事件の被害者加害者の許し合いというテーマは小劇場系劇団がよくとりあげるもので、よくよく吟味して構成を考えないと観客にインパクトを与えられないと言うことをもっと考えるべきだろう。

代表である渡辺の目指している「ポップな人情喜劇」は、とりあえず成功していた。次回公演は、このユニットの代表作である『民宿チャーチの熱い夜 15』。期待したい。

白蟻の巣

白蟻の巣

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2017/03/02 (木) ~ 2017/03/19 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2017/03/14 (火) 14:00

座席2階LB列24番


新国立劇場の小劇場で上演中の、三島由起夫『白蟻の巣』を観てきた。新国立劇場には、これまでオペラやバレエを観に出かけて事は多数あったが、演劇を観るのが今回が初めて。小劇場はなかなか舞台の観やすいよいハコだと思った。


舞台はブラジルのリンス。コーヒー農園の農場主刈谷義郎と妙子夫婦と、一家の住み込み運転手である百島健次と圭子夫婦の二組の夫婦の愛憎劇。妙子と健次の心中未遂不倫を不問にして穏やかに過ごす農場主義郎と、その穏やかさと夫の心中事件に未だ嫉妬している啓子の言動が、物語を大きく動かしていく。結局、妙子は健次とよりを戻し、啓子は義郎と結ばれ二組の不倫関係が生まれるが、結果としてその不倫も再び不問にふされて穏やかで欺瞞に満ちた二組の夫婦生活が続くらしい・・・という余韻を観客に残して舞台は終わる。その尋常ならざる寛大さから来る空虚感が、題名に表されている。


登場人物は6名であるが、誰が主人公とも決めかねる。しかし、個人的にはこの劇の鍵を握っているのは百島啓子(村川絵梨)であり、好演だと感じた。元宝塚の安蘭けい演じる妙子は、せっかくの役者の個性が生かし切れていない感じ。義郎(平田満)と健次(石田佳央)はまずまず。台詞が役者というか役柄の人物を作り上げていく台詞劇的な要素を多分に持ったこの作品に、好演という言葉は当てはまっても熱演という言葉は異質なものに感じられるだろう。
舞台大道具と照明は、この規模の舞台としては秀逸であった。

エグ女3―2月21日〜26日―

エグ女3―2月21日〜26日―

女々

千本桜ホール(東京都)

2017/02/21 (火) ~ 2017/02/26 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/02/23 (木)

23日午後、学芸大学の千本桜ホールで上演された、女々の『エグ女3』を観てきた。この公演は、妖艶なカマキリチームと情欲なキツネチームの2チーム交代制での公演で、1チーム11人の女性役者が2人芝居から最大5人芝居までの12のショートストーリーを上演するというもの。自分は知人の役者・古川奈苗が出ている情欲なカマキリチームの公演を観に行った訳だ。


ショートストーリーの内容は、タイトルに『エグ女3』とあるように、女性同士で繰り広げられるエグい内容。例えば整形話であったり、オナニー談義であったり、友達同士での浮気を含めた彼氏の奪い合いの暴露話であったり。笑える話もあるのだが、時には女性に内在する陰湿な面が明かされる話もあり、さすがにそういうストーリーは笑えず考えさせられてしまったりして。

どの役者が誰なのかプログラムだけでは分からず何とも言えないが、知人の古川の出た3つの話では、ループする女というものが印象に残った。演出的には、意味不明の部分があったりしたが、女性だけの日常生活を切り出した感覚は十分に堪能できた。どの話が一番印象に残ったのかは、見終わって一日経ってもはっきりしない。まぁ、まだ頭に残っているのはフライトする女かな。これはエロ話の部類に入るからかも。ラストの、したたかな女もあり得る話で男としては油断できないと思わされた浮気暴露話。年に数回は、こうしたショートストーリーものの舞台も悪くない。

凍てつく夜にはライムを温め

凍てつく夜にはライムを温め

サンハロンシアター

小劇場 楽園(東京都)

