トランス 公演情報 表現ユニットえんぶる「トランス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2025/05/17 (土) 18:00

     フリーライターで解離性同一症に悩む立原雅人、その立原を患者として相手する精神科医の紅谷礼子、ゲイバーに勤め、ひょんなことから立原に付き添い、時に励ます後藤参三、この3人の再開を基軸に、解離性同一症の立原を通常生活が遅れる程度に復帰させる話かと途中まではそういうふうな感じで話が進む。
     しかし途中から、果たして立原が解離性同一症だったのか、患者は実は自身を精神科医と思っているだけの紅谷やゲイバーに勤めて、甲斐甲斐しく立原に付き添い、時に励ましていると思っている後藤なのかもしれないという疑惑が劇の終盤にかけて強くなってくる。
     そもそも3人の職業も、それぞれ本当にその職業で合っていたのかどうかさえ、あやふやになってくる。
     劇の終盤、3人それぞれのアイデンティティーが崩れ去り、確固たる自分が無くなり、妄想と真実の境界の線引きが非常に曖昧になっていくといった終わり方が、非常に現代でも通用する内容だと感じた。
     現代社会では、生き辛さや孤独を抱え、没個性化し、他人が見えづらくなって久しいこの頃、更に不穏で世知辛い世の中だからこそ、この劇は、今の人たちの精神を体現していると感じた。
     他人事でなく、今の私たち一人一人が解離性同一症か、そこまではっきりした精神病でないまでも、多かれ少なかれ、今回の劇に出てくる登場人物たちのように悩みを一人で抱え込む人が多いのではないかと感じた。

     今回の作品『トランス』は、現代演劇を代表する寺山修司や唐十郎と鈴木忠志、佐藤信、別役実や清水邦夫、岸田理生やつかこうへいといった人たちよりかは後の鴻上尚史の作品だが、良い意味で全然古びず、古典化せず、取っつきづらくなく、元の脚本を読んでなくても、大いに笑い、十分楽しむことができた。
     また、今の時代でも、時代とか関係なく刺さる話だと感じた。
     勿論、演出家の上田裕之さんの演出力、役者の演技力あってこその作品だとは思うが。
     役者の演技力や白熱した感じと静かに淡々と独白を語りだす場面との自然な使い分け、さり気なく笑える場面を導入するなど、演技力において熟練しており、目を見張るものがあった。
     
     閉鎖された精神病院の中や精神病院の屋上、アパートの中などの狭くてじめっとして、居心地の悪さや不気味さ、不穏さをも感じさせるのに、前橋市にある芸術文化れんが蔵はという空間は、劇の世界観に観客を引き込むことにおいて、普通の小劇場より適しており、空間を上手く使いこなしていると感じ、感心させられてしまった。

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    2025/05/21 02:16

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