蝶のやうな私の郷愁 公演情報 はちみつ「蝶のやうな私の郷愁」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    もったいない。はちみつ制作部の「蝶のやうな私の郷愁」を観終わった時、素直にそう思った。断じてネガティブな意味ではない。この傑作を、その日、わずか20人も観ていない事実にもったいないと思ったのだ。この舞台はもっと多くの人に見られるべき傑作である。多くの人に観られないのは社会的損失だ。しつこいだろうがもう一度だけ書こう。傑作だ。
    本作は2人劇である。夫婦(と思われる)男女が、大型台風の大雨の中で少しズレた食事風景を演じる、とてもシンプルな内容だ。しかし、シンプルな内容であるからこそ、俳優の技量や演出力が求められる。
    まずは俳優の演技。どこか現実感がありながら虚構である。その狭間の演技が上手かった。特にどこかズレた噛み合っていない夫婦の会話が面白い。何度か笑ってしまった。所作も現実の夫婦のようで質量がある。
    何より素晴らしいのが演出だ。台風の大雨というジメジメとした湿度を見事に再現している。台風の日の会話の間、突然の停電、ロウソクの照明、雨漏りに対する対応。どれも日常で見慣れているはずなのに、どこか湿度で錆びついている。この空気感がよい。
    特にこだわったと伝わってきたのが「食事」である。本作において、食事はパントマイムではなく、実際に用意されたモノを食べている。これが舞台全体に緊張感をもたらしている。
    舞台における演技の基本は、役者が机がない空間に机を作り出すような虚構性である。しかしながら、「食事」が実際にあることで実在感が生じ、重みが生まれる。湿度の質量溢れる舞台で、実際のモノが存在する。役者と現実のモノのハーモニー。この重なった雰囲気が実に良かった。
    このように練られた舞台でありながら、注目されていないのが本当に惜しい。1時間でありながら、料金以上の満足感が確かにあった。クセもなく幅広い世代に観やすい舞台であるのに、どこかもったいない。
    舞台はナマモノだ。その場にいなければ、味わうことができない。たとえ録画があってもそれは本物ではない。模造品である。
    この傑作の「本物」に出会えた偶然を喜ばずにはいられない。たとえ多くの人が観ずとも、私の中で生きる舞台になるだろう。そう思わせるチカラのある作品だった。

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    2025/10/05 13:03

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