2017/02/14 (火) ~ 2017/02/19 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2017/01/18 (水)

18日午後、下北沢演劇祭に参加しているサンハロンシアターの第21回公演『凍てつく夜にはライムを暖め』を小劇場・楽園で観た。これは、タイトルに惹かれてコリッチのチケットプレゼントに応募したのだが、落選したので自腹で観に行くことにした公演。タイトルのライムとは、最初酒のことかと思ったのだが、実際に観に行くと、これは酒ではなくラップ系の音楽用語のことであった。また、タイトルばかりに目が行ったため出演者に既知の役者がいないものと思い込んでいたが、プログラムを見て、何度か舞台を観ているよこやまよしひろが出演していることを知って、開演前何となく舞台に親近感を抱いた。

前説に立った作・演出おおきてつやによると、こうした小劇場に合わせて上演時間を70分にまとめたとのこと。最初は短めだなぁと思ったのだが、舞台が始まってみるとこの長さにして良かったと思えた。

舞台は、とある場所をテリトリーとする男6人、女2人のホームレス、そして舞台に華を添えるヴァイオリン弾きを加えた9人からなるストーリー。過去に様々な職業に就いていたホームレスの特技を利用して、ホームレスの1人のイカサマ師がホームレスによるラップグループを作り、YouTubeにその動画を配信して一儲け仕様と企んだのだが、楽器調達のトラブルからホームレス2人が殺され、まとめ役であったイカサマ師も殺されてしまい、ホームレスたちは結婚したり施設に預けられたりとバラバラになっていく…。

スタートして気になったのが、どちらかといいと狭い部類に入る劇場の舞台全体にホームレス姿の役者が多数立つと息が詰まるような気持ちになった。特に役者がホームレス役に徹すれば徹するほどその気持が強くなる。別にホームレスを差別するわけではないが。特に前半の彼らの日常生活の様子を長時間観せられたら、おそらく気分は滅入ってしまったろう。そこから救われたのは、彼らがラップグループとして生きようと一致団結して練習を始めるシーンあたりからか。これで彼らが成功してハッピーエンドで終わると思いきや、仲間の死によって挫折するバッドエンド的な終わり方がちょっと中途半端だったのが残念。ストーリーを切り上げるのを急いだのが原因か、死に至るプロセスが突飛すぎたのが痛かった。

役者では、元祭り太鼓の花形だったギスやん役・ナガセケイと。元流しの永ちゃん役・よこやまよしひろ、女性ホームレスの1人レイコ役・宮咲久美子の存在が光っていた。話の進行役でもあるガッソ役・山岡弘征とイカサマ師役・内藤トモヤはちょっと頑張りすぎ。もう少し、演技に遊びがあっても良かったのではないだろうか。

メロン農家の罠

メロン農家の罠

桃尻犬

OFF OFFシアター(東京都)

2017/01/12 (木) ~ 2017/01/18 (水)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2017/01/18 (水)

価格3,000円

18日午後、下北沢のOFF・OFFシアターで上演された桃尻犬冬の公演『メロン農家の罠』の千穐楽を観に行った。これは、知人の役者・嶋谷佳恵が出演していた関係からである。
これまで幾つも舞台を観てきたが、この舞台のようにインパクトのあるタイトルとフライヤーのデザインは初めて。どちらかというとコメディー的な内容なのかと思ったのだが、確かに笑える場面も数々あったが、本質的にはかなりシリアスな内容であり、上演時間95分が短く感じられた秀作の舞台であった。

