カウパー忍法きりたんぽ 公演情報 ゴキブリコンビナート「カウパー忍法きりたんぽ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    下手したら人生観が変わってしまうかも。
    たとえば飛び降り自殺の現場に群がる人々が携帯カメラで死体を撮影している光景だったり世界遺産に相合傘とか書いて思い出づくりしちゃってる旅行者たちのイノセンスな悪意に対して常識という名の偽善で落とし前をつけないで、ストレートに殺意を向けること、全力で嫌悪感を抱くことこそが市民感覚として正常なのではないかという歪んだ正義がもたらす優越感や、すべての人間には裏があってグロテスクな変態性が息を潜めているという他言厳禁な本音に向かってつき進んでいくときの奇妙な時めき、あるいは淫靡な愛欲に溺れ壊れゆく者の精神性や、欺瞞と虚飾に満ち溢れた世相の仮面が剥きはがされる瞬間の目を逸らしたくなる反面、最も知りたい人間元来の持つディープな本性、生理、潜在的な欲望をまるごとがっつり目の当たりにしているという罪悪感が何ともたまらない気持ちにさせられる。
    これは観るひとによってはこれまでに信じて来た人間観/倫理観/価値観が覆されて下手したら人生観が変わってしまう演劇かもしれない。

    ネタバレBOX

    土地はやせ細り多くの者は貧乏で荒くれ者が私服を肥やす閉鎖的な村に暮らすうつ病を患うきりたんぽは、村の特産品としてきりたんぽバーガーを売って貧困から脱出しようと試みるが、周囲の人間に蔑まれ、子供たちは学校でいじめられる。

    思考錯誤の末、今度は紙芝居屋でひと儲けしようとするが、柄の悪い学生たちに有り金全部を巻き上げられる始末。

    甲斐性なしの夫をはげます妻の光恵は分裂病を患っており、起伏がはげしく夫婦間のコミュニケーションは家計同様、破綻寸前。最愛のふたりの子供たちは明るく元気ではあるものの、教育環境に貧しいためかどこか白痴めいていて、村人たちにはモラルという通念はなく暴力的で、欲望こそがすべての原動力になっている。

    そんなある日のこと。塩辛四兄弟なる忍者衆が現れる。彼らはかつての闘志であったきりたんぽの匂い(!)を嗅ぎつけてはるばるやってきたのだった。
    兄の身に危険を察知したきりたんぽの妹・おたべも加わり地獄の死闘がはじまる…。
    するとこれまでの荒廃で殺伐とした陰鬱なトーンは一転し、ギャグめいてくる。両者とも趣向を凝らした必殺技を出しまくるのだけど、いちいち野蛮で下品。しかし戦の本質は愛する者を守るためにあるという人間らしさが邪魔をするのだからなんだかとてもやるせない。
    そして勝つためならどんな手段をも厭わずやってのけようとする人間の愚かさや弱さが引き起こす残虐性は過激さを増すほどに、欲望が満たされていくようで。その異常性に気がついた時、急激に生理的嫌悪感に襲われた。

    全体を通してみれば良くも悪くもくだらないなぁ、に落ち着くのだけれど、これほどまでに社会の有り様、人間の生き様/死に様を見せつけられると本当に有無を言えなくなる。
    わたしたちはこんな風にしてトラウマになるほどの強烈的な体験をすることでしか、絵空事みたいな今に対して生きてる実感を持てなくなってきているのかもしれない。

    0

    2011/03/08 00:54

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大