想像の犠牲 公演情報 Dr. Holiday Laboratory「想像の犠牲」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「創作を批評的に描く試み」

     ソ連の映画監督アンドレイ・タルコフスキーが最後に監督した『サクリファイス』を参照し、創作過程で起きる人間模様を虚構と現実を交えながら描いた意欲作である。

    ネタバレBOX

     アメリカで暮らしている演出家の過去作に出演していた元俳優の土井(油井文寧)と西川(石川朝日)は、『サクリファイス』を鑑賞した演出家が創作した新作戯曲『想像の犠牲』の上演を企画する。稽古場に加藤(佐藤駿)と友人の高木(田崎小春)、ロベール(ロビン・マナバット)が集ったはいいものの、結局本作は上演中止となってしまった。その過程を時系列ではなく現在の時点から振り返りつつ、ランダムに再現して描きながら、メンバーが客席に向けて逐一注釈を加えるというスタイルで劇が進行していく。

     各登場人物たちが座組の面々に意見し合う様子を淡々と、手の動きと軽やかな足取りで紡いでいく身体性は、静けさのなかに激情がトグロを巻く独特のものである。俳優のミニマムな芝居が吉祥寺シアターの空間に負けてしまうきらいはあったが、棒読みのような台詞と表情の薄さは観客一人ひとりにさまざまな憶測を呼んだことと思う。『サクリファイス』への言及もとより石原吉郎の詩の引用が入るなど、稽古場にフィクションが入り込んでじょじょに出演者が取り憑かれていく様子に見応えがあった。強い集中を要する作品であり果たしていま自分はなにを観ているのかという気持ちにもたびたびなったが、作品全体を通した風通しのよい含味は独特のものである。ただラストで出演者が追いかけっこをして互いを車椅子に乗せようとする描写など、やや間延びしている箇所を端折ったほうがよいようにも感じた。

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    2025/05/10 19:59

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