ファーム・ホール 公演情報 劇団俳優座「ファーム・ホール」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    昔、某映画監督がどんなシチュエーションであっても重要なのは登場するキャラクターの色気なんだと語っていた。色気を頼りに観客の意識は作品内をあちらこちら浮游する。それは性愛とかの意味ではなく、人を惹き付け興味を持たせる感覚のこと。汚らしい土木作業員の日常風景でもちょっとした工夫を入れることで色気は出る。殺し屋の残忍な殺し合いすら色気の有る無しで作品のイメージはガラリと変わる。色気のある関係性。

    俳優座のレヴェルは群を抜いている。東映実録ヤクザ映画全盛期を思わす聳え立つ俳優山脈。その中でも選りすぐりの6人が色気たっぷりの演技合戦。俳優座スタジオで前売6800円は高いなと思ったが納得させられた。

    1938年、オットー・ハーンの発見した核分裂反応。当時、ドイツの科学レヴェルは世界一だった。かつてアインシュタインの助手であった物理学者レオ・シラードはユダヤ系の為、1933年にナチスドイツから亡命。1939年、核分裂が連続的に起こる核連鎖反応の存在に気付き恐怖する。これを利用した爆弾を作ったら世界を征服出来る。アインシュタインを通じてフランクリン・ルーズベルト大統領に手紙を送る。(アインシュタイン=シラードの手紙)。一刻も早くドイツより先に原子爆弾を開発しなければならぬと。
    結局の所、アメリカの天才、J・ロバート・オッペンハイマーが原爆を完成させる訳だが、連合国はドイツも完成させていると睨んでいた。天才ヴェルナー・ハイゼンベルクが完成出来ない訳がないと。23歳で博士号、「行列力学」「不確定性原理」を提唱し31歳で量子力学の創始者としてノーベル賞を受賞。彼がドイツの原爆開発の陣頭指揮を取っていたのだ。

    1945年5月7日、ドイツが無条件降伏。
    1945年5月1日から6月30日に渡りドイツのノーベル賞級物理学者10人の身柄が拘束される。(=オペレーション・イプシロン)。彼等は1945年7月3日から1946年1月3日までイギリスのゴッドマンチェスターにある田舎の屋敷、ファーム・フォールに抑留される。屋敷中に盗聴器が仕掛けられており、彼等の生活の中の自然な会話から原爆開発の実情を探ろうとした。(今作では6人になっている)。

    ウディ・アレン、ジム・ジャームッシュ、アキ・カウリスマキ系のコメディ。淡々と観客を突き離した距離感から笑わせていく。何となく一人ひとりのキャラや人間関係が見えてくると特に何もしていなくてもその場を面白く味わえるように。ツッコミを入れずぼんやりと観客を空間に放置させる感覚はジム・ジャームッシュっぽいか。

    メチャクチャ面白い。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    マックス・フォン・ラウエ(加藤佳男氏)
    1912年X線の回折現象を発見し、X線の正体が波長の短い電磁波であることを明らかにした。1914年ノーベル物理学賞。(そもそも原子核物理学はX線の発見から始まったもの)。国家社会主義(ナチズム)に反対しナチスに睨まれた。

    オットー・ハーン(河内浩氏)
    1938年核分裂反応を発見し、1944年にノーベル化学賞。その時、莫大な熱エネルギーが生まれることが判り、原子爆弾の構想が誕生した。核分裂可能な元素はウラン、プルトニウム、トリウム。反ナチスの立場だったが、長年の共同研究者であり亡命したユダヤ人女性物理学者リーゼ・マイトナーの功績を横取りしたことで非難を受ける。

    ヴェルナー・ハイゼンベルク(志村史人氏)
    1925年、彼の行列力学によって誕生した量子力学。不確定性原理=存在と運動は同時に観測出来ない。ミクロの世界では粒子の位置や運動量は決まっておらず、観測された時点で初めて決まるという法則の発見。アインシュタインは「神はサイコロを振らない」と確率論的な解釈を否定、確固たる物理法則がある筈だと主張した。
    ※ハイゼンベルクの「コペンハーゲン解釈」は1920年代に提唱された確率論。観測するまで結果は存在しない。ヒュー・エヴェレットの「多世界解釈」は1957年に提唱された。全ての結果が並行宇宙に分岐して存在し、我々の世界の観測結果はその一つに過ぎないという壮大な話。

    カール・フリードリッヒ・フォン・ヴァイツゼッカー(八柳豪氏)
    名家であるヴァイツゼッカー一族の出、外交官の息子。弟は戦後、西ドイツの大統領となる。ハイゼンベルクの同僚であり彼を崇拝する親友。

    エーリッヒ・バッゲ(野々山貴之氏)
    ハイゼンベルクの教え子だがナチ党員。労働者階級出身の負い目。

    クルト・ディープナー(斉藤淳氏)
    ナチス・ドイツの原爆開発チーム、「ウラン・クラブ」を率いた陸軍兵器局主任のナチ党員。

    ある意味、主人公の嫌われ者ディープナー。彼への皆の対応が前半のドラマ。
    退屈しのぎに発注した壊れたピアノの修繕。加藤佳男氏と河内浩氏の見せ場。高畑勲っぽい。
    野々山貴之氏のキャラ設定に味がある。アイディア勝利。

    俳優座スタジオの床が盆となって時計回りに回転する演出。多分今回その機能を初めて知った。まさか動くとは思わなかったので相当の異化効果。現実感がぐにゃりと歪む。
    ※丁度この前、『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』を観ていたらクライマックスで席がドンと激しく揺れた。凄い演出だなと思ったら普通に地震だった。

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    2026/06/22 22:57

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