演劇集団 砂地
採点【演劇集団 砂地】
★★★翻案というにはやや迫力不足

古典の翻案と言いつつ、大切なエッセンスを残しながら現代的に改変するということが出来ていないように思えた。歌舞伎のあらすじは時折突拍子もないこと態や暗黙の「お約束」などが起こり、それを支えるのが、降りしきる吹雪や美しい舞、ドラマティックな早替わりという、ある種の非現実的な「仕掛け」ではないだろうか。今回の演出にはそれがないように思え、リアリズムで押し切るには俳優たちの台詞が一方的すぎた。思いの丈を朗々と語っても、受け止めることができなかった。互いが互いの仇であることが明らかになってゆく場面も、矢継ぎ早な台詞がもったいない。初見の団体で、いつもそうなのかは分からないので、次回作の演出も観てみたい。

全体として照明が暗く、俳優の影が長く伸びていたのが印象的だった。彼岸と此岸を隔てる橋があり、登場人物は死ぬとその橋を渡る。死んだ人々がぼうっと照らされて見守る様子は陰影が美しく、無言の圧が印象に残った。吹雪の中、三人の吉三が刺し違えるドラマに至るラストシーンは静謐さが際立っており、ろうそくを吹き消す演出もよかった。

★★古典←→現代劇。そのモチベーションとは?

全体に漂う停滞感、殺伐とした空気。吹き消される蝋燭が象徴する命のともしび、そのはかなさ、せつなさ。現代的で洗練された空間設計、演出が印象的でした。ただ、怒号が飛び交う一方で、対話はやや平板に抑えられていたこともあり、三人吉三の複雑な人間関係、ドラマをきっちり把握しきれなかったことには後悔が残りました。この出発点を前半でよりはっきりさせるころができていれば、この物語を現代劇にしたモチベーション、この作品の持つ骨太な魅力もいっそう際立ったのではないでしょうか。やや段取りがかった殺陣も気にかかってしまいました。

★★★因縁に抗った末にたどり着いた一瞬の静寂

 ブラックボックスのほぼ何もない空間で照明を暗い目に徹底した、緊張感が張りつめる2時間でした。ロフトや奈落などの劇場機構を効果的に使っており、特に舞台奥の真っ黒な空間は廃墟、闇社会、死後の世界、ダークマター(暗黒物質)などを連想させ、意味の上でも奥行きのある劇空間になっていました。

 有名な歌舞伎作品を近未来(?)を舞台に翻案し、現代服を着た俳優が現代の言葉遣いで語り、今どきの日本人の身体で演技をするストレート・プレイです。複雑極まりない人間ドラマを2時間の群像劇に収めるのは、作劇の手腕が試されるところだと思います。私の場合、『三人吉三』はコクーン歌舞伎しか拝見していないのですが、登場人物の背景を記憶で補うことができたので、物語の理解の助けになりました。何も知らない観客には少々難解だったんじゃないかと思います。これからご覧になる方はあらすじ等を頭に入れておくといいかもしれません。

 悪党3人とその親類などが、知らずに手を染めた悪事の連鎖に翻弄されていく因果応報の物語ですが、人々の間に起こるドラマをじっくり見せるというよりは、世界や運命といった大きなものに対して抗う姿を強調する演出だったように思います。セリフは怒号で発っせられることが多く、登場人物それぞれが世界全体に向けて、不器用ながらも命がけで怒りをぶちまけているようでした。話し合う相手がいる場面でも、自分から強い意志を発しておきながら、相手からは受け取らないので、一方通行のすれ違いが累々と積み重なっていきます。私は人間同士の細やかな交流を観たいタイプの観客なので、物足りなさも感じてはいましたが、最後に3人の吉三がある境地に達した時は、こうなるべくして訪れた結末であることをスっと受け入れて納得できました。

 ネタバレになるので詳細は後述しますが、ライブ感のあるシャープな空間づくりに独特の感性が感じられ、作品の芯となる強いイメージを最後まで貫くのは、作・演出の船岩さんの個性だと思いました。船岩さんが古典戯曲を翻案せずに演出されるのを、いつか観てみたいと思いました。

 当日パンフレットの表紙に文字だけの人物相関図がありましたが、もっと詳しいものが欲しかったです。出演者の写真とプロフィールはあるのに、演じる役名が載っていなかったのも残念でした。舞台が暗いので顔の判別がつきづらいから、特にそう感じたのだと思います。※役名は帰宅してから公式ブログ等をたどって調べました。

★★★「飽きずに楽しんでもらう」ための視点と努力

劇場の使い方もうまいし、演出のセンスは感じた。ただ残念ながら、中盤まで退屈に感じてしまった。古典を再構成しているからだろうか、ゴールは見えているが、そこまで「飽きずに楽しんでもらう」ための視点と努力が足りないという印象。「その瞬間その瞬間に何を期待させるか」俳優と一緒に考えながら作ってみてはどうか。

★★★★三人吉三の現代版が、、、

歌舞伎で有名な三人吉三。それの現代版というより、全く新しい作品として楽しめた。

過去の作品を近未来を舞台にして描くというというところに面白さを感じた。ただそれだけに吉三という名前にこだわる必要がなかったのでは無いだろうか。違う名前にした方が感情移入しやすかったのではと思う。

舞台の奥に広がる闇の表現が見事だった。

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