本広克行

本広克行 本広克行(もとひろ・かつゆき)) 1965年生まれ、香川県出身。数々のバラエティ番組、テレビドラマの演出を経て、1996年「7月7日、晴れ」で映画監督デビュー。「踊る大捜査線THE MOVIE2」(03年)では、日本映画実写興行収入記録を塗り替え歴代1位の座を獲得。以降、スケールの大きい娯楽作を発表し続ける。一方、2005年劇団・ヨーロッパ企画の戯曲「サマータイムマシン・ブルース」を映画化、この作品を機に映画と演劇のコラボレーション、play×movieを立ち上げ、2007年演劇「Fabrica[10.0.1]-LIFE FILM-」を演出、シリーズ3作品を演出した。

舞台を観るなら小劇場
インタビュアー

 本広監督が演劇と出合ったきっかけを教えてください。

 
 

 初めて演劇を観たのは映画の専門学校に通っていた頃。舞台の先生から絶対に観た方がいいって言われて、紀伊國屋ホールでこまつ座の『頭痛肩こり樋口一葉』を観ました。それにすごく感動しちゃって。チケットが安く手に入るこまつ座と俳優座をよく観るようになりましたね。こまつ座は最後列の学生席が半額だったんです。それでもお芝居は高いから、名画座で映画を観ることの方が多かったですけど。まだビデオも買えない時代だったから。

映画は今も相当観てます。舞台は小劇場ばかりですね。無名でも、これから(舞台や映画の世界に)出てくる人たちのエネルギーがもらえるじゃないですか。大劇場の舞台に行くなら、むしろ映画に行こうかなと思っちゃう(笑)。

本広克行監督
映画を作るにはハングリーさが必要
インタビュアー

 ヨーロッパ企画の舞台作品を映画化するのは『サマータイムマシン・ブルース』に続いて2度目ですね。

 
 

 上田誠くん(『曲がれ!スプーン』の脚本を担当したヨーロッパ企画の劇作・演出家)以外の演劇人にも、いっぱい声を掛けてるんですよ。でもなかなか実現にまで至らないんです。僕の方からだけじゃなく、お互いがアプローチしていかないとだめなんだと思います。映画を作るにはハングリーさが必要だから。その点、演劇人の中でも若い人の方がエネルギーがあって、アプローチが凄いので進みますね。ヨーロッパ企画は劇団員全員のエネルギーで向かって来るし、「やり遂げよう」っていうパワーが凄いんですよ。

本広克行監督
インタビュアー

 映画『サマータイムマシン・ブルース』は原作の魅力がそのままに生かされていました。舞台を映画化する際の本広監督の秘訣はありますか?

 
 

 せっかく戯曲で作ったものをなるべく壊したくないから、演劇と映画を別のものにするつもりはないんです。一緒のものが作りたい。演劇を観た人が映画を観る時に、その期待を裏切りたくないですしね。だから戯曲を書いた作家に、映画の脚本も書いてもらいたいんです。そういう精神をつらぬきたい。

僕はいつも色んな企画を同時に10本ぐらい動かしているので、「この企画をやりたい」っていう魂が入らないと、どうしても最後まで到達できないってことに最近気づいて。だから映画化しようとして断念した戯曲もずいぶんありますよ。こうやって最後まで残った上田君はやっぱり天才ですね。

インタビュー風景
本広克行監督
主要キャストには舞台で活躍する個性派俳優が勢ぞろい
インタビュアー

 ヒロインの長澤まさみさんの脇を固めるのは、舞台での活躍が目覚ましい方々です。

 
 

 長澤まさみちゃんと志賀廣太郎さん以外、つまりエスパー役の6人は全員オーディションから選びました。来てくださった100人の役者さんの中には、今売れてる人も華のある方もいらしたんですが、ブランドに惑わされないように徹底的にオーディションをしました。いい役者がいっぱいいましたねー。今までなんで知らなかったんだろうって思ったぐらい。

映画は認知度の高い人を使わないと売れないんですが、こんなにいい役者なら大丈夫だろうと思って。結果、選ばれたのはものすごいクセある人ばかりなんですが(笑)、個性を持ってないと映像をやった時にパワーが出ないので、とてもいい座組みだと思います。

本広克行監督
インタビュアー

 撮影前の10日間は、演劇ワークショップと入念なリハーサルをされたそうですね。

 
 

