寺山修司生誕90年記念・第2弾レミングー四畳半の天文学ー 公演情報 演劇実験室◎万有引力「寺山修司生誕90年記念・第2弾レミングー四畳半の天文学ー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    レミングとは北極圏ツンドラに生息するタビネズミ。レミング現象(死の行進)とは個体数が増え過ぎたレミングが本能的に集団で海や川に飛び込んで自殺する種の個体数調整行為のこと。1958年、ディズニー制作のドキュメンタリー映画『白い荒野』で世界的に広まった。だがこれは映画としての面白さを狙ったヤラセであり、実際にはそんな事実はないそうだ···。

    今作は寺山修司の最後の演出作品であり天井棧敷の最終作品。「都市とはそこに住む人々の内面を外在化したものである」。この何重もの壁によって他者と隔絶を図る都市は人間の選別と拒絶の象徴。他者を拒絶しないと手に入らない安心。
    現実世界の空間は壁によって隔てられているが、壁を無くしてみたところで人間一人ひとりの自意識が壁となって他者を遮る。そこまでして壁を作り守ってきた自身の内面とは実は空っぽ、無であった。人間は無に固執して自我を保つ。実はその執着こそが人間の形そのもの。個人的妄想を守り安心を得る為に必要な壁。

    髙橋優太氏、中華屋コック見習いのワン(王)。
    小林桂太氏、中華屋コック見習いのツー(通)。二人はアパートに同居している。
    髙田恵篤氏、ワンが床下に隠して住まわせている母親。この時代、要らなくなった高齢者は回収業者に引き取られる。見つかって処分されることを恐れて匿っている。サザエさんカット(=モガヘアー)を頭の上にタワシ3個乗せることで再現。キャラが麿赤兒氏そのもの。(2015年のPARCO制作版ではまさに麿赤兒氏が演じていた)。

    ある日、突然部屋の壁が無くなりアパートは筒抜けに。パニックになる二人。

    隣室に住むのは望遠鏡を持った𫝆村博氏と顔の右半分に大きな赤い痣がある山田桜子さんの兄妹。だが壁が無くなった事には気付かない。(興味を示さない)。山田桜子さんは金星人と交信していると信じている。眠る彼女を夜な夜な性的に悪戯する兄。

    いなくなったアパートの住人、出口氏のエピソードが語られていく。

    沢山の妄想が世界を侵食していく。誰の話も自分に都合のいい嘘ばかり。無論、俺の話もそうさ。

    セーラー服姿の前田倫さんが大きな本を片手にうろついている。口ずさむ歌が綺麗。

    「世界の涯てまで連れてって - Come down Moses」(モーゼよ山から降りて来い)

    Come down Moses ろくでなし
    Come down Moses ろくでなし

    take me to the end
    to the end of the word
    take me to the end
    to the end of the word

    ネタバレBOX

    壁のないアパートでは映画の撮影が始まり、精神病院の治療が始まる。誰もが誰かの妄想に取り込まれていく。

    森ようこさん、永遠にカメラの前で演じ続ける往年の大女優・影山影子。20年もの間、映画『鉄路の情熱』の撮影が続いている。(TV番組での再現撮影になったりもする)。発声法が素晴らしい。この声の出し方はもっと評価されるべき。テーブルの下、ブリッジの体勢で逆さまになり舌をベロベロ伸ばして笑う。「事実は死んだ!」

    木下瑞穂さん、SMの女王のボンテージ姿の看守と看護婦を両立させる貫禄。
    屋根裏の散歩者、飯塚勝之氏とその声である三俣遥河氏。
    内山日奈加さん、小林香々さん、若くて魅力的。
    囚人、飛田大輔氏と加藤一馬氏。鉄の扉に絵を描いて脱獄しようとしている。

    ​​狂人の遊戯治療を行なっている開放病棟。ここにいる連中は皆キチガイで俺達は治療の為に話を合わせてやっているのさ。

    太陽黒点の穴に向かってレミング共は行進を始める。集団蒸発して水蒸気と消える。

    皆妄想の中で自分だけがマトモだと思っていた。狂っているのは周りの奴等の方で、自分はそれに乗っかって合わせてやっているだけなんだと。
    壁をすり抜けて逃げ出せ。俺は全ての壁をすり抜けられる。生も死もすり抜けられる。お前等がどうしても手放せなかった自分自身さえもすり抜けてやる。
    「とび出すネズミがたった一匹!」

    特撮 「ケテルビー」

    あなたが希望と認識している最後のものは、
    本当は絶望であるのかもしれない。
    あなたは目の前にあるものだけを信じ、
    その裏にある本質を見い出そうとしなかった。
    だから裏切られ打ちひしがれているのだ。
    (中略)
    そうだ、喜びに見えるものは悲しみで、
    愛に見えるものは実は憎しみなのかもしれない。
    しかしこの宇宙は闇ではない。
    逆に言えば私達が孤独や苦しみと認識しているものは本当は、あたたかな、あたたかな、午後の陽射しであるのかもしれないのだ。

    ※終わったと思いきや、ステージに東京都の地図が貼られ髙田恵篤氏が観客を呼び込む。それぞれの住んでいる場所にシールを貼らせていく。沢山の客がステージに上がり次々にシールを。それは暗闇で発光する星空のように。

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    2025/11/18 21:10

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