牧神の星 公演情報 劇団UZ「牧神の星」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    新たな場所がひらく。アトリエhaco前からながめた愛媛の街並みは、記憶に残る一枚となった。

    ネタバレBOX

    柿落としとなるアトリエhacoは、2024年8月に閉館した「シアターねこ」閉館を受けて、劇団UZのメンバーらによって立ち上げられた場所です。「シアターねこ」が四国・愛媛の小劇場の力強い拠点であり、UZの公演場所でもあったことで、演劇を続けるために稽古場として利用していた倉庫をhacoとして生まれ変わらせました。こうした新たな場所と、劇団/劇団員が苦悩する作品が重なり、現実とフィクションが層のように編まれていきます。

    戦争と、それを演じる劇団員たち。虚構と現実を行き来する登場人物たちは、さらにそれを観る観客の現実とも呼応していきます。
    自分たちの身近なところから手探る戦争や、演劇を続けることの身近な課題が描かれていますが、内輪に閉じてはしまわない。脚本は、現代のさまざまな社会問題や、未来の行く末など、多重な要素を地続きに描いていました。全編通して力強いこともあり盛りだくさんな印象もあるので、もうすこし力を抜くと見やすいようにも思いはしますが、むしろつねに高密度なことが切実さでもありました。その骨太な2時間を体現する、俳優の力強さに圧倒されました。
    ラスト、チェーホフ『三人姉妹』を思わせるような女性3名の喪失と未来へのまなざしと抱擁。そこで一言発された生活に根差した台詞に、ブレのない、生きて演劇をいとなむことの実感があるように感じます。まだ不確定な未来を共にまなざすことができた気がする一瞬でした。

    劇場外では、近隣の飲食店による出店、四国の様々な公演のチラシの展示や、舞台感想会の実施など、UZや演劇関係だけにとどまらないいろんな取り組みが開催されていました。
    またチケット代金には、県外在住者割引、UZ割引(失業や休業、離職など何らかの理由で「観劇したいけど…」という方のための割引)などが設定されています。とくに県外在住者については、利用者も多いのでしょう。県外ナンバーの車を何台か見かけました。終演後には、シアターねこの閉館を惜しみ、アトリエhacoの門出を応援する人々の姿が。みなさんが他県から訪れ顔を合わせる様子に、場を持つことの希望を感じました。
    hacoは山に入ったところの倉庫のため、劇場のような環境が整っているわけではありません。会場に辿り着くまでの道は整備された道路とはいえ狭い坂道で、展望台に行く人が迷い混むこともあるとか。トイレは自分でペットボトルから水を流すスタイルだし、倉庫内の気温調節は至難の業でした(夜は寒いと聞いていたが、まさかの昼が激暑でした)。しかし事前の案内や、トイレの備品などにはさまざまな配慮を感じます。
    負荷のある環境ですが、まだ道は始まったばかり。「劇団公演」という言葉をこえて、この地にアゴラを作っていく過程に同席する機会をいただけたこと、ありがとうございます。

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    2025/06/05 08:32

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