 まだ映像に慣れてない役者は、“長澤まさみ”がいきなり撮影現場に来て「さあ一緒に始めてください」って言われても、緊張しちゃって力を発揮できないと思ったんです。だから彼女にも参加してもらって、昼1時から夜6時までワークショップやゲーム、本読みを何度もやりました。

面白かったのは、キャストのオリジナル・ワークショップをやってもらったことですね。脚本の上田君にも来てもらって、作品中の人間関係のベクトルの解説をしてもらったり。志賀さんの発声の講義なんてのもありました。すごく勉強になったし、それだけでも相当良かったですね。まさみちゃんもすごい影響を受けてました。

本広克行監督
インタビュアー

 映画の現場では、そういった稽古期間があるものなんですか?

 
 

 まあ普通はないでしょうね。キャストだけじゃなくカメラマンから照明さん、演出部の手の空いてるスタッフまで全員に来てもらって、ゲームに参加してもらったんですよ。ワークショップ最終日には会議室で打ち上げまでやりました(笑)。志賀さんが作ってくれた日本酒の鍋が美味しくて!まさみちゃんが志賀さんの娘みたいに、料理を手伝ったりしてね。男子は毎日みんなで飲みに行ってたから、撮影日までには相当なチームワークが出来ていたと思います。

インタビュー風景
本広克行監督
たくさんの小劇場俳優の活躍を観てほしい
インタビュアー

 キャスティングや創作手法をはじめ、映画『曲がれ!スプーン』には本広監督のこだわりがギュっと詰まっているんですね。強い気概を感じます。

 
 

 『曲がれ!スプーン』はフジテレビが出資して東宝が配給する、邦画の中でも規模が大きい映画なんです。有名スターが大勢出演しているわけではなくても、お金を出す人たちがいるってことを知ってもらえたら。

また、決して押し付けるつもりはないんですが、映画を目指している作家さんや役者さんは、活動を続けることがとても大事ですね。お客さんに対してなめた真似しないで、“やり遂げる”ことをやり続けて、チャレンジし続けてくれれば、いつか絶対に俎上に乗れるはず。そしてアンテナを張っていれば情報は流れてくるものです。僕らは見てるので、がんばってほしいです。

僕も「映画監督になりたい」って思いだけでテレビドラマとかを作ってきたんです。「映画をやりたい、やりたい」って言ってたら、本当に機会が転がってきたんですよ。推してくださって、チャンスも与えてくださった先輩たちがいるから、今、僕は映画を撮れているんです。だから僕もみんなにチャンスを与えたい。『曲がれ!スプーン』には小さな役でも、本当にたくさんの小劇場俳優が出ています。彼らの活躍を観てほしい。

インタビュー風景
本広克行監督
娯楽映画には伝わることの喜びがある
インタビュアー

 ご自身を映画創作へとかき立てるモチベーションについて教えていただけますか?

 
 

 自分が美味しいな、きれいだな、かっこいいなって思ったものを誰かに伝えて、相手がそれに同調してくれたら嬉しいですよね。僕はそういう瞬間に、ものすごい幸せを感じるんですよ。例えば映画館で僕の映画を観ているお客さんが泣いてると、笑えてきちゃうんです。「こんなに泣いてるよー、伝わってるなー」って思って。ところがみんなが笑ってると、ボロボロ涙が出てくるんです。「あぁ笑ってる、伝わったなー」と思って。反応が逆なんですけどね(笑)。

そういう喜びがあるから、娯楽映画が作れているんだと思います。そろそろ難しい映画とか作りそうな時期じゃないですか、僕(笑)。「皆さんが好きに解釈してくだされば結構」と突き放すような映画を(笑)。そっちの方向に行かないのは、伝わる時の喜びが少ないからじゃないかな。たくさんの人に観てもらいたい、そして伝わってほしいんです。

本広克行監督

 美味しいものを食べたり、きれいなものを見たら、気持ちがすごく豊かになりますよね。それが安かったらなおさら!僕にとっては食べることが命なので、安くて美味しいもの、かな。「100円でこんなに美味いんだ!」と思って映画(「UDON」)にしちゃったぐらいですからね(笑)。

インタビュアー

 主演の長澤まさみさんと7人のエスパー集団1人ひとりについて、本広監督からコメントをいただきました! 次のページへ

 

映画「曲がれ!スプーン」公式サイト

舞台「曲がれ!スプーン」公演情報(CoRich内)

 

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