Root Beers-ルートビアーズ- 公演情報 劇団東京ヴォードヴィルショー「Root Beers-ルートビアーズ-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ギラギラした中に一筋の優しさ
    これが東京ヴォードヴィルショー? と思わず言ってしまうほどのハードなタッチだったが、とにかくストーリーが面白いし、何よりキャストのなりきり方が素晴らしい。
    130分の上演時間だったが、集中して観ることができ、とても楽しめた。

    ネタバレBOX

    一見すると、こんなに登場人物が次から次へと出てきて、なんとなくがちゃがゃっしてくるのだが、それが魅力的に活きてくるのだ。「がちゃがちゃ」ではなく「ギラギラ」しているのだ。

    生命力溢れるこのホテルの様子が見事に切り取られたと言っていいだろう。
    ギラギラした中で、強引にでもまとめていく演出の腕の確かさ(強引さ?)を感じた。

    登場人物は、どれも魅力的だ。
    特に、欽次を演じた、まいど豊さんの、2面性の表現は抜群で、狂犬のようなヤクザと妹思いの兄との差は素晴らしいと思った。
    東京ヴォードヴィルショーの本公演では、超個性派揃いの古参勢の中にあって、渋い役どころしか見ていなかっただけに、その姿には新鮮さを見た。

    また、ホテルのオーナー、ジャスミンを演じた高山奈央子さんの、押し出すような迫力と、韓国語を基調にしつつ、英語と、カタコトの日本語の台詞がうまく、実在感を感じた。
    さらに、韓国人の姉弟(金澤貴子さん・黒川薫さん)の2人も、ほぼ韓国語だけの台詞ながら、姉弟の感情を細やかに表現し、実際には何を言っているのかわからないが、その情感はしっかりと伝わり、ぐっときた。
    観客に言葉の内容を伝えたりせずに、その雰囲気と勢いを壊すことなく(字幕や誰かが訳したりすると勢いが削がれるのだ)、あえて韓国語だけで通した演出には拍手を送りたい。

    そして、ヒバリに心を寄せるヤクザを演じた植田裕一さんも、不器用だけど、誠実な男を演じ、印象に残った。

    本間剛さんも、「自分の持っているものは何でも大切にしないと」なんていう憎い台詞があったり、チルを演じた芹沢秀明さんも、欽次に対する友情以上の強い絆を感じさせたりと、他の役者さんたちも、誰もが、印象に深く残る、濃さが素晴らしいと思った。

    KAKUTAの持つ、人間への洞察(時には辛いほどの)、生きることの厳しさと、東京ヴォードヴィルショーが持っている、人間の弱さと強さのようなものが見事にミックスされて、素晴らしい作品になったのだろう。

    また、ルードビアーを飲んで欽次がもとに戻ったと、観客の誰もが思っていた中で、実はそれはウソだったということがわかるラストも粋だと思った。

    「性分」というキーワードが出てきたが、欽次のヤクザなところは、ある意味優しさと不器用さであった。
    一緒に住んでいたときに妹には優しくできなかったのは、それの現れであったのだろう。

    その優しさを知っているからこそ、古い知り合いであるチルは、仕事の前に妹の死を伝えるのだ。欽次が想いを残さずに、暗殺に向かうことができるように。
    それがチルの友人としての優しさだったのかもしれない。

    また、弟のために働きに出るヒバリと、どんな仕事だかわからないのだが、不安を抱え、それを健気に表に出そうとしなかった弟、そして姉弟が互いを思いやる姿には涙を禁じ得なかった。

    ラストで、欽次は、妹がこの世にいないということを知り、自分が守るべき者は、自分を慕う子分たちということと割り切り、彼らのために、もとの自分を演じて死地に向かうという姿、つまり、それがその場所にいる全員への「優しさ」であったというところが、まさに任侠の世界だったと思う。
    欽次は、自らの運命に従うのではなく、自から選択したということなのだ。

    東京ヴォードヴィルショー(京極圭プロデュース)+KAKUTAは、とても面白かった。是非またこの組み合わせを見たいと思った。


    そう言えば、ルードビアーって飲んだことないなぁ。

    0

    2010/10/02 16:16

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大