いつかの森へ 公演情報 海市工房「いつかの森へ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    しくしくと泣かされる
    毎回のことだが、海市工房の芝居はしっとりと優しいながらも人間の奥にしまい込んだ誰にも触れさせたくない感受性をつんつんと尖った破片で突かれるような感覚になる。人は何のために生まれてきたのか、どこに向かって歩いていくのか、人と繋がりあうとはどういうことなのか、時にはいつかの森に逃げ込んでしまいたくもなる・・。そんな迷ってしまった私を誰か迎えに来てくれるでしょうか?そういった心理を追求した作品だった。

    以下はネタばれBOXにて。。

    ネタバレBOX

    三人の兄弟の母親・加代子は幼児誘拐殺人容疑がかかったが、証拠不十分のために釈放された限りなく黒に近い女だった。その娘・珠恵と次女の麻子、長男の圭太郎を残したまま、家を出て行った加代子は孤独な中、ついに亡くなった。ある日、死亡通知でそのことを知らされた圭太郎は母の記憶を紐解きながら、同時に珠恵と麻子にとっても苦い過去が炙り出される。

    現在、父親の跡を次いで美容院を経営する珠恵はそんな母親の過去に翻弄されながらも母が殺したかもしれない子の兄・松島修一との不倫にも悩む。

    一方で麻子も訳あり不倫をしながらも珠恵の子として育てられた自分の子・花と不倫相手の男との三人の家族を作ろうともがく。自分は誰にも繋がってないという不安から家族を欲しがる麻子だった。

    もう一方で娘を亡くしたクリーニング屋の妻は娘は生きてるものと思い込み未だに狂ったままだ。美容院の大家は放火を繰り返し時々呆ける。

    ここに登場する人たち全てがぐるぐると同じところを回っているだけの迷える子羊だ。珠恵を愛してしまった修一も自分の家族を捨てて珠恵の元へ来るという。これを阻止する珠恵。「僕たちの人生は何だったんでしょうね、何のために生まれてきたのでしょう?」と苦悩しながらも訴える修一。物語は珠恵を軸に傷ついたそれぞれの人たちの弱みに染み入るように優しく接する人間の本質を描く。

    時には秘密の森に逃げ込んでこの世で起こっている混沌を浄化させるように描きながらも人間の怖さとやさしさを表現した海市の世界はやはり泣ける秀作だった。

    特に珠恵と次女の麻子を対比させる性格設定、圭太郎の静かなる芯の強さ、花の悩める女子高校生の設定も絶妙だった。キャラクターの立ち上がりも確かな地盤があり登場人物の幅広い年齢も老若男女が受け入れられる要素かと思う。

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    2010/10/28 11:41

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