公演情報
カプセル兵団「北欧神話の世界」の観てきた!クチコミとコメント
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/06/21 (土) 17:00
カプセル兵団のベテラン実力派声優や中堅で味のある声優、若手で印象に残る声優などの男女の声優や役者が混ざり合い、更に毎回の如く恒例化しているゲストまで呼んでの、内容は毎回基本的には世界各国にある神話等を朗読する朗読劇ということで、私は過去にも何度かカプセル兵団の朗読劇を観たことがあるが、基本的に大いに笑えて、コンプラもクソもない発言が次々飛び出す自由さや、それぞれの神々や英雄、王、庶民等の登場人物の性格がしっかりと立っていて、また演じている声優や俳優たちによるアドリブや思い付きの小ネタ、一発ギャグも満載で、いつも神話を気軽に、肩の力を抜いて楽しめるところが、神話だからといって観客に集中して、常に緊迫感を伴うような朗読劇に仕立てていないところに、親しみやすさを感じていた。
今回、カプセル兵団が朗読劇に選んだのは『北欧神話の世界 アスガルドの神々』ということで、8年ぶりの再演だと言う。
しかも、今までのギリシア神話や中国神話以上に、またキリスト教の聖典『聖書』やイスラム教の聖典『コーラン』、インド神話の神々や仏教に出てくる観音や仏やブッダ、マヤ、アステカ、インカ神話、密教、エジプト神話、ケルト神話、トルストイの民話、ネイティブアメリカンの神話、イヌイットの神話、アボリジニの神話、シュメール神話、アフリカの土着信仰、ハイチのブードゥー教神話、そして日本神話に匹敵する程の知名度を誇り、アニメや映画、ドラマ、最近流行りの異世界転生ものの小説、漫画、演劇、幻想文学、ゲーム等において幅広く北欧神話は使われており、各分野において引っ張りだこで、北欧神話に出てくる神々等を1人も知らない人はいないと言っても過言ではないほど、目にしたり、耳にする事が当たり前すぎて、何の違和感も感じない程に、私達の中にすっかり浸透している。
北欧神話の中でも有名過ぎるが、傲慢で非常に我儘、冷徹で非常に冷酷、例え肉親、親や兄弟だとしても目的の為なら殺すことさえ躊躇しない、手段を選ばず、卑怯な手だって厭わない、騙すことに対して臆することが無い、温かみや人情などは欠片もなく、猜疑心が強く、仲間だろうと人間だろうと殆ど信用しない、過去に犯した過ちに対しても葛藤や反省の意が認められず、巨人や小人、人間を露骨に見下し、下に見ており(因みに北欧神話において、巨人や小人、人間等を下に見て蔑んでいるのは、基本的に神々全体としてそう)、更にどこか家父長的で、独裁的、大抵の場合魔法使いの老人のような不気味な姿で描かれる最強最悪の神オーディン、MAVER漫画や映画で有名な『マイティ·ソー』の元になった超有名人で怒りっぽく、すぐ武力で解決しようとするトール、その弟でお調子者で抜け目なく、こズルく、狡賢い、策士で同じくMAVERで有名なロキ、得体が知れず、その存在自体が恐怖でしかない大蛇のヨルムンガンド、フェンリル、冥界に君臨する神々でさえ逆らえない死を司る闇の女神ヘル、また神々1のアイドル女神のフレイヤ(但し赤ら様に醜いものに嫌悪感を覚え、神々の中でも1、2を争う程に巨人や小人を毛嫌いし、露骨に見下している。また、小人たちが造っていたブリージングの金の首飾り欲しさに、その欲望に負けて、4人の小人たちと、1日1夜、夜を共にしなければならないという条件を丸呑みしてしまったりと、強欲さと軽さ、性格の悪さを併せ持っている。但し、外面だけは良く、お洒落に気を使い、損得勘定で動く。しかし、フレイヤに関するエピソードのどこにも共感出来ず、人間味のなさが際立っていた)、それを噛じれば永遠に歳を取ることなく永久に生きることが出来るイドゥンの林檎のエピソードで有名な女神のイドゥン等、余りにも有名でアクが強く個性的で、超人的な能力を持つが、絶対的な存在感があり、一切共感することが出来ない登場人物たちが多く登場したが(中には共感しやすい巨人や人間等も数少ないけれども出てくる)、こういった登場人物たちを、今回声優やゲストの方がどういう風に演じるのだろうと、非常に興味深かった。
実際観てみると、カプセル兵団のいつもの朗読劇と同じく、声優やゲストの方の衣装は私服で、アドリブあり、コンプラ無視の発言、無茶振りあり、思い付きの小ネタや一発芸あり、ネタが滑り過ぎてもはや痛い感じにしか見えないのに、度胸と勢い、その場鎬で何とかこの場を乗り切ろうとする必死過ぎるロキ役ゲストの池田航さんなど、ある意味印象に残った。
しかし良い意味で、私が今までイメージしていた非常に美しく、幻想怪奇的で、ハイファンタジーな世界観、ユグドラシル(世界樹)のエピソードやイドゥンの林檎など北欧神話の核となるエピソードを抑え、高圧的で威嚇的、厳格で格調高く、どこか植民地主義的で、独裁的、傲慢で猜疑心が強く、家父長的で自分たち以外の種族を蔑み、下に見ており、人間味のない神々(全員ではないが)といった北欧神話のイメージは、朗読劇で声優やゲストの方が演じており、確かに元々の北欧神話よりかは大分堅苦しくなく、気軽に、時々笑えるようにはなっており、多少北欧神話のイメージを変えてはいたが、そうは言っても朗読劇全体としては、私がイメージしていた北欧神話のイメージ通りだった。
また、北欧神話のいつか神も人もこの世に生を受ける何もかも滅び、この世界は1から再生されるという、まさに中二病的な終末論、今で言うところの陰謀論的な部分もしっかりと真面目に取り組んでおり、楽しめた。
しかし、邪神や怪物、巨人や小人と神々、人同士が争い、戦い一旦は滅亡するという構図が、中二病的と一蹴して笑える程、実際に私達が生きているこの世界が到底平和とは言えず、世界各地では、ロシアによるウクライナ侵攻、ミャンマー紛争、ガザのハマスとイスラエルによる民間人を巻き込んだ紛争、アフリカ諸国での絶えない紛争、地球温暖化による異常気象、密猟などが起こっており、北欧神話の在り方がただのフィクションとも言えない状況となってきていることに気付き、ゾッと寒くなった。
但し、北欧神話の朗読劇の最後では全てが滅びたあとに、僅かに生き残ったオーディンの子どもたちや一組だけ辛うじて生き残った人間の男女などを中心に、質素で貧しく、先行きが見通せない絶望的な世界ながらも、一歩を踏み出そうと努力する姿勢に心打たれ、そこに現実はどうか分からないが、少なくとも劇の中では希望を見出すことができた。