公演情報
ハツビロコウ「ロスメルスホルム」の観てきた!クチコミとコメント
実演鑑賞
満足度★★★★
イプセンを“攻略中”のハツビロコウが今回は知名度のさほど高くない作品を上演..。本作がどう「特異」なイプセン作品かは分からないが、テキレジが既に独自の領域であると、十分に知り尽した位の作品で変奏バージョンを観たい、というのは近作を観た正直な思い。
今回の感想を・・とその前に、途中大きな寝落ちをした事をお断わり(毎度誠に申し訳ない事だが、カーテンコールに初めて見る顔が並んでいたのは初めて)。
ただ話の筋は凡そ掴んだかと思う。
現代に通じる普遍性を作品に見出す試みには大いに共感。100年経ったと思えないイプセン作品の根底に流れるもの、それは彼が著作の大部分を書いた時代に既に形成されていた近代社会の構図だと仮説する。いつの世にも体制とそれを転覆させようとする勢力があるが、イプセンの生きた19世紀後半はフランス5月革命やマルクスの後の時代であり、「社会の根本的な矛盾」と「これを理論的・物理的に解体する」勢力の形成という現代に通じる構図が形作られたものと見える。
本作でも現状を支える構造を覆さんとする改革勢力があり、主人公たちはこれを担う側にある。彼らは「勝利」を手にする事はないが、いつか人と社会が「変わる」風景を見る事への希望が、余韻となる。ノラが最後に去って行く「人形の家」と同形の構図。本作がより複雑なのは、主役に当る男女二人が「リスクを伴うが希望のある」道へ踏み出す予兆で終るものの、作者はこれに恋愛要素を絡め、これを突き詰め追い込んで行く。
改革を望む者(その方途となる理論を知る者)は世の中ではまだほんの一部であり、主人公らの師匠に当るあれほどに期待を寄せられていた老人が、血糊の付いた姿で現われ、敗北の内に去り行く。理においては「既に勝っている」孤高の美学を臭わせるが、これを見た二人のダメージは少なくない。
恋愛要素とは、男の方は影響されやすい優男、実は女性が一枚上手で「運動」のために彼を籠絡、否引き入れたのだが、大真面目な男は、亡くなった妻の話し相手として(妻に乞われて)来るようになった彼女に対し、妻が亡くなる前から愛を感じていたのかも知れない、と認めてしまったりする。
男からの求愛を一度断った女だが、男が旧知の牧師からの説得に折れて(以前のように)現状を支える者となった後、決裂を前に女が男との間の不理解を解消するために、だろうか、「本当のこと」を伝えんと言葉を繰り始める。決して誇れない過去を持つ女(その事も告白する)が男に対する愛を「証明する」必要に迫られた結果、その最も確実な行動は妻が身を投げるに至った橋(その後決して男が渡らなかった庭から伸びる橋)へ行き、橋から身を投げる事だと言う。その申し出で初めて相手の言葉を吟味し始めた男に、「貴方はそれを見てなければならない。あの橋の上で私のその行動をその目でしっかりと見る事」それが女の愛に男の側が答える事だ、と言う。「貴方が私の行動を見届け、私の愛を信じる事が出来たなら、早く私を引き揚げ、二人は結ばれる事になる、だから貴方はあの橋に来なければならない」・・川に落ちる事はほぼ「死」を意味するが、作者は彼女に「その時点から二人が愛で結ばれた生を始める事になる」という希望を語らせている。成る程一掴みにできない深淵なドラマという風格である。