Nf3 Nf6 公演情報 パラドックス定数「Nf3 Nf6」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    作品としての美しさに震えた
    『5seconds』に続く、パラドックス定数2人芝居の2本目。
    会場も『5seconds』と同じ。
    そして、『5seconds』とは趣の異なる、やはり濃厚な時間が流れる。

    ネタバレBOX

    第2次世界大戦末期のドイツにある収容所が舞台。
    あるユダヤ人の囚人が後ろ手に縛られ、目隠しをされて、将校に部屋に連れられて来る。
    将校は、彼の縛めを解き、机の上のチェスを打つように促す。
    囚人はそれに応じる。
    この囚人はかつて大学で教鞭をとっていた数学者であった。
    ドイツ人将校と数学者である囚人が織り成す濃厚な物語が幕を開ける。

    前作『5seconds』と同様に舞台は会場の中央に設えられ、観客はそれを取り巻くように観劇する。『5seconds』と異なるのは会場が薄暗いということ。
    照明が薄暗いので、『5seconds』よりも集中できたような気がする。
    その衆人環視の中で、前作同様の濃厚な舞台が進行する。
    前作同様と言っても、もちろんその趣は大きく異なる。

    将校が囚人に対する無言は、観客にも注がれ、まるで、観客の心を手玉に取るようでもあった。「間(無言)」がとても巧みに(特に冒頭から)仕掛けられ、じっくりと物語は進行する。

    進行するにつれて、じんわりと「内なるテンション」が上がっていく様は、見事としか言いようがない。
    観客も舞台の上と同様に気持ちが高揚していくのだ。

    孤独な数学者同士の、捻れた友情、友情というよりはもっと強い絆で結ばれている。孤独ということを認めていても、やはり互いを、どんなことをしてでも捜し見つけ出したい。それは、仲間を裏切っても、自分の生命や特権が危険に晒されてもだ。

    彼らの孤独に向き合う強さの裏にある怖さが、彼らを突き動かし、強い絆を求めていくのは、人が本来持っている姿だ。
    つまり、彼らの姿は、戦中における支配者と被支配者という特殊な関係のみに出現するのではなく、誰の心の中にもある。
    もっと平たく言えば、人は、やはり1人ではいたくないということなのだ。
    つまり、彼らが口にする「数学」は、「絆」のための「方便」であるともとらえられる。
    孤独を覚悟した身にとっては、そういう方便が必要ということでもある。
    確固たる「方便」を持っているならば、人は孤独から逃げ去ることもできるのかもしれない。

    劇中の、チェスとその駒、そしてニックネーム、制服の黒。さらに各々の兄弟の顛末、コンピューターの予感とエニグマ、数学の手法等々、各所に散りばめられたエレメンツがそれぞれうまく光り、そして結ばれていく。唸るしかない脚本。

    また、両側から観客が観るということを前提に作り込まれた演出の巧みさ。立ち位置や顔の向きにより、観客には片方向から観ているという印象を与えない。
    さらに言えば、後方の席は、前方に比べより見切れてしまいがちなのだが、床に落ちる影や人の気配によって、演技を見せていくというのも憎い方法だと思う。
    薄暗闇で、多方向から観せるということが、この舞台においては、正解であるとした演出のうまさだろう。

    将校を演じた西原誠吾さんの、感情を内に潜めながら、冷徹さを装う姿が良い。また、囚人を演じた植村宏司さんの、卑屈な口調の中の、ねちっこい強さと数学への取り込まれ方の表現が素晴らしい。つまり、どちらも好演だったのだ。

    ただし(こういう言い方はあまり適切ではないのかもしれないが)、作がうますぎて、すべてが見事に結ばれていくのが、逆にキズにさえ見えてしまう。つまり、それほどきれいな球体が出来上がっているように思えてしまうのだ。
    もちろん、それは単なる難癖であろうし、普通に考えれば、そのまとまり方は真っ当だと思うのだが。

    また、エンディングにいく従い将校の感情の蓋がふいに開いてくるのだが、感情が溜まっていく様子と、蓋を開けてしまうキッカケをもう少し丁寧に見せてほしかったと思う。

    さらに、将校(少佐クラス)が着ているナチスの黒服は、ひとつのアイコンとしての役割を果たしているのだが、そうであったのならば、囚人服は縞模様にしてもよかったのではないかと思う。個人的には、45年頃の設定なので、黒服ではないほうがいい感じもしたのだが。あと囚人の数学者は丸坊主だったら…無理か。

    今回も早期に前売券購入した人に、ちよっとしたお土産がありました。

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    2011/03/23 07:31

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