満足度★★★★★
ケルパー
サシャ・ヴァルツの身体三部作第一作目。
三部作の一作目らしく、中世から現代までの歴史の中でもポピュラーなイメージを利用しつつ、異様で不可解な鑑後感を与え、2作目、3作目への地盤固めとなっている。各シーンに見る、過去の有名絵画のような、現代のアートパフォーマンスのような、美術作品的な印象を与えるモチーフは、その時代時代に表されていた身体の問題を想起させる力のあるものが選択されている。もちろんサシャの的を得た演出力により、モチーフと時代の身体性という繋がりへの連想が可能になっている。
今回の作品はモチーフの多さがまず第一にすごーく楽しめるポイント。中にはアクロバット的なキャラクターもあり、「アート」をテーマにしたオムニバスレビューを見ているように、めくるめく幻想的な舞台に仕上がっていた。それぞれのモチーフは全て作品のための独特のアレンジメントがされており、誤解を招く表現かもしれないが、上質なパロディと言った感じ。いや、これまでのアートを全て普遍化させて、自然や史実といった、表現の一素材として扱えてしまうぐらいに、この作品が包括する世界は時間的にも今までにあり得ないぐらい、近・現代までをそのシナリオの範疇に含んでいる。
因に決して明るいものではない。説教臭くも暗くも怖くもないが、舞台上は一貫してクールで静か。最初に書いたとおり、「異様で不可解」というのが一番ぴったりくる。だから客席で多少居心地が悪い人もいたかもしれない。裸もいっぱい出てきたが、セクシャリティはゼロだった。(それもすごいが。)
願わくば劇場機構もこの作品のためにいつか最高のものをしつらえてほしい。プロセミアムの舞台はどうしても向こう側の夢とこちら側の観客の間に空気の違いを保つ層がもうけられてしまう。距離感や空間比率の問題か。単に舞台内の天井の高さの話かもしれない。出来れば覚めずに味わいたい。一度入ると退出の仕方が判らない。それだけ強固で深い哲学性を持ったファンタスマゴリアである。
ああ素敵だった・・・