★★★★繰り返し上演することで深化する

時間堂での再演に続き、今回もプレビューで観劇しました。
プレビューでも十分なクオリティを提示できる程に作品と向かい合った演出家、俳優との姿勢と、チラシ、舞台美術、上演とトータルカラーを細部にわたりこだわる、繊細さはとても素敵だと思いました。
決して派手な物語ではないのですが、登場人物たちのそれぞれの思いが、複雑に交差しながらも、その交点を鮮やかに描き出した演出は秀逸です。

★★★目の行き届いた作品

「すごい、ふつうの演劇。ふつうの、すごい演劇」。この姿勢にとても好感が持てました。と同時に、難しいことに挑もうとしているなとも。なにか特別な見せ方や突飛な発想などに頼ることなく、優れた脚本、演出、俳優など、どれもが高い水準で同居してこその「すごいふつうで、ふつうのすごい」演劇だと思うのです。

さらに主宰の黒澤世莉さんは、チラシや当日パンフといった、舞台上に並べられるもの以外の要素にもこだわりとセンスを持ち、そこまで含めて”作品”であると、高い意識を持って取り組んでいると感じました。

月に行く1人を決める制限時間は60分。しかも誰もが自分が行きたいと思っているのに、どこか舞台上で流れる時間はゆるやかで優しい。良くも悪くも、登場人物の感情が抑制されているように感じました。作品の雰囲気には逆らうかもしれないですが、全員が大人でなくてもいいのではとも思いました。

★★★爽やかな修羅場

比較的物語性のある会話劇を観ながら時おり考えるのは、「せりふ=本音なのかどうか」ということ、また、「嘘は前提とされているのか」ということ。

限られた月への移住権をめぐって、議論し、対決し、揺れる人々。
希望者自らが挙手制で他の候補者を一人ずつを落選させていく――という身もふたもない状況には当然、大きな感情の起伏が伴います。
しかし、そこで不思議だったのは俳優達の佇まいが、どこかさっぱりと明るいようにも見えること。それはごく自然に舞台に立とうとする俳優のあり方で、意図しないことなのかもしれないけれど、彼らが「自然さ」「明るさ」をまとえばまとうほど、その裏には想像もつかないほど生々しい感情が隠されているようにも見える。このズレはとても面白いと思いました。

舞台美術や衣裳、チラシなど、ビジュアルのセンスにもこだわりが感じられ、気持ちのよい空間づくりがされています。それだけに、個人的にはこの気持ちよさの裏にある「生」の方へ針が触れる瞬間がもう少しはっきり見えてもよかったというか、分かりやすかった気もします。





★★★脚本改訂により人気演目がさらに深化

 『月並みなはなし』は時間堂のオリジナル作品。劇団で再演が重ねられるだけでなく、俳優養成所の発表会や他劇団でも上演されている人気戯曲です。私もこれまでに3プロダクション拝見しています。

 近未来の東京。月移民を目指してきた6人の仲間の中から、たった1人だけ月に行ける人を選ぶことに。つらい試練をともに乗り越えてきた友や恋人たちは、自分の望みを叶えるために相手を蹴落とさなければならなくなる。

 舞台はほんのり木の香りが漂ってきそうな、おしゃれなレストラン。カラフルでロマンティックな衣裳を着た若い男女が、優しさで柔らかくつながったコミュニケーションを生んでいきます。

 拝見したのが初日前日のプレビューだったせいもあると思いますが(むしろそれが主な理由かもしれません)、演技の面で時間堂クオリティーを達成できているようには思えず、期待が大きかっただけに少々残念な鑑賞となりました。

 脚本のラストが大幅に変更されたことにより、これまでとは全く違う後味を残す作品に変貌していました。ハッピーとアンハッピーが混在し、揺れ動くのがとても良かったです。

★★★★★完成度の高い名作!

 プレビュー公演を観させていただいたが、プレビュー公演とは思えない完成度の高さ。十分練習を積んできたということがよくわかる役者たちがステージをていねいに楽しんでいる様子に好感が持てた。

 物語は近未来のちょっとSF的要素のある会話劇。設定がとても面白く、また登場人物一人一人の個性が魅力的だった。

 役者ではラストシーン、揺れ動く心を目線でしっかりと表現した鈴木浩司が光った。夫への確かな愛とその裏返しの不安を見事に表現した百花亜希も魅力的だった。また物語にスパイスを与える役として登場した大川翔子の明るい演技もいい味を出していた。

 3回目の再演だそうだが、よく練られた脚本をうまい役者が十分練習をして舞台にあげている。チラシ、ホームページ、豪華な当日パンフ、その全てから今回の公演に賭ける時間堂の熱い気持ちが伝わってくる。黒澤世莉の集大成がこの舞台にはある。

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