フタマツヅキ 公演情報 インプレッション「フタマツヅキ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    ずっと観たかった作品。5年越しに観れた。成程。思っていた作品とは違ったが納得のいくもの。お笑い芸人版『ロッキー』をやれば皆泣くのにそうはしない。そこが日本人独自の感性なのか。肯定も否定もなく人はただそれぞれを生きた。その事実だけ。

    二間しかない市営団地。ひたすら古典落語「初天神」の練習を繰り返す落語家の父。襖越しの眠れない息子はいつしか噺を覚えてしまう程に。
    初天神の日、独りで天満宮にお参りに行こうとする男に女房が息子も連れて行ってと頼む。あれ買ってこれ買ってと駄々をこねひたすらねだる息子の性格を知る男は断る。息子は絶対何も欲しがらないと約束する。渋々息子を連れて天満宮に向かう男の噺。
    時は経ち、父は60代、息子は20代に。

    元落語家の主人公、近藤芳正氏はダイアン津田に見えた。完璧。
    甲斐甲斐しく尽くす妻、白羽ゆりさんのちょっと狂気じみた優しさ。新興宗教の信者のような。今更、半生を否定したところで。
    父を憎む息子、溝口琢矢氏。落語家の父親が自慢だった。誇りだった。
    彼の幼馴染でバイト先の回転寿司店のバイトリーダー、中野郁海さん。ずっと恋心をアピール。
    落語の弟弟子であった加藤虎ノ介氏。この人、いろんな役で観るがかなりの実力者。
    ギャラリーサワタリのオーナーで主人公のパトロン的存在、枝元萌さん。文句なし。作品内、一番重要な意味を持つ会話シーンがある。

    ネタバレBOX

    若き日の母親、佐久間麻由さん。生きる理由をパートナーに求める依存症的性格。古来より日本の駄目男の理想的存在であるが、大抵どちらも地獄行き。
    若き日の主人公、辰巳雄大氏。「ソラシド」の本坊元児を感じた。売れない芸人は女をナンパして食わして貰うのが生命線。その位荒んでいる。何の根拠もない自分の才能への自信だけが頼り。

    近藤芳正氏と辰巳雄大氏がお金を受け取る際、左、右、中央の順に手刀(てがたな)を切る所作。癖なのか判らないがこれによって二人が同一人物であると観客が勘付くようにしている。

    お笑い芸人の夢のような設定。全く売れないピン芸人(漫談師)が劇場のあるビルの屋上で自殺しようとしている女に声を掛ける。良かったら俺のネタ観に来てくれよ。何となく女は観に行く。どうしようもない漫談だったが女は彼の熱烈なファンとなり応援していくことに。金も人気も未来もない自称芸人がファンと付き合い生活の面倒を見て貰う情けない日々。到頭女は妊娠し正式に籍を入れることに。出演する場もなくなり四十過ぎて落語家に弟子入り。それも巧くいかず中堅「二ツ目」止まり、持ちネタは「初天神」だけで廃業状態。劇場のあったビルのオーナーに名前だけの管理人として雇われ、泊まり込み小遣いを貰って暮らす日々。息子は父親を憎んで育った。母親に食わせて貰うだけのクズ父。クライマックス前、父親に投げ掛けるオーナーの言葉がこの物語の肝だ。あんたが駄目になったのは彼女に食わせて貰ってからよ。生活の安心、逃げ道を得てから芸に殺気がなくなった。ギリギリの笑いが消えた。舞台に立っている瞬間しか存在のない追い詰められた人間にしか持てない色気が。生活の安定の為に自分は芸人として持つ唯一の武器を失ったのか?今更の夫婦喧嘩。俺の芸人人生が終わったのはお前のせいだ!母も泣く。だったらどうすれば良かったのよ!出逢い結婚し子を儲けた全ての日々の否定。だが否定しても現実はここに依然としてある。父子二人でやる落語。襖越しの母は笑う。笑って全てを正着にしていくしかないじゃないか。

    ラストは積み重ねた家族の歴史を全否定し、その上で全肯定しようとする荒業。互いの存在を一生分かり合えないであろう父子が絶望した母の為に襖越しに一席ぶつ。一体何の為に?いや何の為でもない。強いて言えば共有した時間の為か?共有した長い長い無駄な時間。何の意味もない無駄な時間。すらすらと口から流れ出す台詞。家族落語の結晶、一粒の泪。

    やりたいことをやるとは何か?夢を追うとは何か?どうしようもない自分自身を現在を現実をそのまま受け入れるしかない。誰も何も選択出来ない。でも誰にも明かせない本当の気持ちだけが自分を自分で居させてくれる。本当の気持ちだけが。

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    2026/08/26 21:36

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