永久機関 公演情報 Theatre MERCURY「永久機関」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    難解だが魅力ある作品
    中心学年の劇団活動卒業公演にも当たるためか、満席。2階や舞台後方にも補助席を設けるなど、東大の学生演劇でもこんな盛況は久々の経験。
    演劇専門の大学ではないのに、駒場小空間は可動式の設備・機材も充実した小劇場並みのホールで、演劇学生羨望の的だ。恵まれていると思う。
    大学公認の駒場3劇団の中でもマーキュリーは前身が野田秀樹の学内劇団と言われ、学年ごとに内容は変わるものの、一貫してシリアスで難解な傾向が強い。
    作家、演出家、俳優と、卒業後も演劇界で活躍するOBを輩出している。
    今回の作品も、劇団カラー相応に難解で、終演後、「難しーい!」と呟く声が多かったようだ。
    学生だからこそできる実験的な作品ともいえ、快い緊張感が支配していた。
    作・演出の宇垣智裕さんはきっと今後も演劇活動を続けてくれるのではないかと私は思っているが、学外の一般公演でどんな作品を生み出すのかとても楽しみにしている。
    ※公演日程が21(火)までになっているが、20(月)までの間違いだと思う。

    ネタバレBOX

    「永久機関」というタイトルの意味がわからず、観劇するまでまったく内容が予想できなかった。
    「永久機関」というのはWikiに解説があるそうなのでここでの説明は省略させていただく。ひとことで言うと「外部からエネルギーを受け取ることなく、仕事を行い続ける装置」だそうだ。しかし、実際にはこの「永久機関」は実現不可能な装置であることが研究上明らかとなり、それによって物理学の熱力学分野の研究が進んだというから、「原子力エネルギー」もそのひとつなのだろう。
    この劇で描かれる「核戦争」と「家族」、ともに「永久機関」と位置づけられているようだ。
    観客席を両側に挟んで横長の舞台。一隅にブランコが置かれ、天空には星の代わりに道路標識が多数浮かぶ。舞台中央には地球儀。最初に「演出家」(金澤周太朗)が登場し、次にオーディションを受けに来た俳優たちが登場。俳優たちはいきなり配役され、劇を始めさせられ、それが本番だと知り、驚き戸惑う。この演出家は実際にこの劇で「神」、「先祖」を演じ、ブランコに乗る。神は万物創造としての「父」であり、俳優が演じる人物たちはすべて「子」なのである。冒頭、演出家が「お父さんは僕が演じます。皆さんは全員子供です」というのもその意味なのだろう。
    ときどきに一部配役を変えながら、戦地に父と長男を送った留守家庭の日常、食卓の同じ場面が繰り返し演じ続けられる。毎日、放射能の雨が降り続き、母親は「正しい洗濯」にこだわり続ける。この「洗濯」は「選択」と掛けている。
    父親は第3次大戦に出征し、息子と同じ年恰好の青年兵士と出会う。「長い間、歴史の中で戦争は繰り返されているが、なぜ、人は家族の大切さを繰り返そうとはしないのか」という問いかけが心に響いた。
    戦地の「慰安所」で女を抱くか、抱かないかという「選択」も俳優を替えて描かれる。
    降り続く放射能の雨に傘をさす場面は、映画「ブレードランナー」の放射能雨の場面を思わせる。世紀末における終末思想やノアの方舟を匂わせ、1999年6月30日と4月13日が繰り返し出てくる。
    「意味は最後にわかる」と最初に演出家は言うが、「わからないかもしれない」と結ぶ。意味は観客1人1人に考えてほしいということだろう。それは安易に解釈を観客に委ねるということとは違う。戦争と日常。難解だが、非常に考えさせられる内容だった。
    演出家を演じた巨漢の俳優、金澤は、時に暴力的で時にユーモラスな存在感が得がたい。芝居の特性上、配役表がないのでこの劇団を日ごろ観ていないと、俳優名がわからないのが残念。役代わりがあっても、工夫して配役を書いてほしかった。
    たくさんの俳優が出てくる中、出番は少ないが、辻貴大にはいわゆる役者としての華があり、ひときわ目立っていた。既に小劇場劇団でも客演して場数を踏んでおり、今後の活躍が楽しみな俳優だ。


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    2010/12/21 13:38

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