彼女たちの断片 公演情報 東京演劇アンサンブル「彼女たちの断片」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    話の流れが整理され過ぎていて初演の方が良かったような気もするが、演劇はナマモノ。水のように形を変えて生き延びるのが必定。初演時、ボロボロ泣いた記憶があった。永野愛理さんの酔って意に沿わぬ性交を強いられた話から一気に物語は核心へと進む。自分が自分であり続ける為に戦い守らなければならないもの。作家・石原燃さんは産むも堕ろすもその身体の持ち主の自由だ、と叫ぶ。他の何の概念も全く介入出来ない。その身体の持ち主こそが決定すべき自由。女達よ、生まれながらにお前達は自由だ。誰の話にも耳を貸すことはない。決定権はお前にこそある。
    わたしの身体はわたしのもの。

    本当にもう一度観ようとチケットを確認した程良かった。

    中絶、堕胎は悪いことじゃない。決して恥ずかしいことじゃない。当然な女性の持つ権利だ。作家の叫びは強く、この作品の持つ意味は大きい。家父長制とは自分の心の中に住み着くブラックボックス。“伝統”という言葉を掲げ、日本人の精神文化を守り継承していく名目で数々の理不尽がまかり通っている。大事なものを守る為に筋の通らない歪んだ思想まで守る必要はない。

    ネタバレBOX

    初演(2022年)との配役の違い。
    山﨑智子さん→永野愛理さん
    永野愛理さん→林亜里子さん
    仙石貴久江さん→彦坂紗里奈さん

    大学生の彦坂紗里奈さんが妊娠。相談に乗った友達の林亜里子さんがネットで調べてカナダの「中絶薬」の存在を知る。購入するにはクレジットカードが必要なので母親のグラフィックデザイナー事務所で働く永野愛理さんにお願いする。永野愛理さんは「女性解放運動」のツイートをよくしていて信用できる人だと思っていたからだ。薬を飲んで堕胎するには安心して過ごせる場所も必要。同じく事務所の同僚、洪美玉(ほん・みお)さんの一軒家を借りることに。彼女は日仏翻訳家の母親(志賀澤子さん)と二人暮らしだった。いよいよという時、林亜里子さんの母親(原口久美子さん)が突然家に乗り込んで来る。事務所代表の彼女は娘の妊娠を疑っていた。駅前にある志賀澤子さん行きつけの喫茶店店員、奈須弘子さんも丁度惣菜の定期宅配に訪れる。

    林亜里子さんが母親である原口久美子さんには心を開けず何でも秘密にしてしまう。自分よりも他人である事務所の同僚を信用して相談していることが母には納得いかない。このリアルな家族の心情が今作の隠し味。

    少し不満を言うならば中絶薬を飲んだ彦坂紗里奈さんこそ、この夜の中心に居て欲しい。
    水子供養の陰謀が面白い。当時「ムー」なんかで散々特集されていたのを思い出す。

    1869年堕胎禁止令、1880年堕胎罪=中絶は犯罪であるという意識の植え付け。1948年優生保護法により例外として中絶が認められる。だが国が定める指定医師のみが中絶手術を行えるとした為、その後も経口中絶薬は認可されなかった。1973年アメリカ合衆国最高裁が妊娠中絶手術を禁止することは違憲であると判決。日本ではその流れに逆行して保守派の自民党議員から中絶は「胎児の虐殺」であるとのキャンペーンが張られる。「水子の祟り」、「水子供養」がブームとなり全国に水子地蔵が大量に建立された。

    集団と個人の関係について考える。ある集団に属した時、そこの「普通」とされている価値観に従わざるを得ない感覚。それに異を唱えて「ああ、お前そういう奴なの?」と「差別」されたくないが為、苦笑いで皆に合わせる。同調圧力の苦しみ。家父長制も国レヴェルの同調圧力。そして今日もどこかでネットリンチ、一方的な断罪。晒し上げ過去をほじくり出しての個人攻撃。結局ただの憂さ晴らしでしかない。正義がアップデートされる訳でも何か真実に辿り着く訳でもない。どこまでも無意味。この無意味さこそが人間の歴史の大元。無意味の荒野を女達は黙々と意味の種を撒き耕していかねばならないのか。

    孤独の荒野に咲き誇れ Destiny Rose
    お前に逢えると信じてた

    布袋寅泰「Destiny Rose」

    いつかいつの間にかこの世の半分が悪魔だったとしても
    そんなのに負けるな
    この世生きてきて音に身を浸す そんな時が心綺麗

    浅井健一「Calm Lula」

    0

    2025/05/19 12:44

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大