wowの熱 公演情報 南極「 wowの熱」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    メンバー全員が本人役として出演、オール劇団員キャストで送るSFメタフィクション。

    ネタバレBOX

    一人ずつがその名を呼ばれ、客席後方より舞台へと上がっていく冒頭の“登板”から、本作の役や物語が現実に侵食していく様を描いたクライマックス、そして、劇団や演劇、俳優そのものの当事者性を問うラストに至るまで、一貫して現実と虚構の横断を生々しい“熱”を以て描き切った意欲作。それらを全員野球ならぬ全員演劇によって力強く叶えた作品であった。

    一人ひとりの粒立った個性と存在感を明示するかのような連作コントを経てから『wowの熱』といった物語(すなわち本題)に突入する、という構成も会場の“熱”を高める上で効果的に機能しており、さらにはその連作コントで散りばめられたあらゆる伏線が後々本題の中で回収される、という鮮やかな連結にも作家、俳優、そして劇団そのものの表現力が光っていたように思う。
    また、当日パンフレットの文字の大きさが非常に見やすく、かつひと目でキャストの名前、配役、そして顔写真によってそれらが一次情報のみで照合できるように作られている点も素晴らしい。
    「スマホで調べたらわかる」と言われたらそこでおしまいだが、それが困難な観客も中にはいる。また、「素敵な俳優やスタッフに出会った時にその名前を覚えて帰りたい」という観客の気持ちやライブ性に寄り添った工夫も評価の一つに値する。

    平熱が45度を越える中学生・ワオ(端栞里)を中心に繰り広げられるSF青春劇のパートでは、SF超大作を下敷きにテクノロジーの暴走を描いた『(あたらしい)ジュラシックパーク』や、恐竜の絶滅をテーマに青春の終焉と世界の終末をともに立ち上げた『バード・バーダー・バーデスト』などの過去作で確立した手法や見せ方が首尾良く活用されており、一つの作品として遜色のない独自の世界観に仕上がっていた。

    しかし、私が最も心を打たれたのは、その終着点の見えかけているファンタジーにあえて切り込みを入れ、そこから先のまだ見ぬ冒険と挑戦に乗り出した点であった。
    人と違う特性を持つワオやチャーミングなキャラクターたちの関わりや寄り添いを通じ、多様性や他者理解といった今日性を忍ばせながら、愛らしく切ない青春群像劇として完結させることもできたであろうところに「待った!」をかけ、文字通りその上演を舞台上で一度中止させることで本作はメタ演劇へと舵を切っていく。
    そこから描かれるのは、『wowの熱』という公演がワオ役の端栞里の発熱によって中止となった後の世界線。スタッフをも舞台に上がる演出や劇団が赤字回収に悩む様子、メンバー同士のやりとりなどの“バックヤード”のリアルな側面を見せつつも、「だから劇団って大変なんです」といったある種のナルシズムな展開や結末を辿るのではなく、突然変異的に登場人物に俳優が、演劇に日常が侵食されるといったもう一つのSF展開を用意することで、物語や演劇を未知の領域へと飛躍させていた。そんないくつもの入れ子構造によって観客を鮮やかに裏切り、想像以上の世界へと誘っていた点に私は劇団の発展力を確認したのである。

    そして、何よりその複雑な劇世界を劇団員フルキャストだからこそ叶えられる一体感と連携を以てして実現させていたこと。それでいて「身内ネタ」や「身内ノリ」に終始せず、そのマジカルなまでのグルーヴに観客をも取り込み、舞台と客席を越境し、相乗した熱気を生んでいたこと。それこそが本作の最たる個性と魅力であったのではないだろうか。それらは演出や演技といった劇の内側だけでなく、手づくり感の溢れる美術や小道具などの外側にも発揮され、細部に渡って抜かりがなかった。南極の持ち味である、群を抜いたデザイン力の高さを以てハード・ソフト面ともにますますの磨きをかけた力作。今後、南極という劇団がどう変化していくのか。本作に立ち会った観客がそんな待望を抱くに十分な作品であったと思う。

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    2025/06/15 01:36

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