kaguya 公演情報 まぼろしのくに「kaguya」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    日本最古の物語『竹取物語』を下敷きに据えつつ、しかし単なる月の昔話の再現にはとどまらず、宇宙から現代を望遠する新たな“かぐや”の物語が生まれていた。

    ネタバレBOX

    舞台はかぐや姫所縁の奈良ではなく、隣の三重。そこに日本最古の歴史を持つ家具屋がある。その「かぐや」一家は、一族が「かぐや姫の末裔」だと信じてやまない。そのせいか、周囲からはオカルト一家として周知されている。そこで暮らす15歳の少年・ノゾム(二瓶大河)の夢は月に還ったとされる先祖のかぐや姫が実存するのか確かめることであった。ノゾムは自作の望遠鏡で夜な夜な月を覗く。

    アダムスファミリー顔負けの白塗り、デコラティブな衣装、ユーモラスな美術など視覚的に追いたくなるようなアングラ的仕掛けが随所に施されており、そのことが劇の内部とどう繋がっているのかを考えながら観る楽しさがあった。
    俳優のキャラクター造形の豊かさやその豊かさを生き生きと表現する俳優陣のプレイフルな芝居も含め、風景として飽きさせないシーンの連なりに興味をそそられた。

    かぐやを家具屋へ、かぐや姫を少年へ、竹取の竹は宇宙望遠鏡へと変換させながら、中盤くらいまでは正直なところ何が何だかわからぬファンタジーとオカルトが手を繋ぎあったような世界観でストーリーが爆進していく。
    空想とも妄想ともとれるようなふんわりとしたやりとり、混沌と混沌のその継ぎ目に時折意味深なセリフが差し込まれるも、その全貌や核心がなかなか見えてこない。観客をスペクタクルな世界へと誘いながらも、ある意味では放置しているような清々しさがありつつ、やはりもう少しストーリーラインを追った上で本作のセリフやシーンを噛み締めたいという衝動にも駆られた。登場人物たちの脳内を遊泳するような感覚に陥ることはできたが、そこからの広がりについては決め手に欠ける部分があった。リリカルなセリフ選びや、その中に施された言葉遊びなど、特徴的なテキストが目立ち、1センテンスに放たれる言葉の輝きに思わず前のめりになる瞬間もあったからこそ、そこが一つのところへと集積して行く「うねり」をつい期待してしまった点もあると思う。

    しかし、「うねり」が全くないわけではない。物語の終盤である「カルト事件」と「銃撃事件」が浮かび上がり、現実に起きている問題に望遠の焦点が当てられ始めてからは、風景が一気に反転していくような体感がたしかにあった。これまで闇雲に紡がれていたと思っていたシーンが一気に生々しく襲ってくるような。そんな心持ちである。
    誰かにとっての切実を容易に妄想と判断するときに失われるもの。
    遠くにあるものを見つめすぎて、近くにあるものがぼやけること。
    ラストにかけて痛々しく疾走していく現実の走馬灯を前に、この物語はそこに手を伸ばしていたのかもしれないと感じたりもした。

    煌びやかな装飾に反して、俳優陣の芝居が緻密であったことも特筆したい。とりわけkaguyaを演じた高畑亜実の沈黙の表情、言葉を言い終えた瞬間の眼差しが印象に残り、観劇中も思わずその姿を目で追ってしまった。
    スペクタルな想像の世界に見せかけて、その実焦点は超現実に当てられていたこと。観劇後すぐにその実感には辿り着けずとも、帰路の中で振り返る毎にあらゆるシーンの別の触感を感じるような余韻があった。この物語を経て、今後劇団が展開するビジョンにも関心が強まる観劇となった。

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    2025/07/01 01:25

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