★★★両バージョン観劇

<臓器提供者(ドナー)編>を先に観劇し、翌日に<臓器受容者(レシピエント)編>を観劇。臓器を提供される側の心理と提供する側の心理の差を極端ではあるが、人間倫理の本質をえぐり出した演出は、何とも心にぐさりと突き刺さりました。両バージョンとも、それほど長いものではなかったので、できれば同時に上演した方が、作品の意図を明確に提示できたのではないでしょうか。

★★★後に引きずる演劇

これまで観に行こう行こうとは思いつつ、なかなかタイミングがあわなかった同劇団。ようやく観ることができました。
観たのはドナー編。ある連続殺人事件で死刑となった男が、被害者家族に心臓を提供したいと告げるところから物語は始まります。臓器提供者の匿名性がない時代が舞台の本作。コーディネーターから相手のことを告げられた被害者家族(レシピエント側)を軸に、看守とその妻、加害者家族など、さまざまな人間模様がじっくりと描かれていきます。
円の中心に臓器提供というテーマがあり、その周りに立場の異なる登場人物が立っているイメージ。彼らがかわるがわる現れることで、われわれ観客も臓器提供という遠くない現実について、多角的に考えざるを得なくなります。架空の設定で人物を深く描けるのは脚本力があってこそ。観る者の心に複雑な感情をにじませるラストも演劇ならではで印象深かったです。

★★★リアルな視線、ニヒリズムの罠

D(ドナー)編、R(レシピエント)篇の両方を観劇しました。

どちらも苦い終幕。その時に感じたもやもやをどう整理するのか――それにはある程度の時間が必要で、今になって感想を書くことに。

生きる、ということはすなわち人と関わるということ。人と人との間には、愛も慈しみもあれば、打算や嫉妬、憎悪もある。さらに、それらが交錯し、なかなか1点に一致することがないのが、この世の常。この2本の芝居は、そのことを極めてヴィヴィッドに、スリリングに描いていると思います。また、そのことによって「考えさせる力」も持っていると言えるでしょう。

が、、私はこういうものを書き、表現できる人にこそ、「ドラマティックであること」に惑わされず、限界まで考えて考えて、考えうる限りの希望をしぼり出し、描いてほしいとも思うのです。

そこにはきっと、もっと鮮やかで深く、耐用期間の長い感動(ドラマ)があるはずです。

(むろんそれは、分かりやすい「希望」にはならないでしょうが)




★★★シュールな現代ホラー

 臓器移植をテーマに、臓器提供者(ドナー:D編)と臓器受容者(レシピエント:R編)の当事者心理を描いた2本立て公演。作・演出はマキタカズオミさん。私は【R編】【D編】の順番で鑑賞しました。

 舞台は木の茶色とアルミ(素材は不明)の銀色が壁にうまく配置された、品のいい都会的な部屋。中央奥のコンクリート打ちっぱなしの壁から木々の緑が少し覗き、自然の温かみを感じさせます。装置上部をぐるりと囲み、二重らせんを思わせる木の枠がポイントでした。
 そんなさわやかな空間で静かに交わされる現代口語劇ですが、題材が臓器移植ですから内容は重厚。登場人物の感情の衝突は激しく、息が詰まるような緊張感があります。

 前作『ブロークン・セッション』でも感じたことですが、両バージョンともに「その先が見たい!」と思うところで終幕するのが残念でした。「CoRich舞台芸術アワード!2009」の第2位に選ばれた『成れの果て』では、タイトルどおり救いようのない人間の争いとその果てがしっかり描かれていたので、私が勝手な期待をしてしまったせいもあると思います。
 “現代日本を舞台にしたシュールなホラー短編”としては、見応えがあるかもしれません。でも私としては、周囲や自分自身との死にものぐるい格闘と、その末に獲得される何かが見たかったです。

 【R編】初日の上演時間は50分でした。【D編】が1時間15分なので、装置の転換が大変かもしれませんが、できれば途中休憩を挟んで両方一度に観たかったですね。
 【D編】の回はほぼ満席で、場内誘導のスタッフさんたちの客入れの手際の良さにうなりました!入り口が1箇所しかない小劇場で自由席だと、空席がないようにするのも難しいんですが、通路席も見事に埋まっていました。

★★★★★はりつめた緊張感の果てに・・・。

日常の中から劇的なシチュエーションを切り抜くうまさ、そしてその劇的な状況に、さらに衝撃的な結末を用意する演出のうまさ、マキタカズオミの作劇術は円熟味を増している。今回は自らSFというとおり、まだ日本の現実ではありえない話も混ざっているが、非現実的な感じは全然しない。

作品としてはドナー編の方が完成度が高く、レシピエント編は、若干細部に感情移入しづらい部分があったが、それでも作品の質は高い。

75分と60分という、通常の芝居に比べると短いが、その間、はりつめた緊張感を維持するのは並大抵のことではない。エンターテイメントとは全く逆の道を進む、エレファントムーンの姿勢が潔い。

このページのQRコードです。

拡大