話の中心は、幼くして両親を亡くした1男2女の兄弟が営むメロン農家・安喰一家。まぁ、次女は小五の設定なので実際には農業に従事しているわけではないが、この次女・乃愛琉(ノエルと読ませる)が舞台の重要な存在となる。10年間もメロンを盗まれている安喰一家には、中国人従業員・劉がいて、毎年メロン泥棒退治の仕掛けを作っている。安喰家の長女・美津子を好く近所の山岸は結局は結婚することになるが、美津子は堀淵という一家と付き合いのある男性と浮気もしてる複雑状況。安喰家の大黒柱・怜音(レオンと読ませる)は、人の良い実直な男で、いや実直すぎて合コンでも相手ができない。そんな一家に嵐を巻き起こすのが次女の乃愛琉。万引きし、その理由の本音を兄にぶつけ、兄も本音を吐露する。結局、一家三人の本音のぶつかり合いでギスギスしたことになるが、メロン泥棒が捕まり(仕掛けで目に怪我をさせてしまうが…)、次女がメロン畑にガソリンをまいて燃やしてしまうという行動を通じて、一家に絆が戻ってくる。
本音のぶつけ合いシーンは時に絶叫ありのかなりシリアスなもので、観ていて心が締め付けられたり…。所々で織り込まれた笑いのシーンがその緊張感をほぐしてくれる。
役者としては、難しい次女役の徳橋みのりの演技が秀逸。長男役の森崎健吾と長女役の嶋谷佳恵の熱演も光る。

脇役として、乃愛琉が万引きをするCDショップの夫婦も登場して、舞台に緩やかな風を注ぎ込んでいた。


舞台を大小2面に分けて進行させる演出は、小劇場の舞台の使い方としては上手かった。脚本も変な小細工を使わず正面から勝負を挑んでいて気に入った。この桃尻犬という劇団(ユニット?)、なかなかの実力とみた、次回作も観てみたい。

軽い重箱

軽い重箱

殿様ランチ

新宿眼科画廊(東京都)

2017/01/10 (火) ~ 2017/01/17 (火)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2017/01/12 (木)

価格2,500円

今年の観劇初めは何にしようかと演劇サイトを巡っていて、「そうだ、新年早々重かったり長かったりする舞台を観るのは辛い。短編オムニバスの舞台はないかな」と思い、行き着いたのがこの公演。まだ観たことが無かった劇団なので、期待も膨らんでの鑑賞だった。


会場は、新宿眼科画廊。箱から考えて、短編と言っても大規模では無く比較的軽めの作品だと予想がついた。会場に着くと、上演時間は75分。プログラムでは4作品の上演となっているので、1作品平均15~20分という計算になる。

1作品目…クリーニング屋のバイトが主役。動物の恩返し的な話を織り込んだもの。
2作品目…警察の捜査一課の新人を巡る、同僚や逃走犯とのやりとり。
3作品目…張り込みに使っている喫茶店ででの主任警部補と、偶然居合わせた警部補の学生時代の知人との会話中心の話。
4作品目…沖縄で交通事故に遭った新婚と、病院の看護師、加害者夫婦との交流。

どの話も、大爆笑ではないが「フフフ」と軽い笑いが起こるシーンが盛り込まれている、軽いタッチの話。
後半に行くほど話に入りやすくなっていった。これは、演出と役者のノリの問題なんだろう。
ただ、2作品目はちょっと話に入りにくかったのは確か。

この4作品を、8人の役者が役柄を変えてこなしていた。
特に注目できた役者としては、2作品目や4作品目で頑張った相楽孝仁、1作品目や3作品目で熱演した斉藤麻衣子、1作品目・4作品目で味のある演技を魅せた村岡あきこの名前が挙げられるだろう。

モグラ…月夜跡隠し伝…

モグラ…月夜跡隠し伝…

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2016/12/15 (木) ~ 2016/12/27 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2016/12/24 (土)

座席1階C列3番

12月24日午後、すみだパークスタジオで上演された劇団桟敷童子の『モグラ 月夜跡隠し伝』公演を観てきた。これは、知人で実力はの役者であるもりちえが所属劇団であり、今回も劇中の要になる役の一つである山月法師役で出演していた関係からである。


