ピーピング・トム『ヴァンデンブランデン通り32番地』 公演情報 世田谷パブリックシアター「ピーピング・トム『ヴァンデンブランデン通り32番地』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    地の果てで、押し殺された欲望たちのダンス
    バラックのような建物と雪、暗い空、作り込まれた舞台装置。
    そこは、閉塞感のみが支配する。

    ダンスであり、(ある意味)無言劇であり、音楽劇でもある。
    次々とわき上がるイメージの世界が広がる。

    ネタバレBOX

    雪に閉ざされた最果ての土地に住む人々がいる。
    ヨーロッパ人、アジア人など多彩な人が暮らす。

    絶えず吹き荒ぶ風が、観客までも凍らせる。
    世界の果てのようなこの場所にふさわしい陰鬱さが支配している。
    雪や人間関係からくる閉塞感が支配する場所でもある。

    しかし、そこにも人は生きている。
    窓に明かりが灯れば、暖かい光が溢れ出す。

    その光の中にいる人たちは、この閉じられた世界(空間・共同生活・集落)にあり、避けて通れない人間関係が繰り広げられる。

    アジアの青年を惑わす妊婦。
    一見仲のよいカップルに見える2人の男女。
    妊婦は、このカップルの男性にも近づく。
    カップルの女性に起こる不信感。
    そして、カップルの間のDV。
    アジア人の男性2人の様子も怪しい。
    彼らを泊めている中年の女性は、彼らのことにいちいち首を突っ込む(キツネらしき小動物を首に巻き、手に猛禽類らしき鳥を持つ姿は凄まじいけど・笑)。

    姿の見えぬ、何かに怯えながら、雪に閉ざされた空間に抑圧され、だからこそ余計に欲望が、彼らの頭の中や心の中に沸々とわき上がる。
    冷たい世界と裏腹に、熱い欲望はドロドロとしている。
    それらが、舞台の上に溢れ出す。しかし、それらは実際にそこで行われているというよりは、彼らの想像の産物ではないのだろうか。
    そうした彼らの頭の中を見せていく。

    その様子は、恐ろしく、おぞましいのもでありながら、どこかユーモアもある。ユーモアと呼ぶには、あまりにも乾いていて背中には暗さがつきまとうのだが。

    この作品は映画『楢山節考』からインスピレーションを得たと言う。動物的本能と土着の因習とを描いたその映画との接点はいくつかあろう。
    中でも、「動物」という点で見るととすれば、冒頭で足元で蠢く動物のようなもの、そして、家の縁の下で泣く小動物(鳥?)を雪に埋めるシーンが、動物的本能(つまり『楢山節考』で描かれていた世界観)を雪という概念によって、押し殺している、というこの世界(つまり現代)の状況を示していたのではないだろうか。

    『楢山節考』では、本能が白日の下に晒されていたのだが、現代では地の果てと言えども、そうした欲望は、押し殺し、心の中だけで燃やしているのだ。

    閉塞感には終わりはなく、欲望も満たされることなく舞台は終了する。
    それがこれからも延々と続くのだ。

    それにしても、出演者の身体的能力の高さには驚かされる。
    なにげなく行われているのだが、恐ろしく凄いのだ。
    また、女性が浪々と歌う、歌が素晴らしい。物語をさら膨らませてくれるようだ。

    また、音楽も素晴らしい。ベルギーと言えば、Univers Zeroのようなチェンバー系やX-Legged Sallyのようなアバンギャルドなバンドをすぐに思い浮かべることができるのだが、それらを彷彿とさせるような、画の見える音楽が効果的に仕様されていたと思う。

    0

    2010/10/26 08:03

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大