花よりタンゴ 公演情報 こまつ座「花よりタンゴ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    最初から最後まで全く冷静な状態では観られなかった。
    私の感想はもはや感想として機能すらしてないように思いますが、四人姉妹に生まれ育った身としてもあまりに思い入れの深い作品なので、文筆家としてこれを残さずして、という気持ちもあり走り書きました。

    ネタバレboxに色々書いたけど涙の成分は郷愁だけではなかった

    「憲法9条をご存知ないですか?」
    「国って何なのよ」
    国や時代に翻弄されながらも愛する者たちと平和に生きんとする。今に迫り来る上演でした。それだけにもう少し手が届きやすいといいな...全部値上げのせいだし当然に戦争は反対だ。

    ネタバレBOX


    私は四人姉妹の三女として育った。
    10歳近くはなれた長女の姉はよく私や妹の面倒をみてくれた。姉は中学の頃から宝塚に憧れ、スクールにも通ったものの宝塚には入れず、しかし日芸に進学し、劇団を主宰しながら俳優活動を続けていた。

    東京に初めて遊びに行った夏休みのことだ。姉は稽古場の隅に小学生の私たちを座らせ、シーッと人差し指をかざした。私は小さな体をさらに小さく折りたたみ、いつもよりさらに大きく見える姉を見上げた。そのとき初めて人が演じる劇を、稽古というものを見た。
    江古田のその稽古場で、姉が一際強い力で台詞を放った瞬間を、私は今でも覚えている。
    「森川くん、タンゴ!」

    私が初めて観た演劇は、稽古は、井上ひさしの『花よりタンゴ』だった。

    姉は稽古場だけでは飽き足らず、実家でもしばしば姉妹を召集し、稽古に付き合わせた。
    「森川くん!」を合図に突如始まる稽古は身内相手だけに色々容赦がなかったが、やっていくうちにいつものリビングが本当に銀座のダンスホールに思えてきて楽しくなってくる。そのとき私は初めて台詞というものを口にした。現実と呼応した配役が割り当てられ、私は三女の梅子役。ルビに注意して叫ぶ。
    「螢雪時代に名前がのったのよ!」
    当時の私は歌手になりたかったので、妹の桃子役が少しうらやましくて、時々わざと桃子の台詞を言ったり、でもやっぱり梅子をいとおしく思ったりと心が忙しかった。『星影の小径』という歌を知ったのもこのとき。私はその歌がとても好きで、よく口ずさんでいた。

    それから時は経ち、姉は劇作家ではなく、俳優でもなく、小説家になった。
    大学卒業から数年後に『花よりタンゴ』を再演し、その千秋楽に小説の受賞の報が入った。大学の休みで偶然東京に遊びに来ていた私も立ち会い、カーテンコールで花売り娘に扮した私は姉に小道具の花を手渡した。粋な演出だったと思う。姉が劇団公演を打ったのはそれが最後だった。

    それからさらに時は経ち、今、私は歌手でも、秀才でもないけれど、ささやかながら演劇のライターをやっている。
    演劇をやっていた姉が小説家になり、小説を研究したり書いたりするために文学部に入った私が演劇の仕事に就いた。
    人生とは、姉妹とは不思議なものだと思う。

    演劇ライターを始めて間もないある夏、私はこまつ座の取材をすることになった。井上ひさしの戯曲が所狭しと並ぶ部屋からはマンション越しにスカイツリーが見え、目の前には井上麻矢さんがいた。もちろん、姉に一番に報告をした。姉はとても喜んでくれた。
    俳優と結婚した事もあり演劇はやがて生活になり、好きな戯曲や劇団にも沢山出会ったけれど『花よりタンゴ』は私にとってやはり一際特別な作品でいつか観れる日をずっと夢見ていた。そして今日、そのいつか、がきた。
    もちろん、姉に一番に言いたかったけれど、タイミング悪く喧嘩をしてしまっていて連絡ができなかった。姉妹が言い争うシーンを見ながらとても後悔をした。藤子の「忘れません」が胸を突く。あの頃よりずっとこの物語の深いところに触れられている気がするけれど、同時になぜだかあの時よりずっと戦争や分断を近くに感じながら、ひとつひとつの台詞やシーンを噛み締めた。紀伊國屋サザンシアターの四列目で、江古田の稽古場の床を、姉妹と過ごしたリビングを思い出す。

    「森川くん!」
    朝海ひかるさん演じる蘭子の声に、ふと姉の声が重なる。
    「タンゴ!」

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    2026/08/31 23:39

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