物語は、大雑把に言えば伝奇浪漫物語。脱獄した男を捕らえるため、隠れていると思われる泥捨番場という辺境地に向かった、謎の女・興梠に率いられた在郷軍人達と辺境地の住人、そして脱獄した男によって繰り広げられる混沌劇。貧しい村でありながら、山月法師という異彩を放ついわば能力者集団がいたり、死者が鬼となって蘇ったりという伝奇的な物語に、追っ手となった在郷軍人の一人と脱獄男が実は幼少時代故意に取り違えて育てられており、その在郷軍人が知らずに妹と肉体関係を結び恋愛的な感情を持ち合わせてしまったという近親相姦譚が交錯したり。内容的にかなり複雑で混沌としているのであるが、よくよく客観視してみると、この劇団が過去に上演した『風撃ち』『海猫街』『エトランゼ』の流れをくみ、それらで演じてきた内容の集大成的な作品であることが分かる。


役者では、主役の在郷軍人を演じた松田賢二、脱獄男を演じた稲葉能敬、在郷軍人を率いる謎の女を演じた板垣桃子、主役の姉で脱獄男の妻でもある女(山月法師の一人)を演じた松本紀保の演技が抜きん出ており圧巻。この四人の熱演により、脚本の矛盾点や雑な部分が吹き飛んでしまった。

四人以外の役者も欠けては話の内容に不都合が生じるであろうがごとき存在感のある役ばかりで、観ているものを舞台に釘付けに、時折観客から笑いを取るシーンも織り交ぜる余裕も魅せた。

これだけエネルギッシュな舞台を作ってしまうと、次回作でのテンションの維持が大変そう。年末、よい舞台を魅せてもらった。

コーヒーが冷めないうちに

コーヒーが冷めないうちに

川口プロヂュース

萬劇場(東京都)

2016/12/13 (火) ~ 2016/12/18 (日)公演終了

満足度★★★★

予想通り感動に涙したが・・・
脚本家であり演出家でもある川口俊和が初めて書きベストセラーとなった『コーヒーが冷めないうちに』が再度舞台かされ上演されるというので観てきた。もともと舞台脚本として生まれたこの作品。脚本→小説と発展し、今回その小説を元に再び舞台化されたという訳だ。今回の公演では、全キャストがWキャストとなっており、自分の出かけたのはAチーム。メンバー表を詳しく見ず、日程だけでチケットを購入して出かけた今日。改めて会場で配役表を見たら、お気に入りの劇団の一つである東京アザラシ団のメンバーも2人参加していることを知ってちょっとビックリ。世の中狭いですなぁ。


さて、作品は過去・未来に行けるテーブル席のある小さな喫茶店フニクリフニクラでの4つの話。結婚を考えていた彼氏と別れた女の話『恋人』、記憶が消えていく男と看護師の話『夫婦』、家出した姉とよく食べる妹の話『姉妹』、この喫茶店で働く女の話『親子』の4話である。それぞれ、過去あるいは未来に行くことになる切ない過程や行った結果の感動的な結末。小説のウリは「4回泣ける」というものだが、舞台を観ていると、舞台で上演されている内容と読み終えた小説のシーンが重なり合い、4回どころかずっと涙目のまま。
まぁ、悲しさの深さは話が進むほど深くなり、涙も止まらなくなってくる。
ただ、そんなとき、ふと冷静な考えも頭の中をよぎる。今回の公演は小説全体を1時間40分にまとめたもので、当然ながら小説にあった気になるシーンや感動のシーンがカットされたり簡略化されたりしてた。自分的に、頭に残っていた小説とダブらせることで感動が深まったけれど、小説を読んでいない人だと舞台だけでどのくらい感動できるのだろうかという疑問。
もう一つは、小説から自分が作り上げていた登場人物のキャラクターと舞台におけるそれらのキャラクターに思いの外大きな落差があったこと。舞台演出は作家本人がやっているのだから、舞台でのキャラクターが本来の姿なのかもしれないが、例えば喫茶店のマスター・時田流、その妹・時田数、カーラーの女・平井八絵に少なからず違和感を覚えたのは確か。
話の内容が深いので、全体的に演技があっさりしていたことも気になった。

しかし、気になる点はあったものの泣けたことは確か。川口という男、人の泣く壺を押さえるのが美味い作家とみた。ちなみに、開演前の前説で本人が登場したが、本人に対する印象も予想を覆された。

This is Mine,not Yours.

