蟹工船 公演情報 劇団俳優難民組合「蟹工船」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    今の時代に、プロレタリア文学として有名な「蟹工船」(1929年出版)をどのような観点で描くのか興味があった。この小説は ずいぶん前、たぶん高校生の時に読んだと思う。フライヤーに「歴史的文学に挑む、ハイナン渾身の新作!」とあり、内容的には ほぼ原作通りのようだ。ただ、物語の中で ある場面を強調することで、昭和100年 戦後80年の背景が浮かび上がる。特定の金持ちが蟹漁の競争をする、それは領海を超えてといった欲が政府(国)を巻き込んでいく。漁場の確保=領土拡大へ、それが戦争に繋がるよう。そこに劇団 俳優難民組合の独創性を感じる。

    本作は、「蟹工船」という閉鎖された状況下で、劣悪な労働を強いらされた労働者が団結して…そんな内容である。フライヤーにある「おぃ、地獄さぃぐんだで」は、「蟹工船」そのものであり、その船底は労働者の溜まり場(通称=糞壺)。物語は 特定の主人公がいるわけではなく、酷使される貧しい労働者という群像。そこでの会話は労働者の愚痴、憤り、怒りといった本音。それを役者は、板に座り低い位置で俯き加減で朴訥に喋る。しかも方言交じりだから聞き取りにくい。リアルを追求した表現(演技)だが、労働者の本音が解らないのは惜しい。かと言って、監督者が目を光らせており、声高ましてや激昂など出来ない。しかし、この場面だけでも工夫が必要だと思う。蟹の漁獲や缶詰加工などの 作業中の台詞はしっかり聞こえるが…。

    ウエストエンドスタジオでの上演が良い。地下 劇場で周りはコンクリートが剥き出し。そこへ蟹工船の母船を作り出す。天井には水揚げされた蟹網。蟹漁の労働者だけではなく、船の料理人も忙しい。劇場の階段の上り下りが その過重労働を現わしている。勿論、船長や船医といった乗組員も非人道的な扱いを受けている。労働問題は いつの時代にも課題を孕み、この過重労働は 後々 別の労働形態で過労死を生じさせ、今またハラスメントという問題が…。
    謳い文句にある「歴史的文学に挑む」は、過去の過酷な労働と それに対する抗議行動、それを芝居として生々しく演じ、リアルな群衆を描き出した好作品。
    (上演時間2時間10分 途中休憩10分 計2時間20分)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、中央に階段状の作業台や帆柱、天井には網籠に入った蟹(発泡スチロール?)、正面上部に操舵室で、蟹工船内をリアルに再現している。上演すると網籠を降ろし他の籠に移し変え 缶詰加工の作業をする。

    昭和初期、オホーツク海で蟹を獲り缶詰に加工する蟹工船、船主は 乗組員たちに過酷な労働を強いて暴利を貪っていた。人権を無視し、不衛生な環境・長時間労働を強制する現場監督、その状況を緊張感と臨場感をもって描き出す。この「資本と労働」という普遍的なテーマを書いた小説を、生身の役者によって見事に舞台化した力作。群衆劇であるから、主人公たる労働者1人ひとりの背景なり性格は詳しく描かれていない。しかし、未組織の労働者が 資本家に対峙する1つの集団(団結)を形成するためには、もう少し個々の人物像を立ち上げて、小説(文字)とは違った醍醐味を味わわせて欲しかった。

    人権の剝奪は、船底(糞壺)で語られる。例えば、鉄道敷設や炭鉱等でも行われており、色んな現場で労働者が虐げられていると。この酷い話が、問題の深刻さと広がりを思わせる。一方 監督像は資本の象徴であり、見て見ぬふりの船長や船医は日和見主義者を分かり易く立ち上げている。人物(像)造形において、何となく濃淡があったように思えた。

    演出は、波や風(特に暴風雨)の音で海上を容易に連想させる。その逃げ場のない 閉鎖された世界にいることが不安と恐怖を煽る。また監督者がバケツを棍棒で叩く音が場内に響きわたり、それだけで威圧された気になる。今から約100年前のリアルな情景を眼前で観た ような気がする。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2025/08/08 11:07

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