タンゴ-TANGO- 公演情報 Bunkamura「タンゴ-TANGO-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「タンゴ」感想
    以下にネタバレの感想を書かせて頂きました。
    役者さんたちが全員恐ろしく達者で、とてもおもしろかったです。

    ネタバレBOX

     「家族」を国家に見立てて、一見喜劇風に見せつつも、非常に社会的かつ批判的な闘争劇のように見えました。ラストは、疲弊しきった自由社会や、その後のアナーキズムは、理想主義や形式主義を押しのけファシズムに傾倒していく…という冷たくも激しい批判的精神に満ちた終わり方でした。
     前半は、反抗期の独りよがりで夢見がちな息子を中心にした、滑稽で切ない家族の物語として入り込めました。少し退屈になりそうな論理合戦や、棺桶台に寝かされる祖母のシュールなシーンなども、登場人物達のエネルギッシュな喜劇性により、楽しく見ることが出来ました。
    「老いている」。…この家族(社会)は全体的に「老いている」「古くなっている」「静かに腐っている」…そう思わせる描写が秀逸で、しかし、それが不快には見えません。高度成長期を終え、さまざまなことが停滞している現代日本に少し通じるところもあるかもしれません。
    アルトゥルの家庭は、確かに旧時代の残骸かもしれませんが、何故かとても魅力的でした。魅力的すぎたといっていい。後半に、もっと畳みかけるようにこの演劇の批判的精神を盛り込むには、堕落しきった家庭をもっと陰鬱に見せた方がよかったかもしれません。でもそうすると1時間40分は退屈すぎるかも。
    この悲しい演劇を喜劇に見せたいという長塚演出の心意気はよいと思いました。喜劇とシリアスのバランスは、結構うまく取れていたのではないでしょうか。
    特に吉田鋼太郎氏の身体を張った演技は素晴らしく、滑稽で愛おしい感じがします。タンゴという踊りが発生当時は「いかがわしく官能的なもの」と見られがちだったこと、それ故に自由の象徴として大流行したとの話をパンフで読みますと、ストーミルが為した過去の栄光を象徴・体現するようでよかったと思います。
     また森山氏演じるアルトゥルの膨大なセリフも、青年特有の甘酸っぱい主張として強く胸に響きました。
     後半はガラリと色を変えます。途端に「家族」の色がそげ落ち、前半にあった生き生きとした個々の魅力がなくなり、家族の一人ひとりが何かの比喩としての人形(ひとがた)のように感じられます。
    祖母は殺される前に窮屈な世の中から自ら去り、父は自分だけの世界に引きこもり、母は男たちに翻弄されつつも自分は自分の意志で行動していると信じている。美しき女は社会よりも愛されることのみを考え、祖母の弟は、いつしか主であったアルトゥルを超えて実質的な権力を加速させ、アルトゥルを絶望の淵へ落とす。
     観客は、従兄アラの無邪気さと率直さと美しさに大変癒されながらも、いつのまにか理想は武力によって倒され、人々はそれを止めようともしない…むしろ、率先してタンゴを踊り始める…という過程を見せつけられます。
     笑いながら見ていたら、いつのまにか一人ほの暗い場所に立っていた…そのような、少しホラーのような匂いも感じる素晴らしい演劇でした。
     ただ、今の日本ではファシズムの恐怖というものが戦争を体験したにもかかわらずいまいちなじみ薄く、大きな共感を寄せるというよりも、「外国らしい翻訳劇だな」という気持ちを拭いされなかった気がします。
    長塚さん、もっともっと日本風にアレンジして尖ってもよかったのではないでしょうか。
     それから、評価の高い前衛的な舞台美術ですが、歌舞伎すぎて私はあまり斬新に感じられなかったことが残念でした。動きのある舞台美術は斬新かもしれませんが、閉そく感を出すためにもっとかっちりしたものの方がよかったのではないかと思いました。
    長塚さんが演出家を超えた舞台装置の一つとなって名演されていましたが、観客は彼の存在は何かと過剰に考えしまう。するとかえって主題がぼやけてしまったような気がします。

     しかしながら、とても面白く幾通りの解釈もでき、社会劇にも風刺劇にも見えるし、ホームコメディとして軽く見ることだってできる。素晴らしい可能性を秘めた新しい演劇の試みだと感嘆致しました。
    見てよかったです。

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    2010/11/10 20:43

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