新宿八犬伝  第一巻 ー犬の誕生ー 公演情報 流山児★事務所「新宿八犬伝 第一巻 ー犬の誕生ー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    2回目。
    騒!乱!情!痴!遊!戯!性!愛!
    平井和正(『幻魔大戦』や『アダルト・ウルフガイ』)の原作を唐十郎が戯曲化し、更に石川賢がメチャクチャにコミカライズしたような作品、しかも未完。(雑誌は廃刊)。

    リーディングであることを足枷のようにしてみせた演出。台詞を覚えていても敢えてリーディングであることに拘らないといけない。逆説的。

    去年の冬の新宿を襲った大火、風俗嬢が何人も犠牲に遭った。傴僂のV・銀太氏がピンサロ嬢(真田雪さん)とプレイ前、たぬき蕎麦の出前を取る。突然化物に変身し(犬の口吻を付けて)子宮を噛み千切る。死体は窓から下界へと落ちてゆく。

    山丸莉菜さんは失踪した獣医の旦那の捜索を探偵フィリップ・マーロウ(上田和弘氏)に依頼。事務所には秘書のシャロン(荒木理恵さん)。警部(木下藤次郎氏)は連続子宮切り裂き男を追っている。上田和弘氏は内藤大助似。

    ホスト軍団(兼焼肉屋経営)・バイキングと手コキ風俗嬢・深海魚の軍団がいつものように喧嘩。横断幕のようなカンペを皆で向かい合って読みながら怒鳴り合う。ホストの親玉は男装の麗人・皇帝ルドルフ(伊藤弘子さん)。テーマ曲は『風と共に去りぬ』、イメージはレット・バトラー。風俗嬢の親玉はモモコ姫(神原弘之氏)、アンドロジナス(両性具有)。

    ヒロイン山丸莉菜さんが適役。失踪した夫を捜す、左目に眼帯をした若奥様、これだけでほぼ満足。劇中歌も良い。グラスに入ったバーボンの中で赤犬が何かを探し続けて彷徨っている。自分の尻尾をその何かと間違えてくるくるくるくる回り続ける。遠吠え。

    雲子役橘杏奈さんが体調不良で降板、代役は演出の小林七緒さん。前回観た橘杏奈さんはド迫力だった。
    珍子役向後絵梨香さんはホスト共の話を枝毛のチェックでガン無視。
    安子役高信(たかのぶ)すみれさんは妙にエロい。
    ヴァギ菜役山川美優さんは星井七瀬とだぶる。

    レバ刺し役里美和彦氏は色気がある。
    ユッケ役本間隆斗氏は万有引力に似合いそう。
    ビビンバ役の達(徳永達哉)氏はユライア・フェイバーみたい。
    クッパ(山下直哉氏)とヴァギ菜(山川美優さん)は『ロミオとジュリエット』のよう。
    キリシマ役V・銀太氏は存在が映画的。
    伊藤弘子さんと神原弘之氏が登場すると常連客がどっと沸いた。

    面白いんだか面白くないんだかさっぱり判らないが観に行って良かった。山丸莉菜さんの復帰により、流山児★事務所の八犬士は出揃った。誰も顧みない場末の小劇場から世界を変革する狼煙が上がる。

    ネタバレBOX

    この戯曲を書いている影の滝沢馬琴(甲津拓平氏)と彼に仕える二十九時の姫君(春はるかさん)。新宿で起きた全ての物語は彼の手によるもの。

    犬の出前蕎麦。本物の子宮を使わないと物語を孕めない影の滝沢馬琴。犬殺し?の青酸コーラ。夢魔。

    誰にも相手にされない陰気な乞食、伏子。フィリピン人の連続殺人鬼、通称イヌを匿う。イヌは警官の銃弾を受け血塗れ。瀕死のイヌは伏子を無理矢理抱いて死ぬ。伏子はイヌの死体から8発の弾丸を抜いてやり、拳銃に込める。ルドルフとモモコ姫がその8発を新宿のアスファルトに撃ち込む。その弾は空に浮かんでバラバラに飛んで行った。新宿八犬士の誕生。

    実は『正義』がテーマ。火事の中、ピンサロ嬢(真田雪さん)が口で抜いてやった客の大学生を置いて逃げ出したことにキリシマ(V・銀太氏)は激怒する。「じゃあ正義は何処にある⁉」「正義?そんなもん何処にもありゃしないよ。」

    昔、バイオレンス・ジャックは自分の命を担保に復讐を依頼した少年に言った。「これからのお前の人生は俺のものだ。」「心、正しく生きよ」と。少年はこれからずっと自分の中の『正しさ』と向き合って生きていかなくてはならない。

    かつて、三池崇史の映画は曼荼羅だと思った。普通、曼荼羅は美しいもの価値のあるもの黄金や絹、高貴なものを使って表現する。逆に三池崇史は血や反吐や糞や死体、拷問、醜くて汚くて目を逸らしたくなる不快なものを使って描く。方法論は違ってもやろうとしていることは同じ。今作も新宿歌舞伎町の曼荼羅だろう。糸を引いた精液と尿の混じった愛液、くしゃくしゃの垢にまみれた千円札と何度洗っても落ちない手に染み付いた生臭い匂い。恥知らずの暴力的なふるまい、人の心を踏み躙って得る快楽。まるで弱い立場の存在を見下して優越感に浸る惨めで醜悪な自分自身を見ているようじゃないか。そこに風が吹く。そこで『正義』が問われる。

    悪に染まった八犬士により窮地に陥る山丸莉菜さん。この戯曲の作者である影の滝沢馬琴から八犬士を自由にしようと説得する。「優れた作品は作家の手を離れて既に読者のものである!」と。登場人物が作者を裏切り自由の身に。自分が自分自身を裏切るのだ。

    ラスト、レバ刺し(里美和彦氏)とクッパ(山下直哉氏)の殺し合い。「正義とは何だ?」「悪とは何だ?」との答なき問答。結論は「俺達は正義でも悪でもない、ただ吹きすさぶ風だ。」
    新宿に風が吹いて、その場で為すべきことをするのみ。
    山丸莉菜さんはその名前を伏子だと明かすエピローグ。

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    2025/11/26 22:19

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