This is Mine,not Yours.

劇団ORIGINAL COLOR

新宿眼科画廊(東京都)

2016/11/26 (土) ~ 2016/11/29 (火)公演終了

満足度★★★

時間の所有は分かるが流通とは?
29日午後、新宿眼科画廊スペースOで上演された劇団ORIGINAL COLOR『This is Mine,not Yours』を観てきた。これは、今年知った気になる役者・嶋谷佳恵が出演していた関係からである。嶋谷はこの劇団メンバーであり、看板女優であり、制作も担当している。ホームグラウンドの劇団公演で、どのような演技を見せてくれるのか気倒して出かけた。

会場の新宿眼科画廊スペースOは画廊の一回にあるスタジオ。地下にあるもう一つのスタジオよりも小さい。東京浅草に世界一小さい劇場というふれ込みの浅草リトルシアターというのがあるが、新宿眼科画廊スペースOは椅子席15、座布団席4の全19席という観客席の狭さ。おのずの舞台の狭さも分かっていただけるであろう。結果として、動きの多い芝居と言うより会話劇的な芝居に向いている場所であり、今回の公演もどちらかというと張り詰めた会話が中心となっている芝居であった。

劇のおおよその内容は次のようなもの。
小形鏡子(千草)は会社の後輩・皆口多恵(森川未来)が死んだ事がきっかけで、後輩の人生の転機に関わった人物3人、すなわち会社員・前島英治(嶋田貴心)、ショップ店員・山本早希(田中希布)、占い師・伊東成美(嶋谷佳恵)を拉致した。小形は拉致した3人を脱出不可能な民家の地下に住まわせるが、テーマに沿って一人づづ話をさせ、内容によって点数やボーナス点を与えて拉致から解放するチャンスを与える。彼女は、3人の口から皆口への懺悔の言葉の発せられるのを待っていたのだ。結果として、拉致された3人は精神的に追い込まれながらも前島が皆口への懺悔の言葉を発する状況となり、拉致から解放される。

プログラムに、今回の舞台のテーマが「時間の所有と流通」であり、「ここで消費していただく時間の対価として、少しでも見合った作品となっていれば幸いです」という劇団主宰者で作・演出を兼ねた小林裕大の言葉がなければ、さてこの劇で何を言いたかったのだろうと少々悩んでしまうような舞台であった。拉致された3人の生きる時間は個々のものだが、実は拉致という行為でその時間を支配しているのは拉致した小形の支配下。その支配された時間の中で、人はどう考え行動するのか。小林の言う所有は分かりやすいのだが、この劇から時間の流通という面を読み出すことはかなり難しい。拉致した小形の支配する時間と3人が与えられた話をする時間の交錯を流通とみれば良いのだろう。
ただ、拉致という行為が今回のテーマを観客に伝えるに当たり適切な設定だったかには疑問が残る。
とはいえ、拉致された3人の緊迫した感情表現はよく演じられていた。3人に対する小形の態度、これは生前の皆口に対する態度とも共通しているが、やや投げやりでいらだちを内に秘めた感情の生まれる原因は何だったのだろう。

役者達は、個性的な役柄をよく演じていた。数多い種類の笑いをこなせる嶋谷が、今回はほぼ無表情・冷静な占い師を演じていたのが予想外。なるほど、こうした役もこなすのか。
前島役の嶋田と山本役の田中の恐怖心の表現方法がやや類型的だったのが惜しい。
皆口役の森川の声色の使い分けは、モノクロ的な芝居に色をつけてくれて良かった。
小形役の千草。なかなかの芸達者とみた。
この劇団の本領は、まだ数回みてみないと分からないというのが正直なところ。次回公演も観てみたい。

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