20歳の国
採点【20歳の国】
★★★★エロスと青春のバランス感覚

私の「一度の観劇でのキスシーン目撃回数1位」を、あっさりと更新する勢いの本作だったが、不思議にいやらしさを感じず、不快にならなかった。「本当に始まるのは唇以外への場所への口づけからだ」と山田詠美は著書『マグネット』で書いているが、それが本当だとすれば、唇へのキスというのはただの助走にすぎない。20歳の国「国王」を名乗る作・演出の竜史は、そうした、エロスを設計するバランス感覚が秀でている。キスそのものよりも、腰をなでる手つきの方を、よほどセクシーに見せてくるのだ。だから、ぱっと見の生々しさに辟易することなく、穏やかな気持ちで大量のキスシーンを浴びることができたのだろう。

20歳の国はいつも、一方通行の片思いなどの人間関係の組み方が巧い。相関図などの説明ナシで観客にパッと関係性を掴ませる脚本の技量は見事。スタンダードな青春群像劇だけに、場面転換のやり方などがストレートすぎるところもあるので、技巧を凝らす余地は大いにあると思う。

★★★欲望だらけの青春劇

「前代未聞のキスシーン数」や「今すぐに恋したくなる、演劇」などといった分かりやすい売り文句の底、描かれた狂騒的な恋愛の裏には、実は現代人にひそむ「常に誰かに愛されていないと」という焦り、人間が持つ普遍的な孤独感があると感じました。登場人物の高校生だけでなく、大人たちも等しくダメな恋愛/結婚生活を送っていて、この郊外らしき街に浮かぶ人生の未来のなさにも、時代の空気を感じました。気軽に浮気したり二股をかける人物たちは、小腹を満たす為にコンビニでインスタントラーメンを買うがごとく、身近な相手を求める。そういった人たちのズルさやいい加減さを「愚かしい」と片付けず、それらのダメさを書き分ける作家の筆致には人間に興味を持って、愛している感じがします。テクニカルなところには、やや拙さを感じましたが、この「人間を描きたい」という作家の態度に共感しました。

★★★★幼い恋と性を描く群像劇に、直球のメッセージ

 劇場ロビーが照明でピンク色に染められていて、駅前劇場が何やらちょっと怪しいムード。物販ブースでは過去公演のDVDを販売中。売り子さんも客席案内の方々もガクランとセーラー服を着て、雰囲気を盛り上げてくれていました。
 劇場に入ると奥と手前に客席があり、ステージを二方向から挟む舞台美術でした。私は劇場入り口に近い方に着席。聞き覚えのあるJ-POPが流れ、ミラーボールが回り、ピンク色と青色の照明がステージを照らします。ステージには段差があって、なんだかお立ち台があるクラブみたい。

 高校生同士、教師同士、高校生と教師の恋愛、高校生と社会人との不倫などを描く元気いっぱいの恋愛群像劇でした。ピロートークは本音がモロバレするから(笑)スリリングで面白いし、覗き見の楽しさもあります。雰囲気に甘えて濁したりせず、浮気がばれた時の修羅場もしっかり描き、会話も結末まで書き込んでいることに感心しました。“恋人に会えない寂しさを紛らわすために他人と寝る”という安っぽい恋が、ただの愚行ではなく、愛らしく見えるのも魅力です。ただ、テーマを恋愛に限定しているからか、遠い過去や未来、さまざまな人生などを想像させるような、底力や飛躍力のある戯曲ではありませんでした。

 昔、シャ乱Qの「シングルベッド」がヒットした時に、あるベテランのミュージシャンが「シャ乱Qのような風俗っぽい路線は売れる」といった意味の発言をしていたんです。演歌と流行歌の間というか、軽いノリとウェットな感覚が、幅広い層に受け入れられるのかもしれません。『保健体育B』というタイトルも、男女の甘酸っぱい恋愛ドラマも、そういう親しみやすい路線を狙ったゆえなのかなと思いました。ただ、エッチさはとんがってました(笑)。乱暴な言い方かもしれませんが、“青臭い、愛のある、ポツドール”という印象を持ちました。

 作・演出・出演、そしてプロデュースをされている竜史さんは、範宙遊泳の山本卓卓さんやロロの三浦直之さんとほぼ同世代だそうです。「好きなものを作る」だけでなく、周囲を見て作戦を練って、どんな演劇を作るのかを選んでいらっしゃいます。やはり若い世代には賢い方が多いと思いました。インターネットがインフラ化し、手のひらにある端末でいつでも世界にアクセスできるようになったからでしょうか。これからも若い方々からどんどん学んでいきたいと思います。

★★★物語というより現実への興味

賛否両論だろうが、タブー的なことを逆手にとる感じは悪くない。ラストも演劇ならではの演出で面白かった。

★★★★★保健体育B

実は一番泣いたかもです。感動しました。

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